
大鐘稔彦「孤高のメス1~6巻」幻冬舎文庫 H19年刊。
今日も雪が降り、外へ出るのが億劫だ。この処読書に浸りきりである。ぶんこ本6巻のシリーズを4日位で読んでしまった。
本書は敏腕外科医師の活躍と苦悩を描く医療小説。婚約者の死を契機として、在野医療(大学病院系の階層社会に対して現場臨床系の治療重視の医療)を生涯の目標とする主人公の物語。
気鋭の外科医師は持ち前のオペ技術、見識から、大学病院で抜群の成績を上げ、アメリカの肝移植医療現場でも実績をあげる。帰国した彼は引く手あまたの中で、就職先として選んだのは琵琶湖西岸の民間病院。地元の大学病院との確執、病院内のやっかみ、治療スタッフとの人間関係等色々な波乱が周りに渦巻く。著者は同じ外科医らしく、横文字の専門用語を多用するのがちょっと煩わしいが、開腹手術の描写は精緻を極める。
白い巨塔、ブラックジャックなど医療小説は一定のジャンルを形作るが、この著者は、病院経営(大学病院を含め)、医学部内のの勢力争い、大学医学部と民間病院との関係、などに造詣が深い。著者自身が現在淡路島の僻地医療に従事しているせいか、なにか政治的関係に嫌気が差してこのような客観的な描写がされているのだろうか。小説家のフィクションと片付けられない機微に触れている。
また同じ医者が言っているのだから間違いないと思うが、医師の個人的な力量差がこんなにあるとはびっくりである。
愛知出身の著者は年齢も同じで、高校の同級生に同じ姓の男がいた。優秀な男だったから、ひょっとしたら同一人物かもと妄想をたくましくしている。