夏は圧倒的だ
すべてをあまねく夏に変えてしまう
朝、カーテンを開けると
すでに鋭くて大量の夏の太陽光線が差し込んでいた
近くで、遠くで、蝉たちは一斉に命の雄叫びを上げる
日本の夏は暑い
暑いから夏とも云える
暑くてこその夏なのだ
日陰に入ってアイスキャンディに噛り付き
それでも流れ落ちる止めどない汗を手の甲で拭う
そして、あっちーっと呻く
山の木々は黄味の強い緑から青味の強い緑に葉の色を変えて
里にはムクゲやカンナが咲き揃う
電線のカラスは風上にカシラを向けて僅かに口を開く
あんな真っ黒な羽ではさぞかし暑かろう
真っ黒な舌をちょっと覗かせて
浅く速い呼吸で身体を冷却する
「かー」と投げ掛けると
「カーァ」と返す
やっぱり知り合いのカラスだった
そこへカラスがもう一羽
今度は向こうから先に「カーァ」とくる
ちょっと掠れた声
低く「かー」と返すとすぐに飛び立った
今日は暑くてみんな山陰にいるんだ、だってさ
ガレージからクロ介を引っ張り出して
ヘルメットやらグローブやら準備しているだけで汗が吹く
エンジンに火を入れてちょっとだけ暖機
さすがにこの暑さでは止まったままのアイドリングは空冷エンジンには厳しい
ゆっくりと走り出してケース全体に熱を回してやる
夏に走ると気持ちいいのは
川沿いの道
山奥の林道
あとは、峠の長いトンネル
この3つだね
梅雨の晴れ間の中干を終えて
田には再びなみなみの水が入れられていた
いっそう逞しくなった水稲たちが盛んに穂を出し
一斉に無数の花を咲かせていた
痛いほどの真夏の太陽が照り付ける誰もいない静かな田んぼで
ひっそりと、そして次々に小さな花を開く
そのひとつ一つが実を結んで小さな米粒になるのだ
なんとも、ありがたい光景だ
水を湛えた水田を吹き抜ける風が気持ちいい夏の午後
風が抜けるたびに稲穂が揺れ
稲穂が揺れるたびに風が吹き抜ける
水稲の狭間を抜けてくる涼やかな風は実にありがたい
そしてそこへ夏の太陽はまっすぐ、何の迷いも感じさせずに降り注ぐ
不満も怒りも疑問も蔑みもない真っすぐな気持ちのような日差しだ
その中にいるとこんなに心が汚いボクまでが
ただただ穏やかに呼吸していられるのがわかる
キッタないボクをちょっとだけ素直にしてくれる
いつでもこんな風に生きられたらどうだろう
宮沢賢治だな
ホメラレモセズ
クニモサレズ
誰にも慕われる「いい人」
・・・いい人、か
何だろうな
調子のいい人
都合のいい人
頭のいい人
人当たりのいい人
感じのいい人
要領のいい人
羽振りのいい人
いやいや、むしろ
身持ちのいい人、か
そこへまたカラスが「カーァ」とひと鳴き
「さしずめあんたなんざぁ、どうでもいい人さ」
おいおい
ボクだってせめて、どこぞのあの娘の「いい人」くらいにゃぁなりたいぜ
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