ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

30年後の同窓会

2018-06-07 23:28:24 | さ行

 

リチャード・リンクレイター監督の新作です。


「30年後の同窓会」68点★★★★

 

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2003年12月。バージニア州ノーフォーク。

“サル”ことサルバトーレ(ブライアン・クランストン)が経営するバーに

見知らぬ男がフラリとやってくる。

 

が、見知らぬと思った彼はなんと

サルとベトナム戦争で一緒だった旧友“ドク”(スティーヴ・カレル)だった。

 

30年ぶりの再会を喜び合う二人は

同じくベトナム仲間のミューラー(ローレンス・フィッシュバーン)に会いに行く。

 

再会に盛り上がる3人だが

ドクが現れたのには、ある理由があった――。

 

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「6才のボクが、大人になるまで。」(14年)
リチャード・リンクレイター監督。



かつてベトナム戦争に従事した男“ドク”が30年ぶりに仲間を訪ねる。

それにはある理由があった、という話で

何も知らずに観たい方はここまで!ですが

 

 

 

その理由までは言ってもいいと思うので言ってしまいますが

“ドク”は息子をイラク戦争で亡くしてしまったんですね。

 

で、息子の遺体を引き取りに行くのに

2人に同行してほしい、と頼む。

 

すったもんだのあげく、一緒に行くことになった2人は

車で引き取り場所に向かう道中、

昔話&バカ話をし、あのころを振り返りながら

それぞれの歩んだ道、歩まなかった道、そして、現在の問題などに直面していく――という。

かなりガチに中年男3人のロード・ムービー×会話劇です。


彼らのバカ話に

「神を信じるか否か」「戦争について」など問題提起が入ってるのがミソ。

ひいては

「アメリカという国」について考えさせられる。

なかなか深い、と感じました。



ただね



まあ、この男たちのよくしゃべること(笑)

(まあ主に“サル”がしゃべってるんだけどね。笑)

 

それに、リンクレイター監督って

「スクール・オブ・ロック」も「6才の~」も好きなんですが

ときどきワシには、笑いも説明もいろいろに「くどい」と感じる部分があって

それが今回、出汁に出過ぎちゃったかな、と。

 

ま、これも相性だと思いますけどね。

 

★6/8(金)から公開。

「30年後の同窓会」公式サイト

 

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Vision

2018-06-04 19:37:04 | は行

 

河瀬直美監督×永瀬正敏×ジュリエット・ビノシュ!

 

「Vision」70点★★★★

 

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紀行文を執筆中のフランス人女性ジャンヌ(ジュリエット・ビノシュ)は

奈良・吉野の山深い森にやってくる。

 

彼女は山守の男・智(永瀬正敏)と出会い、

彼の家に泊めてもらうことになる。

 

ジャンヌはこの村に昔から伝わる「ビジョン」と呼ばれる薬草を探していた。

 

智が薬草に詳しい知人で目の不自由なアキ(夏木マリ)に

ジャンヌを紹介すると

アキは、全てを知っているかのようにジャンヌにこう言う。

 

「あんただったんだね」――。

 

ジャンヌの探す「ビジョン」とはなにか?

そしてそれは、人類に何をもたらすのか?!

 

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千年に一度現れるという幻の植物「ビジョン」を探す女性(ジュリエット・ビノシュ)と

孤独な山守の男(永瀬正敏)の出会い。

 

そして、そこに巡り合わされた運命。

 

そのすべてを包み込む、奈良の自然の神秘と魔界に包まれる――

なんとも不思議な映画でした。

 

 

そこにある光も、トンネルの闇も、すべてが魔界的で、

美しく癒やされながらも

終末や妖しの予感に包まれている。

 

 

「千年に一度起こること」とは何なのか?

様々な謎に、解はあるのか?

 

すべては観る人にゆだねられる。

 

そして突然現われる謎の青年(岩田剛典)といい

生と死のやりとり、というか、死の予感はずっとつきまとうんですね。

 

さまざまを考えせるけれど

これは

分断や虐殺止まぬ世界への、監督の映像のよる言葉であり、「言霊」なのだろうと

ワシは受け取りました。

 

 

そして、おもしろいことに

この観る人への解のゆだねと、命のやりとりという感覚は

奇しくもやはり海外スタッフとの協力で撮影された

ディーン・フジオカ主演×深田晃司監督の「海を駆ける」

不思議な共通点があるようにワシは感じました。

 

★6/8(金)から全国で公開。

「Vision」公式サイト

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万引き家族

2018-06-03 10:43:31 | ま行

 

見るべき映画。当然でしょう!

 

「万引き家族」77点★★★★

 

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東京の、ある街。寒い季節。

スーパーで父・治(リリー・フランキー)は息子の祥太(城桧吏)と

連携プレーで万引きをしている。

 

その帰り道、二人は母親に家から閉め出され

寒さに震えている女の子(佐々木みゆ)を見つけ

家に連れて帰る。

 

ボロい家では義母(樹木希林)と、妻(安藤サクラ)、その妹(松岡茉優)が待っていた。

 

「どうすんの?」とボヤきながらも少女の面倒を見る家族に

少女も次第に心を開いていく。

 

だが、しばらくして

「荒川区で5歳の女の子が行方不明」というニュースが流れ――?!

 

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是枝裕和監督の新作にして

祝・カンヌ国際映画祭パルムドール受賞!となった作品。

 

 

社会のすぐ脇にあって、しかし見ないふりをされている人々に焦点をあてた

社会的意味を持ちつつも

それを声高とせず、あくまでも「映画」としてのリリックさを保っている。

 

まさに「誰も知らない」から流れる、是枝映画の集大成と感じました。

 

 

なにより、一番響いたのは

一家が暮らす、一軒家の「ゴミ屋敷」加減!(苦笑)

あらゆる「捨てられない」ものが積まれた内部の、玄関の、カオス加減のリアルさよ!

 

誰もが、おばあちゃんち、あるいは実家など

どこかでこういう景色に逢っているのでは?と思います。

でも、そこに、底知れぬ「安心」や「しあわせ」がある。

この確かな感覚を再現したことが素晴らしいですね。

 

 

子どもに万引きをさせるという設定はリスキーだったと思う。

でも、この映画が描くのは

そんな次元を超えてる「心」だと、見れば誰もがわかるはずです。

 

しかも、この一家は万引きだけで生計を立てているわけじゃなく

決して怠惰な悪人ではない。

 

父(リリー・フランキー)は建設現場の日雇い労働、

母(安藤サクラ)はクリーニング屋勤務。

 

しかし、どちらも不安定な就業形態で

働けど働けどの日々。

 

そんな一人では耐えきれない無力感を、

彼らは“集まる”ことでやり過ごしている。

 

 

年金暮らしの初枝(樹木希林)の家に集まることは、彼らの生存本能なのでしょう。

 

で、その様子はとても自然で、しあわせそうにみえる。

でも

凸凹家族は、それがつかの間と何処かでわかっているのです。

 

 

モラルとは?正義とは何か?などあらゆる問いが掲げられますが

究極、この映画が提示するのは

「子どもとは、本当に与えられた環境に逆らえないのだろうか?」ということだとワシは思った。

 

親の貧しさや教育格差が、次世代にまで踏襲されてしまう。

その、負のスパイラルを、人は本当に抜け出せないのだろうか。

 

 

自ら、巣を飛び立とうとする少年の勇気を、育てたのは誰だろうか。

虐待されていた少女に、人を思いやる心を教えたのは誰だろうか。

 

子どもの持つ可能性と、その芽を、

監督はいまの世に伝えたかったのだ、と思うのです。

 

 

そして

この映画を一番みてほしいのは

「社会から少しはみ出してしまった」人たち。

 

映画を見る余裕なんてないかもしれないけど、

でも、見ることで、きっと喜びや誇りを感じられると思う。

 

ワシ自身も見たあと

「貧しい我が家にもそれなりのしあわせがあるかも」と

ちょっと輝いてみえましたから。ホントに。

 

★6月2、3日から先行公開、6月8日(金)から全国で公開。

「万引き家族」公式サイト

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ビューティフル・デイ

2018-06-01 23:15:19 | は行

 

簡単ではないけど、読み解く楽しみはある。

 

「ビューティフル・デイ」68点★★★☆

 

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元軍人のジョー(ホアキン・フェニックス)は

行方不明者の捜索を請け負うスペシャリスト。

 

彼が得意とするのは

人身売買や性犯罪の闇に呑まれた少女たちの捜索だ。

 

これまでもヤバい相手や現場をものともせずに

何人もの少女たちを救ってきた。

 

そんなある日、ジョーは

州上院議員から「娘のニーナ(エカテリーナ・サムソノフ)を、売春組織から取り戻してほしい」と依頼される。

 

いつものように、組織のアジトに乗り込み、ニーナを救出に行った彼だが

思わぬ事態が起こり――?!

 

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「少年は残酷な弓を射る」で衝撃を与えた、リン・ラムジー監督の新作。

 

全体に印象派というか、抽象的なので、

ふつうに見やすいアクションやサスペンスではないんです。

 

 

行方不明の少女を探し出す主人公で元軍人ジョー(ホアキン・フェニックス)の

戦場でのPTSDや、少年時代の忌まわしい記憶や悪夢が

少女救出というハードなアクション描写のあいだに挟まり、交錯する感じ。

 

映像のなかに様々なキーが仕掛けられ

(主人公の家の壁に掛けられた絵が気になる!)

読み解く楽しみはあるんですけど、

反面、いろいろ思わせぶりすぎる!とも言える。

 

かなり抑えてはあると思うけど

バイオレンスがざわざわと騒ぐのも、苦手な人にはつらいかも。

 

でもってちょっと

ナタリー・ポートマン×ジャン・レノの「レオン」(94年)を

思い出したりするのでした。

 

しかし、いま見直すと「少年~」の評価は、もっと高くてもよかったなーと思う。

ワシ、この監督の独特な、なんというのか

粘度、のようなものにちょっと合わないところがあるようで

 

だから本作もあとになって

「いや、よかったよなー」とか思うのかもしれないなー。

 

そりゃ、ありますよ、そういうの。人間だもの(開き直り。笑)。

 

★6/1(金)から全国で公開。

「ビューティフル・デイ」公式サイト

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