虫は昆虫の虫であるが、広辞苑によるその第9義に「ある事に熱中する人」とあり、例として「本の虫」を挙げている。表題の『漫画虫』の虫はその意。沖縄ではその意で虫も使うが、オーを使うことがより多い。オーはおそらく王の意、漫画の王様ということになるが、良い意味では無く、漫画を読んでいるトップということ。私は父に「漫画オー」とよく怒鳴られた。ちなみに、「ヤーサオー」ともよく言われた、ヤーサはヤーサンで「ひもじい」という形容詞だが、ヤーサオーで沖縄語辞典にあり、「すぐ腹の減る人=食いしんぼう」のこと。今の私は小食だが、子供の頃はよく食っていたかもしれない。
私は子供の頃から青年期まで漫画王だった。子供の頃、両親はなかなか漫画雑誌を買ってくれなかったが、友人が持っているものを借りたりして読んでいた。小学校の頃は少年サンデー、少年マガジン、少年キングという漫画週刊誌があり、少年とか少年画報とかの漫画月刊誌があった。その他、小学○年生といった学習雑誌にも漫画は載っていた。
サンデーに『おそ松くん』、『オバケのQ太郎』、マガジンに『巨人の星』、『ハリスの旋風』があったのは覚えている。どの雑誌に載っていたかは定かでないが、漫画の神様手塚治虫作品の『鉄腕アトム』や『ジャングル大帝』、ボクシング漫画の大傑作、ちばてつやの『あしたのジョー』、ロボット漫画の大傑作、横山光輝の『鉄人28号』、妖怪漫画の大傑作、水木しげるの『ゲゲゲの鬼太郎』、ギャグ漫画の大傑作、赤塚不二夫の『天才バカボン』、忍者漫画の大傑作、白土三平の『サスケ』、サイボーグ漫画の大傑作、石ノ森章太郎(当時は確か石森章太郎)の『サイボーグ009』、その他にも、藤子不二雄の『忍者ハットリくん』や『怪物くん』などなど、よく覚えている。
タイトルだけ覚えているものならまだある。『エイトマン』、『伊賀の影丸』、『少年忍者部隊月光』、『紫電改のタカ』、『バビル二世』、『柔道一直線』など、まだあるがキリが無い。これらの作品の作者はおぼろげである。漫画家の名前だけ覚えているものを挙げると、望月三起也、永井豪、松本零士、やなせたかし、その他たくさん。
漫画雑誌は上記の他、マーガレットとかリボンとかの少女漫画雑誌もあった。私は大きな目にキラキラと星が輝いているのが苦手で、少女漫画はほとんど読まなかったのだが、赤塚不二夫の『ひみつのアッコちゃん』、手塚治虫の『リボンの騎士』、横山光輝の『魔法使いサリー』の3作品はよく覚えている。何度か読んだと思う。
おっと、大事なものを忘れていた。手塚治虫の『火の鳥』、近所の友人が分厚い本を持っていた。それを借りて読み、子供ながら「すげぇ!」と感動した。大人になってから全巻購入し、何度も読み返した。大人になってからで言うと、作品名では『カムイ外伝』、『ブラックジャック』、『ゴルゴ13』、『じゃりんこチエ』などの他たくさん、漫画家名では大友克洋、いしいひさいち、ますむらひろし、東海林さだおなど、これもキリが無いので、大人になってから読んで夢中になった作品については次回ということにして、
子供の頃の漫画経験を1つだけ、赤塚不二夫の『天才バカボン』で涙が出て呼吸困難になるほど大笑いしたことがある。その場面は今でも覚えている。赤塚不二夫はギャグ漫画の天才だと思った。その時と同じ位大笑いしたのはコント55号のコントで1度あったかどうかくらいで、それ以降、今日の今まで、私は大笑いをしたことが無い。
記:2016.6.3 島乃ガジ丸
畑のバナナが1房、数ヶ月前から垂れ下がっていた。季節が冬だったこともあってなかなか色付かなかったのだが、5月中旬になって上部の1列が黄色くなり始めた。「明日には収穫した方がいいな」と思ったその明日、朝、畑に行ってすぐにバナナを見る。ところが、収穫しようと思ったその1列がごっそり消えていた。何者かに盗られたようだ。
私の畑(借り物だが)ナッピバル(と名付けた)の番鳥(ナッピバルに住みついているイソヒヨドリ)が近くにいたので、呼んで、「何か知っているか?」と訊いた。
「念のために言っておくが、俺じゃねーよ。」
「分かっているよ、お前はバナナを食べないし。」
「盗られるところを見ていないからなぁ、何とも言えないなぁ。」
「ここ数日、怪しい奴が畑に来たことはないか?」
「俺の女房は知っているか?」
長い間独身であった我が畑の番鳥、河原万砂(かわらばんさ、私の命名)にも昨年春やっと恋人ができ、結婚もした。そして、今年もまた、同じ相手かどうか不明だが、めでたくゴールインしたようで、彼女も今、ナッピバルに住みついている。彼らの寝床は隣の藪の中にあるようで、彼女を目にする機会はバンサを見る機会よりずっと少ないが、それでも、時々仲良さそうに並んで立っているのを見る。
「あー、そうか、言い忘れていた、結婚おめでとう。」
「あー、ありがとう。そう改めて言われると照れるなぁ。」
「どうだい、結婚生活は?子供はできたか?」
「子供は3羽、女房が面倒みているが、俺も餌をやっている。大変だよ子育ては。」
「女房とは上手くいっているのか?」
「指図好きな女で、俺も扱われているよ。お前が結婚しない理由がよく解るよ。」
「ふーん、そうか、鳥の世界でもそうなのか。いや、そんなことよりバナナ。今日食えるかと思っていたんだ、犯人を捜し出してやる。怪しい奴を見なかったか?」
「虫どもは除外して、バナナを食えるほどの大きさで俺の女房以外だと、そうだな、ヒヨドリ、シロガシラ、メジロなどはよく見るし、カラスもたまにやってくるが、奴らがバナナ食う時は突っついて食う、その場合実は残る、ごっそり消えることはない。」
「うーん、そうか、番鳥のお前が言うんだからそれはきっと確かだろう。そうか、それじゃあ、バナナをごっそり食いそうな奴は他にいないかなぁ?」
「バナナをごっそり食いそうって言ったら、オオコウモリかなぁ、向かいの森に何匹かが住み着いているってのはお前も知っているだろう?」
「あっ、そうか、そうだったな、オオコウモリがいたな。犯人はオオコウモリか。」
「いやいや、そう早合点するな、犯行現場を見ていないから断定はできないぞ。確かにオオコウモリの可能性もあるが、もう1匹、容疑者はいるぜ。」
「もう1匹?何者だそいつは?」
「うん、もしかしたらマングースかもしれない。奴は木登り上手だ。」
「あっ、そうか、マングースもいたか。そうか、マングースか。」
「あー、どちらかというと、犯人はマングースの可能性が高いと俺は思うな。」
そういえばそうなのだ。この辺りでバナナを食う奴と言えば、犬や猫ももしかしたら食うかもしれないが、人間の他にはオオコウモリかマングースしかいない。犬や猫はこの房の高さまで届かないし、人間なら、どうせ盗むんだったら1列だけじゃなく房ごと持って行くだろう。そして、バナナの房はバナナの葉に隠れて空から見えないからオオコウモリの目には気付かない可能性が高い。マングースは地面を走り回る、下からだとバナナの房は丸見えだ。バンサの推理通り、犯人はマングースの可能性が高い。
で、さっそく、マングース対策をする。房に袋を被せた。2列目が熟する頃となった2日後、袋を開けてみるとバナナは無事であった。ただ、無事で食えたのではあったが、房のあちらこちらにヤスデなどの小さな虫が着いていた。
さらにその3日後、3列目が熟する頃となった、袋を開けてみたら、3列目の半分は腐ったようになっていて、残りの半分も何者かに食われた跡があった。房にはヤスデなどの小さな虫がわんさか着いていた。3列目は1本も食えなかった。
袋を被せると風も太陽も当らないジメジメした環境となり、そんな環境をヤスデなどの小さな虫たちが好み、わんさか発生したものと思われる。
虫に食われたバナナを地面の上に並べて、未練がましく写真を撮り、失ったものを残念に思いながら「あーぁ」と溜息ついていると、バンサがやってきて言った。
「房に着いた虫は俺たち鳥の食い物だ、袋を被せるとよ、房に着いている虫に俺たちは気付かない。だから、虫たちにとっては袋の中は天国みたいになるんだろうな。」
「知っているんだったら先に言えよ!バーカ。」
「知らねぇよ、バナナの房に袋を被せたのは、お前も初めてだろうが、俺だって初めて見たことだ、人間のお前なら、そんなこと本で読んで勉強しとけよ、バーカ。」
うっ、確かにバンサの仰る通りだ、鳥ごときに「バーカ」と言われて腹は立つが、不勉強の私に非はある。しょうがない、この失敗は良い勉強になったと思うことにした。バナナ泥棒がいる、犯人はおそらくマングース、そして、通気性の悪い袋を被せると袋の中に虫がわんさか発生する、などということを私は今回勉強できた。
バナナの房にはまだ3列の実が着いていた。房を切り取って小屋の中で保管し、そこで追熟させ、後日、美味しく頂いた。バナナ泥棒の真犯人はまだ判っていないが、明日のための勉強もできたし、めでたしめでたしということで、この話はお終い。
記:2016.5.28 ガジ丸 →ガジ丸の生活目次