ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

汚れたミルク/あるセールスマンの告発

2017-03-03 23:40:55 | や行

「鉄くず拾いの物語」ダニス・タノヴィッチ監督。

「汚れたミルク/あるセールスマンの告発」70点★★★★


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1994年、パキスタン。

新婚の青年アヤン(イムラン・ハシュミ)は
やり手のセールスマン。

巨大グローバル企業に転職し
医師に薬を売り込む
セールスマンとして張り切って働いていた。

だがあるとき、アヤンは知り合いの医師から
彼が売っていた粉ミルクで、ある問題が起こっていることを知らされる。

アヤンが目にしたのは
やせ細った体で死んでいく未熟児たちだった。

いったい、何が起こっているのか――?!

責任を感じたアヤンは
真実を調べ、世に知らせようとするが――?!


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大企業を告発したある男性の
実話をもとにした作品。


冒頭、この映画を撮ろうとする監督やプロデューサーが
アヤンから事情を聞く――というシーンから
ホンモノっぽいんですが

この映画は
ノンフィクションを模したシーンと、再現ドラマを
リアリティを持って混ぜている、という作りです。

ちょっと複雑な構造なんですが
それは扱ってる内容のヤバさ、ゆえだと思う。

大企業を相手にした告発なので、スポンサーが降りてしまい
結局、公開ができず
日本でのこの公開が、世界初となるそうです。


ネスレ社(あ、言っちゃった!笑)の実名はチラッと出るんですが
劇中では「仮名」になってます。


ただ「ザ・告発映画!」という体ではなく
序盤は楽しげですらあったり
事態が動いてからもサスペンスフルな作りで、
かなりエンターテイメントになっている。


さらに、ここがちょっと難しいんですが
刺激的なタイトルだけど
「汚れた」は物理的な意味ではなく
いろんな意味が含まれているってところ。

実際に商品が「汚染されている」のではなく
問題の根っこは、パキスタンなど発展途上国で起っている
貧困層が、粉ミルクを清潔な水で作らない
→乳児が下痢をして栄養不足になってしまう・・・ということなんですね。
あるいは、粉ミルクを薄めて使っちゃうので、栄養不足になったり。

この会社だけでなく、いろんな企業が
同じように粉ミルクを売っているし

なにより、問題の根本にあるのは
製薬会社に賄賂をもらって
「粉ミルクを使いましょう」と妊婦たちを啓蒙している
医療現場の腐った状況なんです。

これは
パキスタンという国だけでなく
世界中に蔓延する問題なのかもしれませんが。


まあ、想像よりいろいろ複雑な映画なんですが
いちサラリーマンが、巨大企業を相手に闘う――というテクストは
素材としてドラマチックだし
さらに「問題がいまも続いている」ということに
ものすごくショックを受ける。

やはり知る手段として
この映画の意味は大きいと思います。

告発した人物の
決して「ヒーロー」な美談ではないシビアな現実も
ピキッと、痛いですね。


★3/4(土)から新宿シネマカリテほか全国順次公開。

「汚れたミルク/あるセールスマンの告発」公式サイト
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お嬢さん

2017-03-02 23:58:32 | あ行

宙吊りになった人形とのシーンはなかなか強烈。


「お嬢さん」68点★★★☆


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1939年、日本統治下の朝鮮半島。

少女スッキ(キム・テリ)は
日本の華族の令嬢、秀子(キム・ミニ)のメイドとして
広大な屋敷にやってくる。

秀子は富豪の叔父の庇護の元で暮らし、
一歩も外に出たことがない。

実はスッキはそんな秀子を陥れるための
ある任務を負っていた。

だが、美しく純真な心を持つ秀子と接するうちに
スッキの心は動かされてゆき――?!


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「オールド・ボーイ」のパク・チャヌク監督が
「このミス」1位の英国小説の舞台を、
韓国と日本に置き換えた官能&サスペンス。

想像ではもっと厚みある
ドロドロな人間模様のミステリーだと思ったんですが、
あまりそのへんは、複雑ではなかった。

3人の視点から、それぞれ同じシーンを語る形式も
おもしろい手法で好きなんだけど
これは
そんなにハマれなかった。

ミステリーに期待値をおかず
男のこっけいさやおかしみなど、別の要素を味わうと
いいんだと思います。

そう、官能というか、卑猥さは満点で(笑)
ヒロイン二人の熱いシーンは美しく、
宙吊りになった人形と交わるシーンも
なかなか強烈で

それはそれは情熱を持って
せめてきますから(笑)

日本の文化や日本語そのものが
大きな舞台装置になるので
日本語がわかるゆえの違和感と
逆にそれゆえのおかしみがあるのも、味でした。

それに
キム・ミニって
ちょっと松たか子さんに似てるよね。


★3/3(金)から全国で公開。

「お嬢さん」公式サイト
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エイミー、エイミー、エイミー!

2017-03-01 23:32:30 | あ行

これね、なかなかおもしろいんですよ。


「エイミー、エイミー、エイミー!」72点★★★★


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NYの雑誌ライター、エイミー(エイミー・シューマー)は
30代の非婚女子。

決してモテないわけではないが
両親の離婚に影響を受けた彼女は
どんな相手とも一夜限りの関係を続けていた。

が、あるときエイミーは取材で
スポーツ外科医のアローン(ビル・ヘイダー)と出会う。

珍しく本気モードになるエイミーだが、
もともとの皮肉な気質や毒舌が邪魔をして
なかなかうまくいかず――?!


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「40歳の童貞男」監督による
NY版“こじらせ女子”コメディ。

全米ナンバーワン人気コメディエンヌのエイミー・シューマーが
自分そのもののような“エイミー”役を演じています。

この手のコメディには正直、苦手なものも多いんですが
ワシはここで描かれる下ネタに
下品を感じることはまったくなかったし

なんかサパッとしてて
おもしろかった。

その理由にはまず
女子同士のあけっぴろげな“女子バナ”要素が少なかったことが
あるかもしれません。

うたい文句は「こじらせ女子」だけど

というよりも
人種差別や偏重思考なアブナイ発言を
あえて軽めに、しかしビシバシと繰り出してくる
毒舌っぷりのほうが、強烈なんですよね。

例えば
騒ぐ子どもにその親の前で「このクソガキ!」的な(笑)
ウディ・アレン映画における
自虐も含む人種差別ネタ的に通じるというか

「言っていいの?」なジョークが
なんか、笑える。


話題の
“ポリティカルコレクトネス”への反動なのか?なんて感じもして。
(まあ、もともとコメディには、そういう要素が多いけど)

何もかもがタブー、タブーで
「なんだか窮屈すぎない?」ないまの世の中に
「ガス抜き」の意味を持つ感じがしました。

出演者もブリー・ラーソンに
ティルダ・スウィントン(これは、わからなかった!笑)などなど
いいセンスだと思います。


★3/4(土)からヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「エイミー、エイミー、エイミー!」公式サイト
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