「今日は土曜日だしさ、ガジ丸も、勝さんも新さんも太郎さんも来るしさ、宴会でもしようか?」とマミナが、カウンターに座っているケダマンと私に向かって言う。
「土曜日と、ガジ丸、勝さん、新さん、太郎さんが来るのは毎週1回、決まってやってくるじゃないの。毎週、宴会ということになるじゃないの。」と私が応える。
「いや、まあ、そう言われればそうだけどさ。マナが旅に出てもう一ヶ月くらいになるでしょ。傷心も癒えて、そろそろ戻ってくるでしょ。今日辺りが、私がユクレー屋のカウンターにいる最後の土曜日かなと思ってさ。」
「おー、そういえば、マナが旅に出てからもう一ヶ月になるか。早ぇもんだな。しかしあいつ、何してるんだろうな一ヶ月も。自殺でもして無ぇかな。」(ケダ)
「自殺は無いだろうよ。何度もどん底を味わって、それでも生きてきている女なんだからさ、今更、男に振られたくらいで死にはしないよ。」(私)
「そうだよ。そんな軟な女じゃないよ、マナはさ。」(マミナ)
「ところでさ、宴会って、俺たちいつも宴会みたいなんだけど、何するの?」(私)
「そうだね、涼しい風も吹いているしさ、外でやろうか。今夜は月の無い夜だからね、星がきれいだよ。天の川もくっきりだよ。庭にゴザを敷いてさ、勝さんたちにサンシンでも弾いてもらってさ、皆で歌い、踊り明かすなんてのはどう?」(マミナ)
「外?・・・歌い踊り明かす?・・・って、それ、来週やるじゃない。」(私)
「あっ、そうか、来週の初めにはもう中秋の名月だね。月見だね。」(マミナ)
「んだ、いいよ、今日は中で。今から準備するのも面倒臭いしよ。」(ケダ)
「準備するって、あんた、何準備するつもりだったの?いつもただ座って、飲んで、食べて、歌って踊るだけじゃないの。それとも、今日は料理でもしてみる?」(マミナ)
「バカ言うんじゃ無ぇ、自慢じゃないが、男子厨房に入らずを頑なに、一生守り続けてきた俺だぜ。料理なんかできるわけ無かろう。」(ケダ)
「んじゃ、何を準備するんだい?」(私)
「何って、うーん、例えばだな、料理を運ぶとかだな・・・。」(ケダ)
「まあ、それはそれは、有難いさあ。そんな機会がきたらお願いね。」(マミナ)
なんて会話をしているうちに、ガジ丸、ジラースー、勝さん、新さん、太郎さん御一行がやってきた。ジラースーが手に持っている袋をマミナに渡して、
「マミナ、これ、近所の農家から貰ってきた。ズッキーニとか言ってた。キュウリのような形をしたカボチャのような味の野菜だとよ。知ってる?料理できる?」
「はいはい、知ってるさあ。料理も任せてちょうだい。」とマミナは言って、
「あっ、そうだ。今日はさ、みんながあまり食べたことの無い料理をいろいろ作ってあげるよ。私の日頃の酒の肴なんだけどさ。」と続けて、台所へ向かった。
酒豪マミナの肴とは楽しみである。ケダマンと私もカウンターを離れ、テーブルを二つ合わせて、皆と同じ席に着き、マミナの料理を待った。
座って5分も経たない内に、
「ケダ、こっち来て!」とマナが大声でケダマンを呼ぶ。
「えーっ、なんだい!今座ったばかりだぜ。」と嫌がるケダマンであったが、
「料理運ぶんだよ!今、その機会が来たんだよ!」と怒鳴られて、渋々、マミナのもとへ行く。さっきの約束が早速果たされることとなった。
最初の一皿はヒジキのサラダで、前菜とのことであった。それからそう間を空けることなく、ズッキーニのソテー、アーサヒラヤーチー、マーボオクラ豆腐、煮ダイコンなどなどが次々と出てきた。どれも美味しかった。皆の評判も良かった。
「確かに美味いんだが、マミナ、これ全部野菜じゃないか。おめぇ、こんなのばっかり食っていて、何でそんなに太っているんだ?」とケダマンが訊く。「美味い」だけで済ませばいいものを「太っている」なんて要らん事を言う奴、と思ったが、マミナはユーナやマナとは違う。大人である。ケダマンの軽口を軽く右から左へ受け流す。
「私の体はね、脂肪で丸くなってるんじゃないのさ。私の体には人々からの愛と、人々への愛の、両方の気が充満して、それで丸くなってるのさ。」とニカッと笑う。確かにその通りなのだと思う。マミナの心は深くて広い感じがする。
皆がマミナの美味しい料理を味わって、幸せになって、ある程度飲んで、さらに幸せになって、愉快な気分になった頃、マミナが言う。
「ピアノでも弾こうか?ジャズやポップスはできないけど、童謡、唱歌ならたいていのものはできるよ。みんなも知っている曲を弾くからさ、みんなで歌おうよ。」
ということで、この夜はマミナ先生の伴奏で、皆で懐かしい唱歌、童謡を歌い、愉快な上、幸せな気分に浸りつつ、夜は更けていった。
ふーけゆくー あーきのよー ・・・歌声が夜空に響き渡った。
記:ゑんちゅ小僧 2007.9.14