「その島のルールはたった一つなんだ」と真迦哉は言う。たった一つのルールで成り立つ国があるということに私は興味を持ったが、「春になって暖かくなると、男も女もほとんど裸で生活し、フリーセックスなんだ」にはさらに強く興味を持った。
「裸って、真っ裸か?」
「いや、バナナの葉やクバ(ビロウ)の葉で作った腰蓑のようなものは着ている。」
「女もか?おっぱいは丸出しなんだ。」
「丸出しだし、下半身だってちらちら見えている。」
「それでフリーセックスか?」
「おう、いつでもどこでもOKということだ。」
「好みの男では無いから断るということはないのか?」
「それはある。よくある。頻繁にある。断られてばかりの男だっている。」
「断られてばかりいるなんて可哀想だな、強姦はしないんだ?」
「女は断れるし、男は強姦しない。それもたった一つのルールを守っているからだ。」
真迦哉によると、フリーセックスで生まれた子供は父親が誰なのか特定できない者も多くいる。よって、その島の子供達はみな島の子供として村中で面倒を見る。子供だけでなく、妊婦も授乳期間中の母親も村中が面倒を見る。それはルールでは無く慣習とのこと。その方が島の全体の幸せに繋がるという共通認識を持っているらしい。
温かい島なので暖房冷房の人為的環境作りはあまり必要なく、それに費やす時間や労働は要らない。島人の労働は主に食料取得だけとなる。島人の多くが畑仕事をし、芋などを育てているが、海にも野山にも食料はあり、畑が無くても食ってはいけるそうだ。
食っていける安心感があるから余計な競争はしない。島人の多くが心穏やかでのんびりしている。惚れた女に見向きもされない男供は少々鬱屈しているが、女同士の諍いもたまにはあるが、いずれも大事には至らない。村の長老たちによる叱咤激励、慰め、調停などの力もあるが、島人の全てに生まれた時から教え込まれ、心に深く染み込まれているたった一つのルールが、島の平和維持に大きく寄与しているとのこと。
「その、たった一つのルールっていったい何なんだ?」
「普通のことだ。他人の生命財産を勝手に奪ってはならぬ、ということだ。」
「確かに普通だな、たったそれだけなんだ。」
「しかし、それがあるから他人を傷付けることもできない。まあ、島が穏やかだから傷付けることが好きという悪党も生まれないのさ。世の中がギスギスしているから、他人を傷付け、残虐に殺すのが好きなんて極悪非道の輩も生まれるんだと俺は思うぜ。」
言い遅れたが、真迦哉とは私の夢の中に出てくる、謂わばもう一人の私。彼とは度々、夢うつつの中で妄想を語り合っている。気になっていることを最後に訊いた。
「いいなぁ、そんな島。そこで暮らしてみたいよ。あー、でも、問題が一つ。女に断られてばかりいる男は一生、性行為ができないのか?それは嫌だなぁ。」
「そんなこたぁ無ぇよ。そういった男供は年増の女がたっぷり面倒みてくれる。」
「真迦哉、その島へ俺を連れて行ってくれ。」と頼んで、その日の妄想はお終い。
記:2015.2.20 島乃ガジ丸