福岡護国神社では、昨年から再開された「蚤の市」を定期的にやっています。久しぶりに境内を覗きにいくと、参道にはアンティークの露店や飲食の屋台がひしめいていて、参道が人で埋まるほどの賑わいでした。ゆっくりと店先をひやかすこともできないので、雑踏を抜け出し末社の稲荷神社を抜けて、六本松一丁目の特徴のある住宅街に出ました。
ここは、幾筋もの路地を挟んで古い住宅が立ち並んでおり、昭和レトロな雰囲気を醸し出しています。この街の古民家を改装した特徴のある店々が魅力的で、包装紙専門店、カフェ、たこ焼き屋、キモノブティック、猫のもの限定の本屋「書肆吾輩堂」など、若者たちの夢の結晶がキラキラと並んでいます。
路地裏に入ったところにある鯛焼き屋で、鯛焼きとコーヒーを頼んで2階に上がって時間を潰していると、お客さんが途切れることがないのに驚きました。ソファの周りを改めて見直して、そこがリフォーム前は間違いなくキッチンだったことがわかります。もとの間取りを残したままのというのが、かえって古屋の記憶と溶け合うような効果をもたらします。窓越しに見える路地の向いの家の、長い間使われていないベランダを眺めると、懐かしいような、時間が歪むような不思議な気持ちになります。
このあたりは、戦後引揚者のための住宅地として、国と護国神社が土地を提供した地域で、住民と神社との定期借地契約で、レトロな街並みが保たれているといいます。グーグルマップで見ると、道路でぐるりと囲まれた住宅街は、大濠高校と護国神社の広大な敷地のなかにぽっかりと出現した浮島のように見えます。私にとっては夢の浮島です。
ここの古屋をセレクトショップとカフェにリフォームした業者さんの話では、解体工事の際に壁内から「1948年3月18日」の日付の英字新聞が出現したということです。まぎれもなく戦後まもなく建築した建物を70年以上経ってリフォームし、それを再び50年の定期借地契約を結んだというのですから、驚くべき長さの時間感覚がこの街を支えていることがわかります。
何より嬉しいのは、リフォーム業者が、この古屋を可愛くて仕方がないと言っていることです。
古いものを残すことが無条件に良いとは思いません。しかし古いものを残せる特別な条件が揃っていて、そこに若い感性が響き合うのならば、それは街づくりの希望に、ほかならないのではないでしょうか。6月に開業するリッツ・カールトン福岡の将来よりも、このレトロな街並みの明日の方が、私はずっと気になります。