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ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

瓦版040 ぐうたらグーダ

2007年09月07日 | ユクレー瓦版

 マミナの亭主はぐうたらだったらしい。どうしようもないぐうたらだったので離婚したらしい。結婚生活は7年間だったらしい。二人の間に子供はいなくて、独り身となったマミナは田舎へ引っ越したらしい。再婚すること無く、母になることも無く、学校の先生として生きてきたらしい。生来の真面目さと面倒見の良さで、教え子たちだけでなく、周囲の人々とも仲良くやっていたらしい。平穏な日々だったらしい。
 そうやって、数年の歳月が流れたある日のこと、マミナのもとを警官が訪ねてきた。別れた亭主が野垂れ死にしたという知らせであった。元亭主は、マミナの住む村の手前、道端の草むらにうずくまって死んでいたらしい。死因は餓死とのことであった。
 元亭主のポケットには1枚の紙が、きれいに折り畳まれて入っていた。表にはマミナの名前が書かれていた。それは、封筒の無い手紙であった。
 「思い出すと悲しくなるので」と、マミナは手紙の内容について詳しくは語らなかったが、「ごめんな。許してな。」といった言葉がいくつも書かれたあったらしい。そんなことがあって、マミナはユクレー島にやってきた。激しい後悔と深い悲しみに耐え切れず、海岸をフラフラと歩いていたら、いつのまにかユクレー島に立っていたとのこと。

 そんなマミナの身の上話を肴に、今宵はしっとりと我々は酒を飲む。激しい暑さだった真夏も終わって、いくらか涼しい風が吹く9月の夜であった。

 「まあ、何ていうかさ、愛も辛抱も足りなかったんだね。若かったんだね私も。若かった頃はさ、体重も足りなかったんだけどね。」酒豪マミナは、グイっとコップの泡盛を一口飲んで、「カッ、カッ、カッ、」と豪快に笑う。
 「おー、昔は痩せていたらしいな。可愛かったらしいな。笑い方もきっと、カッ、カッ、カッ、では無く、ウフフとかだったんだろうな。」(ケダ)
 「笑い方もお腹も」とマミナは自分の腹をポンと叩いて、「愛に溢れてるのさ。」と言い、チャーミングな笑顔を溢れさせる。

 と、突然、辺りが薄暗くなり、靄が立ち込めたようなぼんやりとした空気に変わった。奴だ。グーダだ。最近ちょくちょく顔を出すので、その前触れにも慣れた。すぐに、カウンターの、ケダマンの隣の、私の隣にグーダが姿を現した。
 「おっ、グーダ、今日はお呼びじゃないぞ。」(ケダ)
 「そうだよ。しっとりした、愛に溢れる話をしてたんだ。」(私)
 「あー、いや、ぐうたらという言葉が気になってな。」とグーダは言い、マミナの方に顔を向けて、「やー、マミナだね、久しぶりだな。ビールちょうだい。」と続ける。
 「うん、久しぶりだね。あんまり会いたくないんだけどね。悪魔には。」
 「まあ、そう言いなさんな。前に会った時は機会が無くて話せなかったんだがな、お前の元亭主のことを俺はちょっと知ってるぜ。あいつ、自分の力だけでは立ち直れない状態に陥っていたんだ。悪魔に憑り付かれていたんだ。」
 「あっ、そうか。ぐうたらな悪魔グーダに憑り付かれていたから、マミナの亭主もぐうたらになってしまったんだ。なるほど。」(ケダ)
 「俺じゃ無ぇよ。ぐうたらな悪魔じゃ無ぇよ。」

  グーダによると、マミナの亭主に憑り付いたのは強欲な悪魔ということであった。
 「パチンコに金使ったり、飲み屋の姉ちゃんに金使ったりするのは、誰かのためにやっていることじゃ無いだろ?それはただ、自分の欲望を満たすためにやっていることだ。そんなところを運悪く、我欲を食い物にする悪魔に見つかって、憑依されてしまったんだ。ついには、周りの人の心が見えなくなるほど欲に埋もれてしまったんだな。」
 「その時、私の力が必要だったんだね。」(マミナ)
 「うん、まあ、そうだったかも知れないな。」(グーダ)
 「でもよー、欲が無いと人間、生きていけないだろ?」(ケダ)
 「確かにそうだが、他人を思いやるっていうのも人間の本能だぜ。それを、他人を押しのけて自分が、という本能だけを助長させるなんてのはさ、動物として退化しているということだぜ。自分のための欲を抑えて、他人のための欲を先に感じることが進歩だと思うな。まあ、人類は、精神的には退化しいてるってことだ。悪魔にとっては好都合さ。」
     

 そんな話が続く中、夜も更けていく。窓からは秋の涼しい夜風が流れ込んでいた。
 「何だか、良い空気になってしまったな。悪魔失格だな。そろそろ帰るとするか。」と言うグーダに、マミナが訊いた。
 「この島が平和なのは、他人を思いやる本能が勝っているからだね?」
 「まあ、そういうことだな。それに、我欲を抑えることが結局は、島全体としては得だということを村人の多くが知ってるのさ。」とグーダは答え、スーッと消えた。

 記:ゑんちゅ小僧 2007.9.7


太った猿

2007年09月07日 | 通信-沖縄関連

 世界的に見れば金持ちであるが、日本国の中では貧乏人にランクされる私から金を借りた奴がいる。Mという。彼は私の3倍近い年収がある。体重も1.5倍ある。
 「来月の給料が入ったら返す」という話だったが、その日になると、
 「来月、模合金を取るから、それで返す」という話だったが、その日になると、
 「7月のボーナスまで待ってくれ」という話だったが、その日になると、
 「12月のボーナスまで待ってくれ」とヘラヘラ笑いながら言う。ふざけた野郎だ。
 「おめぇが遊ぶために、俺は炎天下で肉体労働をしてるんじゃ無ぇぞ!」と私は言いたいのである。4月に借りて、5ヶ月経った今でもまだ返さない。良い奴なんだが、古くからの付き合いなんだが、催促してもヘラヘラ笑うばかりの彼を見ていると腹が立つ。なので、ヘラヘラ顔を眺めながら、「太った猿め!」と心の中で罵ることにしている。

  新しく事業を始めた友人がいる。Hという。そのオープンパーティーが先週の土曜日にあって、私も出席した。じつはその1年余り前、世界的に見れば金持ちであるが、日本国の中では貧乏人にランクされる私に、「出資しないか?」との依頼がHからあった。彼は私の貧乏を知らないので、全くの善意からの申し出である。
 Hは有能であり、誠実である。温厚で正義感が強い。長い付き合いの中でそれらのことを私は感じている。勤めていた会社での一所懸命な仕事ぶりも友人たちから聞いて、知っている。そんな彼なので十分に信用できる。信用度はMとは雲泥の差がある。
 それでも私は、彼の申し出を断った。貧乏人の私が断った理由はもちろん、「貧乏だから」である。数万円ならともかく、数十万円という大金である。それは私の全財産に値する。何かあった時に使える金が無いという状態になる。それは嫌なのである。

 断った理由は「貧乏だから」ということが9割方占めるが、残りの1割に、別のちょっとした理由があった。Hが始める事業についての知識が、私に無かったのである。
 「太った猿?猿を太らせて何するつもりだ?食うつもりか?」
          

  私はスポーツ観戦を、テレビでも実物でもほとんどやらない。スポーツにはあまり興味がないのである。朝青龍がどーのこーの、ハンカチ王子がどーのこーの、ハニカミ王子がどーのこーのなどは、ニュースで知っているだけである。
 サッカーにもあまり興味が無くて、Jリーグの試合どころか、ワールドカップの予選どころか、ワールドカップの本戦でさえ、実況中継を観ない。ニュースで済ませる。そんな私なので、フットサルと言われても、「何それ?」だったのである。

 オープンパーティーでの挨拶によると、フットサルは南米などで盛んで、日本でもこれから人気の上がるスポーツらしい。Hの始めた事業というのは、フットサル競技場の運営である。2年間悪戦苦闘して、やっとオープンとなった。成功を祈る。
          

 記:2007.9.7 島乃ガジ丸