ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

エマの瞳

2019-03-21 23:43:36 | あ行

セオリーをサクッと覆すあたりが魅力。

 

「エマの瞳」71点★★★★

 

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イタリア、ローマ。

広告代理店に勤めるテオ(アドリアーノ・ジャンニーニ)は

典型的なイタリアンプレイボーイ。

結婚間近の恋人を持ちつつ、友人の妻とも不倫し、人生を謳歌している。

 

そんなときテオは、盲目を体験するワークショップに参加し、

案内してくれた女性の声に魅力を感じる。

 

その声の持ち主は、エマ(ヴァレリア・ゴリノ)。

思春期に視力を失いながらも、仕事を持ち、自立して生きていた。

 

偶然、エマに再会したテオは

生き生きと人生に前向きな彼女に、急速に惹かれていく。

 

関係を深めていく二人だが、

いまだ「この女性」を決められないテオは

その優柔不断さから、エマを傷つけてしまうことに――。

 

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目の見えない女性とチャラ男の出会いと

その先についての物語。

 

ハンデがあっても

エマは明るく快活で、人生に前向きで

めちゃくちゃ魅力的な女性なんですね。

 

さらに

ハンデある人には「誠実な男」が相手というのが

セオリーだと思うんですが

この映画はそうしない。

 

彼女の恋の相手になるのは

まあ嘘をつくは、二股、三股は当たり前というどうしよもないチャラ男(笑)

 

でも、そこが

紋切り型を裏切っていて、なかなか魅力的なんですよね。

 

 

で、チャラ男の側にも

家族に縁薄く、十分な愛をもらえなかったという

身の上があったりして。

 

エマの何が、彼を動かすのか。

映画はじっくり時間をかけて、彼女と彼のやりとり、

二人の時間の過ごし方を追い、

観客にその答えを、肌感覚で納得させるんです。

 

まあ、傍目には

こんな男、やめとけ~とは思うのだけど(苦笑)

そこには、当事者にしかわからない愛もあるんだろうなーとか

 

なにより

ハンデなんて関係ないじゃん?

同じ土俵にあがって、何が悪いの?という

フェアネスがおもしろく、共感できました。

 

★3/23(土)から新宿武蔵野館ほかで公開。

「エマの瞳」公式サイト

 

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ビリーブ 未来への大逆転

2019-03-20 23:49:27 | あ行

「よしっ!」とガッツポーズのおもしろさ!

 

「ビリーブ 未来への大逆転」78点★★★★

 

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1956年、アメリカ。

頭脳明晰な女子学生ルース・ギンズバーグ(フェリシティ・ジョーンズ)は

ハーバード法科大学に入学を果たす。

 

が、女性新入生はわずか9人。

風当たりはビュービュー強く、かつ、ルースは幼い娘を持つ母でもあった。

だが、夫で法科2年生のマーティン(アーミー・ハマー)の強い支えのもと

彼女は主席で大学を卒業する。

 

しかし、弁護士事務所に就職しようとした彼女は

ここでも「女性は雇えない」という壁にぶつかり――?!

 

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「ディープ・インパクト」(98年)などで知られるミミ・レダー監督が

“男女平等”を訴え、アメリカの女性史に強烈なインパクトを与えた

実在にして現役の弁護士、

ルース・ベイダー・ギンズバーグを描いた作品です。

 

 

これは

「よしっ!」とガッツポーズをしたくなるほどのおもしろさ!

 

ミミー・レダー監督、久々な気がするけど

やっぱり凄腕。

今日的なテーマを掲げつつ、エンタメのツボを外さないんですよ。

 

1960年~70年代、アメリカでは

女性は仕事も選べず、クレジットカードも作れず

女だというだけで、あらゆる差別を受けていた。

そんな状況に立ち上がった彼女の闘いは、

最初からうまくいったわけじゃない。

 

途中までは、かなり地味。

でも、そこにリアリティがあり

終盤に向かう展開が、まさに「胸アツ!」に盛り上がるんです。

彼女なくして、#Me Tooもなかったよなあ、としみじみ。

 

さらに

主演のフェリシティ・ジョーンズもいいけど

彼女を支える理解ある夫、アーミー・ハマーが理想形すぎる!(笑)

 

それに監督は決して

「女性万歳!」だけを唱えてるわけではないんです。

 

例えば1970年代当時、

「女性の社会進出が、未来をどう変えるのか」を

頭のカタいおっさん連中が話し合うシーン。

「女性が平等になって働きに出たら、離婚は増え、全体の賃金は下がり、家庭は崩壊する」

「そんな未来を、来させてはいけない」――だって。

 

ふざけんなー!と思いつつ、

フラットな目線で見れば

いや、一理あるかも、とふと思ってしまう。

そして、40ン年後のいま、果たしてどうなったか?

「うーむ」と考えさせられもして。

 

折しも、

主人公、ルース・ベイダー・ギンズバーグのドキュメンタリー映画

「RBG 最強の85歳」(5/10公開)も控えておりますので

併せてぜひ!

 

★3/22(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか、全国で公開。

「ビリーブ 未来への大逆転」公式サイト

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ブラック・クランズマン

2019-03-19 23:03:14 | は行

 

アカデミー賞、脚色賞受賞!

 

「ブラック・クランズマン」70点★★★★

 

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1970年代半ばのアメリカ、コロラド州。

街で初めて黒人刑事となった

ロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は

晴れて希望していた“潜入捜査官”に任命される。

 

彼の任務は当時、一大ムーブメントとなっていた

「ブラックパンサー党」の演説会の危険度を捜査すること。

黒人である彼にしかできない任務だった。

 

ロンは白人ながら、まったく差別意識のない

捜査官のフリップ(アダム・ドライバー)らとチームを組み

無事に任務を終わらせた。

 

達成感にひたるロンは、今度は

白人至上主義の過激集団<KKK>に

「白人だ」とウソをついて電話をする。

 

そしてロンは幹部に気に入られ、<KKK>に招き入れられた!

 

これは一大潜入捜査になる!

でも、まてよ?

<KKK>にどうやって黒人刑事が潜入するんだ――?

 

そこでロンが考えた苦肉の策とは――?!

 

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最近、ごぶさた感あった

スパイク・リー監督が

1970年代に本当にあった「ギャグみたいな」実話を映画化。

 

もともとは「ゲット・アウト」(17年)の監督が

映画化権をゲットしていて

それを大先輩であるスパイク・リーに持ち込んだのだそう。

 

ムリクリな潜入捜査がいつバレやしないか⁈――というハラハラに

ひょこり、どっこい、みたいな笑いが同居し、

久々にスパイク・リー節を楽しみました。

 

同時に

まさに現在の「白人至上主義」な現状への嫌悪が

くっきりと露わになっていて

ハッとさせられました。

 

多くの意志表明を含むなかで

この映画には

アダム・ドライバーが不可欠だったなあと思う。

 

白人ながら、黒人への差別意識ゼロでラフ~な刑事を

自然に、フツーに、実に感じよく演じていて

それが映画全体をも、ニュートラルにする作用を持ってる。

 

が、そんな彼が潜入操作で

「白人至上主義者」のフリをするうちに

いままで意識していなかった

ユダヤ人としてのアイデンティティをほんのり目覚めさせていく――というあたりも

おもしろく、うまいなあと思いました。

 

★3/22(金)からTOHO シネマズシャンテほか全国で公開。

「ブラック・クランズマン」公式サイト

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ふたりの女王 メアリーとエリザベス

2019-03-16 02:47:37 | は行

 

映画界の若き女帝対決?!(そりゃ失礼か)

 

「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」70点★★★★

 

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1561年。

幼くしてフランス王太子に嫁いだ

メアリー・スチュアート(シアーシャ・ローナン)は

18歳で未亡人となり、母国スコットランドに戻ってきた。

 

スコットランド国王の直系であり

イングランド王位継承権第1位である彼女は

当時、イングラドを統治していた従姉妹エリザベスⅠ世(マーゴット・ロビー)にとって

脅威の存在だった。

 

だがフランス仕込みのセンスのよさを持つメアリーは

人を魅了するキャラでもあり

エリザベスⅠ世とも書簡をやりとりし、関係を築いていく。 

 

が、メアリーが再婚し、子をなしたことで

未婚のエリザベスⅠ世はプレッシャーを感じることに。

 

さらにメアリーを取り巻く周囲の思惑はあまりにも黒く、

ふたりの女王は、その闇に巻き込まれていく――。

 

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16世紀、真っ赤なドレス(実際にはペチコートだったらしい)で処刑されたという話が

やけに克明に記憶されている

悲劇の女王メアリー(シアーシャ・ローナン)と

エリザベス女王(マーゴット・ロビー)を描いた作品です。

 

 

主演のふたりもよく

一定レベルは確保、してるんですが

 

第一印象は「ちょっと想像と違ったかな・・・・・・」という感じ。

というのは

もっと女王同士のドロッドロなマウンティングをイメージしてたんですよ。

別にあえてドロッドロ見たくないですよ?

けど、そうじゃないとちょっと拍子抜けなのよねー

という

下世話魂炸裂ですみません(苦笑)

 

ただ、この映画を観て

ふたりのバトルの原因が

メアリー自身の才覚と、血筋故のプライドと気質、

それが裏目に出て引き起こされたことであり、

 

果ては周囲の男ども、

大きくはメアリーの帰郷で王座を奪われた異母兄の裏切りと策略だったのだ!

ということはよくわかった。

 

だから

メアリーVSエリザベス、というよりも

困難な時代を生きる女同士のシンパシー、という面に焦点があたっているのね。

 

ふたりが実際にやりとりした手紙なども残っており

そうした史実に基づき、

ここぞ、の場面は解釈を加える、さじ加減も上手なんだなあと

それはそれで、興味深く観ることができました。

 

 

エリザベスが自国の会議の場で

「メアリーの策略に何度もやられてきた。

あなたたちより、彼女のほうがよほど優秀よ」というシーンには

そんな女子同士ならではの、リスペクトが現れていて、好きでしたねえ。

 

歴史や人物相関図が頭に入っていないと

なかなか手強くはありますが

これを期に、より深く知りたくもなるし

 

そしてやっぱり

「生まれながらの女王」の血筋を一瞬で納得させる

シアーシャの表情、所作、姿勢が見事でした。

 

★3/15(金)からTOHOシネマズシャンテ、Bunkamura ル・シネマほか全国で公開。

「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」公式サイト

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サンセット

2019-03-15 22:46:05 | さ行

 

「サウルの息子」(16年)監督の新作です。

 

「サンセット」70点★★★★

 

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1913年、ブダペスト。

 

ある高級帽子店に

イリス(ユリ・ヤカブ)が働きたいとやってくる。

 

海外で帽子作りを学んだイリスが持参した作品は

なかなかのものだったが

が、実はその帽子店は

イリスが2歳のときに、亡くなった両親が遺したものだった。

 

自分のルーツを探していたイリスだが

現在のオーナであるブリル(ブラド・イヴァノフ)は

突然現れたイリスに戸惑い、追い返してしまう。

 

そんなイリスに

両親の時代を知る人々が、謎めいたヒントを与える。

 

そして、自分に兄がいることを知ったイリスは

過去を知るべく、動き出す。

そこには、帽子店の抱える大きな闇があった――。

 

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「サウルの息子」ネメシュ・ラースロー監督作品。

 

1913年、ハンガリーのある帽子店を舞台に、

ヒロインが亡き両親と、自分を探すうちに

忌まわしき出来事を知ってゆく――というお話で

 

兄の行方、そして両親の死の真相を知るべく

あちこちをさまようヒロインの背中を

「じーっ」と追う手法や、

不安定な世情と、その騒乱のなかに観客をいざない、投じる方法も

「サウルの息子」につながるものがあると感じます。

 

 

さまようヒロインの背中は、何を追いかけ、何を探すのか――?

その手法はミステリアスで引き込まれるんですが、

 

出てくる人々が誰もが謎を含み、

かつ、誰もがハッキリと答えない、という

じれったさが募りに募る。

しかも、142分ありますからね(苦笑)。

 

おそらく両親の時代からその帽子屋は「負の顔」を持っていて

兄は、その事実にがまんできず、

反旗を翻す立場に身を投じたのでしょう。

 

そしてイリスが探し求める“兄”は

組織のアイコンとして「存在」はしてるけど

もう死んでるのかもしれない。

 

ヒロインの後ろ姿についていきながら

そんなもろもろ推測させ、たしかにあった「過去」に思いを巡らせる。

それこそが

監督の意図なのだと思います。

 

★3/15(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかで公開。

「サンセット」公式サイト

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