ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

わたしは、ダニエル・ブレイク

2017-03-17 23:01:09 | わ行

やっぱりケン・ローチはいい!


「わたしは、ダニエル・ブレイク」79点★★★★


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イギリスのある小さな町。

59歳の大工・ダニエル(デイヴ・ジョーンズ)は
仕事中に心臓発作を起こし、
医者から仕事を止められている。

国から雇用支援手当を受けていたが
新年度の面接で、なんと「就労可能、手当中止」とされてしまった。

「仕事ができないのに、これでは収入が途絶えてしまう!」と
役所に掛け合いに行ったものの
たらい回し&複雑な手続きに、あ然。

そんなとき彼は
子どもを連れて苦境に立たされている
シングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)に出会う――。


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常に市井の立場で時代を斬り、弱者に寄り添い、
静かに強く発言する巨匠ケン・ローチ監督。

前作「ジミー、野を駆ける伝説」での引退宣言を撤回して
「まだ、描かなきゃいけない物語がある!」と作ってくれた80歳に、最大の敬意を表します。


今回は切り捨てられていく弱者と、
“現代の見えにくい貧困”がテーマ。

国を超えて、これだけ共感できることが
ホント怖いっていうか、悲しいっていうか
胸に突き刺さります。


まず、今回はいつもよりも
語り口が優しい。

主人公ダニエルは
病気なのに「手当を打ち切る」と一方的な国のやり口に納得いかず
役所に文句を言いに行き、

そこで出会った、自分よりもより困難そうな
若きシングルマザーのケイティに、思わず手を差し伸べるんです。


ダニエルとケイティの子どもたちとの
やりとりもあったかいし

ダニエルのアパートの隣人の若者たちが
見た目、めちゃくちゃワルそうなのに
すっげ気のいい奴らだったり

なんだか、泣けてくるほど、優しい。

しかし。そんな環境にあっても
ダニエルもケイティも
いざというときの助けを求めることが、なかなかできないんですよ。


なぜならば、
人間は尊厳ある生き物だから。

お役所で唯一、ダニエルに人間らしい対応をしてくれる女性が
「正直でまっとうな人がホームレスになるのを何度も見てきたわ」というように
いま「人に迷惑はかけられない」という人たちが
理不尽に苦しめられている。

だからこそ、この世界は真綿で首を絞めるように、
見えにくい貧困や辛さに覆われているのだと
胸が締め付けられるような気持ちになりました。


冒頭、ケイティの家のそばをうろつく三本足の野良犬のように、
この映画は、優しいけど、甘くない。

でも、
だからこそ、そこからの展開が
リアルな希望をもたらしてくれるんだと思います。

監督には、これからも
拳を掲げ続けてほしい。

それを見て、勇気づけられ
続く人が、必ずいますから!


★3/18(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「わたしは、ダニエル・ブレイク」公式サイト
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おとなの事情

2017-03-16 20:49:17 | あ行

「おとなのけんか」
に通じるおもしろさ!


「おとなの事情」80点★★★★


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ある夜。

気心知れた夫婦仲間たちが
医師ロッコ(マルコ・ジャリーニ)夫妻の豪華なアパルトマンに
ホームパーティーをしに集まってくる。

美味しいワインと食事を楽しんでいた彼らだが
ふとしたことから
一人が悪趣味なゲームを提案する。

「ねえ、いまから携帯に届くメールやメッセージをみんなで見せ合わない?
秘密がないなら、見せてもいいでしょ?」

「ああ、やってもいいよ」ということになり
テーブルに全員がスマホを置く。

さあ誰のスマホに、
誰からメールや電話がくるのか――?!


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一夜のホームパーティーを舞台にした
ワンシチュエーションの会話劇。

ポランスキー監督の「おとなのけんか」に通じる、
予想どおりのおもしろさと苦み深み、
そして予想以上の後味が待っていました。


テーブルに全員のスマホを置き、
「さあ誰に誰からメールや電話がくるか(ドキドキ)?!」となり、

「やべ、浮気相手からメールがきちゃった!」なんてのは序の口。
まだまだ“秘密”には上があるんです、という
実に底意地の悪い脚本の妙(笑)

コメディ要素もたっぷりなんだけど
事態がどんどん深刻化し、泥沼化し
シャレにならないどツボにはまっていく様子を
美味しそうなワインとディナー風景と一緒に味わうという
このいやらしい趣向のおもしろさよ!(ワシも相当曲がってるな。笑

「神様の思し召し」のマルコ・ジャリーニ、
「ミラノ、愛に生きる」
ティルダ・スウィントンの娘役が激ハマリだった
アルバ・ロルヴァケルなど
イタリア俳優も結集。


ラストの収拾も
逆に「ゾッと」背筋をなでる寒さで
これはまたこれで、印象深いのです。


やっぱり最近のイタリアンドラマはおもしろい!


★3/18(土)から新宿シネマカリテほか全国順次公開。

「おとなの事情」公式サイト
コメント (2)
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SING/シング

2017-03-12 19:55:40 | さ行

これは楽しい!(笑)


「SING/シング」72点★★★★


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コアラのバスター(声・マシュー・マコノヒー)は
劇場の支配人。

最近は客足が途絶え、
経営に行き詰まっていた。

だが彼は、あるアイデアを思いつく。

一般の人を集めた歌のコンテストを開催し、
うまくいけば人材発掘? スター誕生?的な(笑)

そんな「コンテスト」のチラシを見た
子育てに追われる母ブタ(声・リース・ウィザースプーン)や
パンクロッカーのヤマアラシ(声・スカーレット・ヨハンソン)らが
劇場に集まってくるが――?!


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「ミニオンズ」スタッフによるアニメーション。
これは字幕版で見たかったんですよねー。

だってマシュー・マコノヒー、
リース・ウィザースプーンに
スカヨハが声に参加してるんだもん。

で、やっぱ正解。
リースもさすがだけど、
スカヨハも、多芸というか万能!と驚きます。
ゴリラの若者役、タロン・エガートンもうまかった!

オーディションにやってくる動物たちが歌う
“チラっとだけ”の曲でも
ビートルズバナナラマ、ガガにテイラー・スウィフト、プッチーニのオペラまで、
聴いたことのあるヒットソングが満載で楽しい。
(60曲以上も使用されているんだって!)

ネズミは小さく、キリンはでかい、とスケールも正しく
(「ここが正しくないと、お話の世界に入れない」という方にお会いしたので。笑)
それゆえのおかしみもあり。

歌シーンが小出しで、
「しっかり聴きたい!」と、かなりじらされたり(笑)
「これから!」というタイミングで惨事ハプニングが起こるなど
けっこう容赦ない展開があったり
大人の身でもハラハラ。

お子さん、ついてこられるのかしら。


★3/17(金)から全国で公開。

「SING/シング」公式サイト
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モアナと伝説の海

2017-03-08 23:56:51 | ま行

「モアナ・・・」
吹き替え版のおばあちゃん役、夏木マリさんの声が
けっこう、耳に残ってます。


「モアナと伝説の海」70点★★★★


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南の楽園の島の
村長の娘モアナ(声・屋比久知奈)。

幼いころ、海で不思議な体験をした彼女は
いつか海へ出たいと思いを募らせていた。

だが、村長の父は
「海は危険だ」と禁じる。

しかし、あるときから
島に異変が起こり始める。

モアナはタラおばあちゃん(声・夏木マリ)から
異変の理由を聞き、島を救おうと決意をするが――。


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ディズニーアニメーションの新作。


アナ雪から一転して、明るい南洋の海と島が舞台。

とにかく海や水の描写が美しい!
植物や波など、有機的な素材をのびのびと表現するさまや
母なる女神など、
我らが宮崎駿監督「ポニョ」の影響も感じました。


守られた場所から飛びだし
未来を切り開こうとする少女の冒険と成長のストーリーに
無理がなく
主人公モアナも健康的で魅力的。

特に、幼少時代のベビー・モアナが
激カワイイ!

キューピー人形のほっぺみたいに
ぷにっぷにの質感で。

吹き替えはスムーズで見やすかったけど
やっぱり、歌はオリジナルも
聴きたくなってはしまいますね。

で、とりいそぎ主題歌のオリジナルを聴いたけど
いや全然遜色ない。
てか、かなりハマってる。

モアナ役の沖縄出身・屋比久知奈さん、
すごいですねえ。

「空と海が出会うとこ~ろは~
どれほど~遠いの~」

ほら
レリゴーばりにまわりますよ。


★3/10(金)から全国で公開。

「モアナと伝説の海」公式サイト
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oasis FUJI ROCK FESTIVAL’09

2017-03-05 23:16:41 | あ行

「オアシス:スーパーソニック」とコレを観れば
補完、完了。

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「oasis FUJI ROCK FESTIVAL’09」68点★★★☆


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2009年、7月24日。
オアシス解散の約1ヶ月前、
雨のフジロックで行われた、彼らのライブの完全映像です。

ホントに純正のライブ映像で
歌詞字幕もナシ、舞台裏映像とかもナシ。

「オアシス:スーパーソニック」のドキュメンタリー度に比べると
映画的なおもしろさでは「スーパーソニック」に軍配ですが
2作品セットで観ると
よりおもしろさ倍増。


「スパソニ」ドキュメンタリー以降、ヘビロテで聴いてる身には
よりいっそう嬉しいというか
だって神曲つまってるし!


「20曲、こんなにガチでやったんだ!」という羨望と
まるで「この場にいられた!」かのように
シンクロできて堪能しました。


それに2時間くらいあるライブ中、
ノエルとリアム兄弟、
マジで一度も目を合わさなかった(苦笑)。
どんだけねじれてるんだこの二人!とかね。

いずれにせよ
ファンにとっては永久保存版でしょうね。


★3/4(土)から新宿ピカデリーで期間限定上映。

「oasis FUJI ROCK FESTIVAL’09」公式サイト」
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