ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

沈没家族 劇場版

2019-04-07 12:58:55 | た行

平成の話なのに、なんでしょうこの「昭和の匂い」(笑)!

 

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「沈没家族 劇場版」70点★★★★

 

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1995年、シングルマザーの母が始めた

共同保育の試みで育てられた加納土(つち)監督が、

ちょっと変わった自身の「家族」を振り返るドキュメンタリー。

 

95年といえば

地下鉄サリン事件があったり、前年にはエヴァンゲリオンが放映されたりしてた

バリバリの最近、なんだけど

いやー、なんでしょう、この「昭和」感(笑)。

 

共同保育の舞台となるのは

都内の古いアパートで

そこに数組の母と子や若者が暮らし、あるいは保育のときだけやって来たりしてた

「場」、というか「たまり場」だったわけですね。

そこに漂うアングラ感が、昭和を想起させるのかしら(笑)

 

当時はテレビの取材などもけっこう来てたらしい。

 

で、映画は

「あれはなんだったのか?」を

監督自身が周辺の人たちにインタビューしていくもので、

もともとは大学の卒業制作として作られたものを

再構築したそう。

 

まあ監督自身の成り立ちからスタートしてるので

当然ではあるけれど、

まだ、ちょっと自分のノスタルジー、“自分”にだけ寄りすぎかなと感じる。

 

もう少し、状況を俯瞰できるようになれば、

さらに普遍的なものになると思うんだ。

 

ただ、この年齢で母親や父親と

まともに話す人ってどのくらいいるんだろう?

最近は仲良し親子が増えてるみたいだから

もしかしたら多いのかもしれないけど、

 

それにしても監督は

かなり親の事情の深部にまで入り込み、ほじくり、

時に機嫌を損ねさせても、けっこう食らいつくのがすごい。

 

そしてなにより

「監督本人」が、その実験の結果なわけですからね。

いい子に育ったみたいじゃないですか、お母さん!(笑)

 

 

自分の生い立ちや自分探し・親探し、家族というネタは

常に創作の泉になる。

なかでも、なかなか体験できないことを経験したことは

創作者にとって大事な持ち札、カードであり、貴重な財産。

 

本人が一番わかっていると思うけど、

その財産をうまく肥やしていってほしいなと思いました。

て、もう親戚目線になってるし!(笑)

 

そして

音楽がとてもよかった!

 

★4/6(土)からポレポレ東中野ほか全国順次公開。

「沈没家族 劇場版」公式サイト

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12か月の未来図

2019-04-05 23:54:53 | さ行

フランスの「マジ、大変なんす!」な

教育現場を描いた作品は近年多いけど

本作は「教師側の問題」に踏み込んでるところが、新しい。

 

「12か月の未来図」72点★★★★

 

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フランスの名門高校で国語を教える

ベテラン教師フランソワ・フーコー(ドゥニ・ポダリデス)は

ひょんなことから、校外の“問題校”に派遣されることになる。

 

そこでフランソワが目にしたのは

教師への敬意などゼロ。授業中も大声でしゃべくり倒す生徒たちと

なにより

「問題児は退学させればいい」とする教師たちの意欲のなさだった。

 

そんななか、フランソワは

生徒たちをやる気にさせる一計を案じるのだが―?!

 

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フランスの教育現場の大変さを描いた作品は

ここ数年、本当に増えている。

「パリ20区、僕たちのクラス」(10年)

「小さな哲学者たち」(11年)「バベルの学校」(15年)

そして「奇跡の教室」(16年)

「オーケストラ・クラス」(18年)などなど。

 

観ると「教師ってどんだけ、大変なんだ!」と思いもするけど(笑)

本作は「教師側の事情」に踏み込んだところ、

そしてフィクションなのに「輝く劇的な展開!」と、ならないところに、

また新しいリアルを見る作品でした。

 

ズームの多様など、ドキュメンタリーさが意識されているところも、また味というか。

 

パリ暮らし、エリート一家で育った

教師フランソワ・フーコー(ドゥニ・ポダリデス)が、

ひょんなことから郊外の問題校に赴任することに。

 

しょっぱなからその「特権意識」を隠すこともしない

彼の心象が正直に描かれ、そこにまずドキリ、チクリ、とする。

重厚&歴史的景観のパリ市内を一歩出ると、

移民や外国人が行き交う

高層アパート立ち並ぶ地域になり

彼がまあ~怪訝な顔になったりするわけです(笑)

 

教室の子どもたちもまあ多彩で。

 

いや、しかし、そんななかで

最初こそ戸惑っていたフランソワは

次第に「自分の利益」とかとは関係なく

真剣に、そこにいる子どもたちに向き合っていく。

そして、その姿は

「問題は生徒だけにあるのではないのだ!」という事実を明らかにもしていく。

 

そう、こうした問題校に派遣される若い教師は

疲弊し、

「何をやっても無駄」と、投げやりに、事なかれにもなっているわけですね。

 

そんな状況をフランソワはどうするのか――!?

というお話。

 

フランソワの動機にあるのが、どんな相手であり

あくまでも、「学びとは何か」という原点と

使命感によるものなのだ、と感じられるところがいい。

 

加えて、彼がルックス的には冴えず(すみませーん。笑)

ゆえに、彼自身のぎこちない

恋のさや当てが、映画に盛り込まれているところも、いいかもなーと。

 「先生たちにだって、いろいろあるんです!」ってね。

 

なにより、いわゆる“問題児”に対して

「悪い生徒はいない。生徒を信じれば学力はあがる」とする、指導者の懐深さ。

それが“きれいごと”ではないと感じさせるリアルがあるのは

監督自身が2年間、中学校に通い取材した成果でしょうね。

 

★4/6(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「12か月の未来図」公式サイト

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マックイーン:モードの反逆児

2019-04-04 23:34:13 | ま行

ファッションデザイナーのドキュメンタリーは往々にしておもしろいけど、

これは出色だったなあ。

 

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「マックイーン:モードの反逆児」74点★★★★

 

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1969年、ロンドンの労働者階級に生まれ

23歳でデザイナーデビュー。

大活躍しつつも、40歳で自ら命を絶った、伝説のデザイナー、

アレキサンダー・マックイーンのドキュメンタリーです。

 

実際、

「名前は聞いたことある」くらいの知識だったので

オープニングの昆虫やドクロや血、

美しいけどまがまがしい世界に「へえ」と興味を惹かれ

さらに、プライベート映像に写る

こんな“やんちゃ坊主”が、デザイナーとは!

しかも、そのセンス、すげえ!

度肝を抜かれっぱなしの111分でございました。

 

ぽっちゃりとした、田舎のぼっちゃんふうの彼が

16歳でテーラーに就職し、

その後、大学で服作りを学び、

23歳で衝撃のデビューを果たす。

 

で、「ジバンシィなんてバアさんのブランドだろ?」なんて軽口を叩いていたら、

いきなりデザイナーに抜擢され、

さらにはグッチへ、と成功の階段を爆走する。

 

本人映像も肉声もたっぷりで、

会議での一悶着シーンなど

「よくこんなの、撮ってたなあ!」という映像もあり、構成も巧み。

 

しかし、最も驚かされたのは、他でもない彼のショー。

演出も、服も、装置も発想も、アイデアとストーリー性に溢れ、

ファッションのショーというより、もはや舞台劇を見ているかのよう。

完全にアート。

すごすぎる!

 

そんなショーを

年に10回もやっていれば

疲弊し、ドラッグに溺れるのも仕方ないのかもしれない。

 

燃え尽きさせ、あまつさえ殺してもしまう

この業界から一歩引いて別の世界を試せば、

また新しい展開があったのでは、と素人ながら思ってしまった。

生きていれば、ワシと同い年くらいか・・・・・・。

 

才気溢れる風雲児の駆け足の人生に、涙。

 

そして「AERA」にて

映画にも登場する03年の伝説のコレクションで

トリを務めたモデルの冨永愛さんに、お話を伺いました。

その超絶のスタイル、超絶の美に圧倒されつつ

マックイーンとの思い出話に、涙。

 

掲載は4/15発売号の予定です。

ぜひ、映画と併せてご一読くださいませ!

 

★4/5(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国で公開。

「マックイーン:モードの反逆児」公式サイト

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希望の灯り

2019-04-02 23:38:51 | か行

タイトルからアキ・カウリスマキ作品を思われた方、正解です!

 

「希望の灯り」79点★★★★

 

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旧東ドイツ、ライプツィヒ郊外にある

巨大なスーパーマーケットに

青年クリスティアン(フランツ・ロゴフスキ)が新人としてやってくる。

 

飲料担当のベテラン職員ブルーノ(ペーター・クルト)は

ちょっとしたことから

無口な彼の誠実な気質を見抜き、

仕事のいろいろを彼に教えてやる。

 

そんなある日、クリスティアンは

隣のお菓子売り場を担当する女性マリオン(ザンドラ・ヒュラー)を見かけ、

彼女に惹かれていく。

 

休憩所でコーヒーを飲みながら

ささやかな時間を過ごすふたりを

職場のみんなもそれとなく応援するのだが

しかし、マリオンには亭主がいた。

それも、ちょっと問題ある夫らしい――。

 

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あ~大好きだ!こういう映画!

 

ドイツのお仕事観察ドキュメンタリーがあったけど

※オーストリアのニコラウス・ゲイハルター監督の

「眠れぬ夜の仕事図鑑」(12年)ね!

あの世界に人間ドラマが入ってる感じ。

 

冒頭、シーンとした深夜の巨大スーパーマーケットを

「美しき青きドナウ」にのって滑るように走るフォークリフト。

圧倒的に絵的なおもしろさのなかで

人の営みが描かれていく。

 

スーパーに配属された無口な新人クリスティアンが出会うのは

「楽な仕事だよ」と

適度に手と気を抜いて働く気のいい先輩。

ちょっと気になる、年上の女性。

 

そこにあるのは仕事終わりの一杯を楽しみに、

仲間と働く市井の人々の暮らし。

 

なんでもない毎日の繰り返しで

大事件は起こらないけど、

みんなそれぞれ、「なにか」を抱えているし

ときにはうまくいかないこともある。

 

そんな市井の人々の生き様の、美しさが

いつまでもいつまでも、心に生き続ける。

ほんとに、素敵で好きだ、と思える映画でした。

 

原作は1977年、東ドイツ生まれの作家

クレメンス・マイヤーの短編小説。

その世界観に共鳴し

「社会の片隅の人々の物語を描きたかった」(※プレス資料より)という

1981年ライプツィヒ生まれ、37歳のトーマス・ステューバー監督は

実際、アキ・カウリスマキ監督が好きなんだそうです。

 

当たりだわ~

 

そして

主人公クリスティアン役のフランツ・ロゴフスキは

「未来を乗り換えた男」(18年)も印象的だった彼。

いま、キテます!

 

★4/5(金)からBunkamura ル・シネマほか全国順次公開。

「希望の灯り」公式サイト

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2019-04-01 23:49:30 | は行

ちょっとしたヒット中という

「記者たち~衝撃と畏怖の真実~」(公開中)と併せてぜひ!

“あの事態を起こした側”を描いているんですよーw

 

「バイス」70点★★★★

 

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2011年、9月11日。

同時多発テロの衝撃に見舞われたアメリカで

ホワイトハウスで陣頭指揮にあったのは

チェイニー副大統領(クリスチャン・ベール)だった。

 

不在のジョージ・W・ブッシュ大統領(サム・ロックウェル)よりも権力を持ち

長官ラムズフェルド(スティーヴ・カレル)からの連絡にも

「押せ押せ」の強気で答える彼は

まさに“陰の米大統領”だった。

 

が、もともと、相当な“ロクデナシ”大学生だったチェイニーは

いかにして、そんな権力を手にしたのか?

 

映画は1963年、若くアホな大学生チェイニーの当時を振り返っていく――。

 

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ヒット中の

「記者たち~衝撃と畏怖の真実~」(公開中)

 

で明らかになる敵、というか

「世界をこんな事態に導いた」影の張本人、

元米副大統領チェイニーを描いた映画です。

 

 

まずは政府のダメダメ状況をここまでスコーンと暴く

こういう映画が作られることに

「アメリカ、やっぱすげえ!」と敬服しましたw

 マイケル・ムーア調の劇映画、と思うといいかもしれない。

 

 

20キロ増量したという

クリスチャン・ベールの化けっぷりには

おなじみでありつつも、やっぱり度肝を抜かれるし

そこに

キツーいジョークと皮肉を満載し、当時の「事実」を見せていくのが

すげえなあと。

 

チェイニーがいかにヤバいヤツか――の暴露にもあ然とするんですが

この状況を知らずに同時代を生き、

少なからずニュースを見てうんぬんしていた自分が、

いかにアホかと思わされてウンザリしました(苦笑)。

 

それに

あの「ラムズフェルドを演じるスティーヴ・カレルもさすが。

終盤で語られる

「オレンジ顔の男が、アメリカをめちゃくちゃにしてるぞ!」には、笑いました!

 

 

しかし、ウソだらけの現ニッポン政権のなかで

アメリカの“真実”ばかりこうして映画で学んでていいのかね、我々は!と

思わずにいられないのでした。

 

★4/5(金)から全国で公開。

「バイス』公式サイト

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