ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ゲッベルスと私

2018-06-16 14:05:09 | か行

 

 

胸が潰れそうだ…。動悸すら感じる。

 

********************************

 

「ゲッベルスと私」80点★★★★

 

********************************

 

ナチスの宣伝大臣ゲッベルスの元で働いていた

秘書ポムゼル氏の独白ドキュメンタリー。

 

老女の一人語りに、当時のアーカイブ映像が挟まれるという

実にシンプルな作りなのに、この鉛のような重さはなんだ!

 

 

深く刻まれたしわを大写しにされながらも

103歳(!)のポムゼルは

カメラに臆することもなく

まるで昨日の出来事を話すように、当時のことを

詳細に、明快に、話すんですね。

 

 

もともとユダヤ人上司のもとで働き、ユダヤ人の友達もいたこと。

でもよりよい給料がほしくて、ナチ党員となり、放送局で働けたこと。

ビラをまいて反ナチス運動をした若者が、

ギロチン刑で残酷に処刑されるのも見た。

 

どうして、抵抗できただろうか・・・・・・と彼女は言う。

若かった彼女は、何も考えず、何も知らなかった。

ゲッベルスの演説の熱狂にさらされ、誰もが拒否できず、それに加担した、と。

 

これぞまさにハンナ・アーレントの言う「悪の凡庸さ」だと恐ろしくなる。

 

時代の生き証人の言葉が、脾臓に染み込み、

心臓をひねり上げられるようです。

 

そうした言葉の間に挟まれるアーカイブ映像のセレクトがまた絶妙で

やせ細った死体の山の映像にショック・・・・・・。

 

「自分は与えられることを、きちんとこなしたかった」

「ナチスに抵抗する勇気などなかった」ーー

彼女の、そして当時の若者たちのそうした素地を作ったのが

厳格に服従を迫る父や、しつけの厳しいドイツの家庭だったという、彼女の話にもゾッとした。

これ、まんまミヒャエル・ハネケの「白いリボン」じゃないですか!

 

 

「いまの若い人たちは『もし自分があの場にいたら、ユダヤ人を助けた』と言う。

誠実さから言うのはわかる。

でも、彼らも私たちと、同じことをしていたと思う」ーーとポムゼルは言う。

 

そう、果たして、抵抗できるだろうか。

知っているのに黙っているのも、同罪だ。

すべての言葉が、いまに響き、考えさせられました。

 

本作はオーストリア・ウィーンを拠点とする

国際ドキュメンタリープロダクションのメンバーにより監督されたもの。

おなじみ『AERA』で

監督のうち二人、クリスティアン・クレーネス氏、フロリアン・ヴァイゲンザマー氏に

取材をすることができました。

 

実際に103歳のポムゼルと対峙して感じたこと

オーストリア人として考えるナチス問題・・・・・・

分厚いお話を伺いましたが、ご本人たちはとっても優しく、いい方でした~

(珍しくオフショット写真。番長、照明のスタンドが倒れないように支えている。笑)

 

AERA掲載は7/9発売号の予定です。映画と併せてぜひ!

 

★6/16(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「ゲッベルスと私」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フジコ・ヘミングの時間

2018-06-15 18:00:17 | は行

 

よくここまで見せてくれたなあ!と驚き。

 

*******************************

 

「フジコ・ヘミングの時間」74点★★★★

 

*******************************

 

数奇な運命と苦難ののち、

60代後半で見出された奇跡のピアニスト、フジコ・ヘミング氏。

 

彼女の初のドキュメンタリー映画です。

 

想像より、ずっとボリューミーで

その充実度に驚きつつ、堪能いたしました。

 

 

日本人ピアニストの母と

スウェーデン人デザイナーで建築家だった父の間に生まれた彼女の生い立ち、

幼少時代の戦争体験から、少女時代の絵日記(上手!)

留学時代、そして現在の暮らしーーと

 

年齢非公表な彼女の、年齢も判読できるくらい、

時代を追った詳細な描写で

パーソナルな部分に迫ってます。

 

しかも

「苦難の人生!」にドラマチックにフォーカスするのでなく

パリの自宅で猫と暮らす日々、思うこと、その語りから

自然と、その人生と哲学に触れられるような作りが、

おだやかで優しくて気持ちいい。

 

パリだけじゃなく

下北沢、カリフォルニア、ベルリン、京都と世界に点在する自宅まで公開され

そのインテリアのすてきなこと!猫たちの可愛らしいこと!

こんなに見せてもらっちゃっていいのかしら、というほどです。

 

もちろん、演奏シーンもたくさんあって

情感溢れるその演奏が

映し出される彼女の人生の歩みと相まって、より琴線に触れてきました。

(ワシは断然ドビュッシーの「月の光」が好き。

 

 

1964年生まれの小松莊一良監督は

2年間、世界中をまわり、フジコさんを追いかけたそう。

 

おなじみ「AERA」の取材でお二人にお目にかかりましたが、

信頼関係めちゃくちゃ深くて、うらやましいほどでした。

 

いま発売中のAERAにフジコ・ヘミングさんインタビュー、記事が載っています。

dotでも読めますので

映画と併せてぜひ~

 

★6/16(土)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「フジコ・ヘミングの時間」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

母という名の女

2018-06-13 23:48:32 | は行

 

なんという・・・・・・!と絶句。

 

「母という名の女」72点★★★

 

**********************************

 

メキシコ。海のそばに建つ家で

姉クララ(ホアナ・ラレキ)と

17歳の妹バレリア(アナ・バレリア・ベセリル)が暮らしている。

 

バレリアは同い年の彼氏マテオ(エンリケ・アリソン)の子を身ごもっており

若い二人はままごとのような“夫婦生活”をしている。

 

そんなある日、姉妹の前に

疎遠だった母アブリル(エマ・スアレス)が姿を現す。

 

なぜか母親をなぜか警戒していたバレリアだが

出産の不安から、母親を頼るようになっていく。

 

やがてバレリアは無事に赤ん坊を産み、

母は献身的に、赤ん坊の世話をしていた。

 

だが、ある日、母は思いがけない行動に出る――。

 

**********************************

 

いやあ、これは

「なんつう・・・・・・」がズバリの感想。

 

でも

「或る終焉」「父の秘密」のミシェル・フランコ監督らしい。

観る人の読みをスルッと裏切り、

飄々と、しかし消えない爪痕を残す、みたいな感じですよ。

 

 

妊娠中の17歳の娘のもとに、疎遠だった母親が現れる。

出産後は、育児疲れする若い娘の代わりに

献身的に赤ん坊を見てくれている。

 

でも、そんな母がまさかの行動に・・・・・・?!という展開。

 

ミステリーともいえるので、ネタバレは避けますが

描かれるのは

日本でも話題の、“毒親”、“毒母”の姿。怖い。

 

 

でも

この監督もまた独特で、

不穏の影はありつつも

ゆるゆると自然な運びで現在進行形の状況を積み上げていくんですね。

で、その過程で、人物の心理や動機の描写を全くしようとしないので、

なにが起こるのか? が、なかなかわからないし

なにゆえに?もわからないんですよ。

 

 

母親がなぜ、どのタイミングで

この行動に出ようと思ったのか?

 

何考えてんの?が、まるでわからない。

だからこそ、じわじわと恐ろしい。

 

女っていやだわあ、怖いわあ、と鬱々とし

でも、ラストはちょっとガッツポーズな(笑)

 

 

序盤、けっこう重要なキーにみえたお姉さんのキャラが

なんとなく宙ぶらりんで放置されたのが気になりましたが、

 

こうした完璧ではない「いびつさ」も

監督の計算なのかもしれません。

 

★6/16(土)からユーロスペースほか全国順次公開。

「母という名の女」公式サイト

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ワンダー 君は太陽

2018-06-11 22:58:19 | わ行


「ウォールフラワー」監督。

うん、いい映画!

 

「ワンダー 君は太陽」77点★★★★

 

*************************************

 

10歳のオギー(ジェイコブ・トレンブレイ)は

遺伝子の疾患で、顔に特徴を持って生まれてきた。

 

ずっと自宅学習を続けてきたオギーを

ママ(ジュリア・ロバーツ)は学校に行かせることを決める。

 

いつも愉快なパパ(オーウェン・ウィルソン)と

優しい姉(イザベラ・ヴィドヴィッチ)に見守られ、初登校をしたオギーだが

奇異なまなざしをむける子どもたちの態度は容赦なかった。

 

いじめられ、孤立するオギーだが

次第に彼の頭のよさ、持ち前のユーモアセンスに、気づく子どもが現れて――?!

 

*************************************

 

文句なしにいい映画! 

 

お涙頂戴でなく、ピュアで爽やかで

笑いながら明るい涙を流せてスッキリします。

 

まず原作者R.J.パラシオが

この物語を書いた動機が素晴らしいんですよ。

 

彼女はあるとき街のアイスクリーム屋で、実際に顔に特徴のある少女に出会ったそうなんです。

そのとき彼女の幼い息子が、驚いて泣き出してしまった。

そして、焦った彼女はうまく対応ができなかった。

パラシオさんはそれからずっと

「あのとき、どうすればよかったのだろう」と考え続け、

その答えを物語に描いたというのです。

 

うーん、実に納得。それをまた監督がよく汲み取って描いてるんですねえ。

 

例によって予備知識ナシで観たので

ワシ、ずっと主人公のオギー少年を、そうした特徴を持つ子が演じてるのだと思って観てた(笑)。

演じているのが「ルーム」のあの天才少年ジェイコブ・トレンブレイ君と知って

二度びっくり。そしてまた納得。うまいなあ。。。

 

 

オギーはとても聡明でキュートで

家族のムードも明るいんだけど、「異質なるもの」への子どもたちの目は容赦なく

オギーは学校でいじめられ、孤立してしまう。

 

でも、心ある少年が突破口を開き、

オギーは少しずつ、世界へ踏み出していく――という展開。

 

またこの話、主人公オギーだけの視点ではなく、彼を取り巻く人々の

複数の視点で語られて進むのが、うまいなあと。

物語を多面的に、俯瞰で観ることができるんですねえ。

 

また切り取られる人物から、

ジュリア・ロバーツらビッグキャストを外したのも、心憎い。

お調子者で一家のムードメーカーなパパ役のオーウェン・ウィルソンもよくハマった。

 

それに

オギーの友人となる少年を演じるノア・ジュブ君がすごくいい。

「サバ―ビコン 仮面を被った街」にも登場してましたが

「リトル・ランボーズ」から出世した

ウィル・ポーターみたいになるだろうな。

 

多様性とは、人が人と違うことを見ないふりをしたり、お愛想の共感で流すことじゃない。

この映画で、改めて、それを教わった気がします。

 

おなじみ「AERA」でスティーヴン・チョボスキー監督とジェイコブ・トレンブレイ君に

インタビューさせていただきました。

テーマに深く共感し、演じきったジェイコブ君、やはり天才。

まるで親子? のような二人でしたが

監督曰く「いやいや!ジェイコブのパパはとーってもハンサムなんだよ!悪いよ!(笑)」だって(笑)

 

6/25発売の号に掲載予定です。

映画と併せて、ご一読ください~

 

☆6/15(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国で公開。

「ワンダー 君は太陽」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ザ・ビッグハウス

2018-06-09 14:32:52 | さ行

 

とにかく人、人、人!(笑)

そこに浮かび上がる「アメリカ」。

 

*****************************************

 

 

「ザ・ビッグハウス」70点★★★★

 

 

*****************************************

 

想田和弘監督、登場人物一ケタの「港町」の次は、

10万人超のアメフト・スタジアムを観察!

 

想田監督が初めてアメリカで撮った観察映画、でもあり

日本映画やドキュメンタリーの研究者でもあるマーク・ノーネス氏ほか

ミシガン大学の学生たち16人と共同監督した、という点で

これまでの作品とはちょっと違ったテイストになっていると思います。

 

今回、観察の対象になったのは

全米最大のアメリカンフットボール・スタジアム、通称「ザ・ビッグハウス」。

ミシガン大学のチームの本拠地で、収容人数10万人以上。

 

そのバックヤードや観客、OBが集うパーティーなどにカメラが入っていく。

 

州立大学の財政がアメフト人気とOBの寄付で成り立っている実態、

多額の寄付をしたOBが座れるVIP席の風景。

 

父親と観戦にきた少女に

「チョコレートはどう?」と売りに来る幼い少年。

 

折しもトランプ大統領誕生前で、

選挙カーがスタジアム周辺にやってくる、なんてシーンもある。

 

ひとつのスタジアムの観察から

貧富の格差やナショナリズムなどをも内包した

まさに「ザッツ・アメリカ!」な風景が見えてくる。

そこがおもしろい。

 

 

そして、たぶん

想田監督が撮った部分はここだな、とわかった。

そこからぐっと「観察対象」が浮き上がってきたから。

(まあ、監督が対象に話しかける声も聞こえたんだけど。笑)。

 

そしてやっぱり「おもしろそうな人物」「おもしろそうな瞬間」のとらえ方がうまい。

優れたドキュメンタリーにおいて

撮影者が、何を撮るか、何を見ているかがどれほど重要か、が

非常にわかりやすく、明らかになった気がしました。

 

★6/9(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「ザ・ビッグハウス」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする