穏やかな気候の週末、浜辺を散歩していたらシバイサー博士に会った。例の如く、とろーんとした目をしていた。で、酒の話を思い出して、先日、「誰が一番酒に強いか」っていう話題で盛り上がったという話をする。博士はちょっと興味があるようで、
「誰が一番酒に強いかは判らんが、誰が一番大酒飲みかは判っている。」と、口の辺りを手で摩りながら博士は言った。博士がその名を出す前に、私が答えた。
「それは私も判っています。大酒飲みは間違いなく博士です。」
「んだ、その通り。だが、私よりもっと大酒飲みがいる。これは、マジムンでも人間でも無いので『誰が』という範疇には入らないと思うが、まあ、あえて含めてもらえれば、そいつが断トツに一番大酒飲みだな。何しろ、酒を飲むために作ったからな。」
「作ったということは、それはロボットですか?」
「んだ。名前をバーキヤロウという。バーキは知ってるな?ウチナーグチでザルのことだ。その名の通り、酒に対してバーキということだ。」
「はあ、それは判りますが、そんなロボットがいったい何の役に立つんですか?」
「酒に溺れる人間のために作った。アル中防止ロボットと言っても良い。」
「ほほう、それは良いですね。大いに役に立ちそうですね。」
「飲みに行く際、これを携帯していく。20センチほどの高さしかないので、テーブルの上、膝の上、足元などに置いても邪魔にならない。そして、バーキヤロウはその人間の酔い加減をセンサーで感知して、飲みすぎると注意してくれるというわけだ。」
「博士、でも、たぶん、注意するだけでは飲兵衛は止まらないでしょう?」
「その通り。そこで、その人間が限界を超えそうになると、バーキヤロウの最終システムが起動する。人が酒を飲もうとすると、横からその酒をスップ(吸取)って奪い取るのだ。酒を奪い取って、その代わりに酒の味がするアルコール成分ゼロの特別な液体をグラスに入れる。人間はいくらグラスを口に運んでも、もうそれ以上アルコールを飲まなくて済むわけだ。また、バーキヤロウのお腹は異次元世界に繋がっていて、どんなに大量の酒でも平気なのだ。だから、飲むのを諦めるまでそれを続けることができる。」
そこまで聞いて、これは、博士にしては珍しく役に立ちそうなロボットだと思った。需要は多いに違いない。たくさん売れるかもしれない。
「で、博士、それは実用化されたのですか?使った人間はいるのですか?」
「実用化っていえば実用化できないこともないが、前に、ジラースーの友達でひどく酒に溺れる男がいてな、彼に1度使わせたことがある。」
「ほほう、で、その実験結果はどうでした。」
「いやー、私も酒飲みのくせして、酒飲みの気持ちを甘く見てたよ。」
その結末についての博士の話を要約すると、ジラースーの友達がバーキヤロウを携帯して飲みに行った。ジラースーも同席していて、話はジラースーからの情報である。
いくら飲んでも酔いが深くならない男は、しまいには怒って、『バーキャヤロウ』と大声で怒鳴りながら、バーキヤロウを叩き潰したとのことであった。バーキヤロウ、最初の名前はバーキダヨーンだったらしいが、そのエピソードの後にバーキヤロウと改名したということである。どうせ役に立たないんだったら、改名する必要も無かろうと私は思ったのだが、博士は、その名前にだけは満足しているみたいであった。
記:ゑんちゅ小僧 2008.5.16