自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★個性と物語「在来イネ品種」にほれ込む

2021年01月16日 | ⇒ランダム書評

    能登半島の尖端にあり、小学校の廃校舎を活用している金沢大学能登学舎で、2007年に始めた人材育成事業はことし14年目を迎える。スタートの第1フェーズでは「能登里山マイスター養成プログラム」との名称で、そして現在は第4フェーズに入り、「能登里山里海SDGsマイスタープログラム」と改称し、国連のSDGsの考え方をベースに里山里海の持続可能性を学ぶカリキュラムとして社会人受講生に提供している。

   能登は自然環境と調和した農林漁業や伝統文化が色濃く残されていて、2011年には国連の食糧農業機関(FAO)から「能登の里山里海」として世界農業遺産(GIAHS)の認定を受けるなど、国際的にも評価されている。一方で、能登は深刻な過疎・高齢化に直面する「課題先進地域」でもある。新しい地域の仕組みをつくり上げる、志(こころざし)をもった人材が互いに学び合い切磋琢磨することで、未来を切り拓く地域イノベーションが生まれることをこの人材育成プログラムに込めている。

   これまで13年間で修了生は196人。面白い取り組みで注目されているマイスターがいる。能登半島の付け根に位置する羽咋(はくい)市で農業を営む越田秀俊・奈央子さんから「今月号の『現代農業』(2月号)に在来イネ品種のことを投稿しました」とメールで便りが届いた。二人はマイスタープログラムで学び、その後結ばれた。

   『現代農業』で「在来イネ品種に惚れた!」とのタイトルで投稿記事が紹介されていた=写真=。かつて、日本には多様な在来イネ品種があった。歴史の中で淘汰され、今はコシヒカリなどが主流だが、在来品種にはそれぞれ個性と物語があり、復活の兆しがある。就農5年目の二人が取り組んでいる水稲は「銀坊主」「関取」「農林1号」など。

   中でも、銀坊主は明治時代に富山の農業者が1株だけ倒れないイネを発見したことがきっかで北陸などでかつて普及した。この倒れにくい耐倒伏性は荒れ気味の天候にも強く、二人はこの品種に生命力を感じている。さらに、素朴で主張しない味は、濃い味付けのおかずに合うそうだ。奈央子さんは「銀ちゃん」と親しみを込めて栽培に工夫を重ねている。

   秀俊さんは投稿記事の中で、在来品種について「私たち新規参入者にとってはありがたい側面があります」と2つのメリットを上げている。栽培者が少ないので競合を避けることができること。そして、品種そのものに物語があるため、購入者に説明しやすい。何より、「古い品種の栽培はとても面白い」と。芒(のぎ)の長さや葉の鋭さ、太さ、収穫量、野性味など品種ごとに違いがあり、「こんなイネがあったんだ」と新鮮な驚きを届けてくれる。在来品種にほれた二人が懸命に栽培に取り組む様子が目に浮かぶ。

⇒16日(土)午後・金沢の天気     あめ


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