トマ・ピケティ「新・資本論」村井章子訳 日経BP社2015年刊
話題の経済学者、さきごろ来日したことでも有名になった。資本収益率(r)>経済成長率(g)を統計学的に証明し、富の集積が現代で進み、格差が増大している、と主張。これがマルクスの資本論に類似していることから、新資本論と言われていると思われる。
本書は仏全国紙リベラシオンに毎月連載した時評をまとめたものである。テーマはリーマン・ショックの時のグローバル金融危機、仏大統領の交代に伴う政策変更、税制改革、年金改革、大学改革など多岐にわたる。
経済成長のスピードにもまして資本集中と集積が進んでいるので格差は加速度的に広がり、機会格差も生じている。それに対してEUは有効な手を打っていない。所得累進課税、租税回避地の廃止、資産課税の強化などで対抗すべきであると提言している。
サルコジ政権の施策、オランド政権の政策についてズバズバと批判し、対案を出している。単なる批判ではなく対案を提示しているところが単なる学者ではないようだ。きっと「21世紀の資本」では統計数字を駆使し、わかりやすく説明しているのだろう。
マルクス資本論を読んだ時より、かなり頭が硬くなっているので、このコラム集というべき軽い文章もなかなか頭に入らなくなっているのが口惜しい。しかしそれにしても時の政権に対しこれだけはっきり批判できるのはフランスという国の健全なところだろう。最近の日本のマスコミがこのように真正面から政権批判をしていないことを考えると暗然たる思いである。