唐松林の中に小屋を建て、晴れた日には畑を耕し雨の日にはセロを弾いて暮したい、そんな郷秋<Gauche>の気ままな独り言。
郷秋<Gauche>の独り言
縦位置で撮ろう
郷秋<Gauche>が知る限り、動物の目は一つではなく二つある。そしてその目は水平方向にやや離れて並んでいる。自分の目の数と位置を思い浮かべていただければわかる通りで、人間以外の多くの動物も同じような位置関係にある二つの目を持っている。
何故か。多分、目はとても大切なものであるから、片方がダメになって一定の役目を果たすように最初から二つある。ならば三つ四つとあれば良さそうだが、こういう動物は妖怪以外にはないようだ。大事な器官でも心臓は一つしかないから、あらかじめスペアが用意されているという説明にはあまり説得力はないかも知れない。
目が二つある理由。それは、自分のある物との距離を測るためである。一つではある物と自分との間の距離を測ることが出来ない。まったくできないかと云うとそうではなく、近くの物は大きく、遠くの物は小さく見えるから、ある程度の遠近の判断はできるが、極端に大きなものは実際以上に近く見えるし、小さい物は実際以上に遠く見えるから、困ることも起こる。
目が二つあれば三角測量の原理を引き合いに出すまでもなく、カメラのレンジファインダーの構造を引き合いに出すまでもなく、ある物と自分の間の距離を測ることが出来る。
では何故二つの目は垂直方向に、つまり、額と顎にあるのではなく、水平方向に並んでいるのか。それはきっと、水平方向に広く見渡し、水平方向にある物との距離を正しく把握するためだろう。垂直方向に広く見渡しても、その多くは空であり、一般的に空から敵が襲ってくることは少ないからだ。外敵の多くは後ろも含めて水平方向から襲ってくる。後ろにも目が欲しい所だが、後ろから襲われる(追突される)可能性のあるクルマには、目の代わりになるバックミラーが付いている。
話しがどんどん主題から離れていってしまった。軌道修正。
何故動物の目が水平方向に二つ並んでいるのかについて書いたのは、だから写真も横長なのだと云いたかったからなのである。写真つまり、カメラのファインダーは横長であり、当然ファインファーの見えた物を記録するフィルムもイメージセンサーも横長である。当然の結果として、横長の写真が出来上がる。
勿論、そのカメラを90度傾ければ縦長の写真を撮ることが出来るが、横長の写真を撮ることを前提につくられたカメラを90度傾けて撮影するのには、程度の差こそあれ、困難が伴う。縦長スタイルのローライ(リコーでもヤシカでもマミヤでも良い)の二眼レフを90度傾けて撮影することを想像すれば、それがどんなに困難な事かがすぐにわかるだろう。だからこそ、プリントの時に横長でも縦長でも自由にトリミングできるように二眼レフはロクロク(6×6、ブローニーのフィルムを真四角に使う)だったのではないかと想像するのだが、当たっているだろうか。
長い間、写真の基本フォーマットは横長であったが、10数年前に、もっぱら縦長の写真が中心となるジャンルが出現した。カメラを内蔵した携帯電話の出現である。携帯電話のディスプレイが縦長であったことから、カメラのイメージセンサーも縦置きとされ、原則としてすべての写真は縦長となった(ケータイを90度傾ければ勿論横長の写真が撮れるが、見る時にもケータイを90度傾ければならない)。
携帯電話のカメラで撮る縦長の写真は、人間の目が横に二つ並んでいて水平方向を広く見渡せるという構造からすると、実に反機能的なスタイルであると云わざるを得ないが、携帯電話が縦長であると云う構造上(操作の面からは縦長がベストだったのだろう)、人間の視界とは違和感があるフレーミングとなるのは致し方のない事だったのだろう。
やたらにいろいろ書いてしまったが、要するにほとんどすべてのカメラは横長の写真を撮ることを前提に、横長の写真が撮り易いようにカメラ自体も横長の形をしている(カメラ自体が縦長のスタイルでありながら横長写真を撮る京セラの「サムライ」のような変り種がない訳ではない)。
だから、そういうカメラで縦長(縦位置)の写真を撮ろうとすると結構厄介なことになるのだが、ポートレートや、空の高さを強調したい風景の場合など、どうしても縦位置で撮りたい場合がある。そうなるとカメラを縦に構えることになるのだが、もともと横位置での撮影を前提につくられたカメラなので、シャッターボタンを押すために、腕や手首を不自然な形に動かくことが必要になる。それが嫌なばかりに、縦位置で撮った方が良い被写体なのに、横位置で撮ってしまうことになる。
そこで、縦位置専用のシャッターボタンを搭載したペンタックスOptio VS20の登場である(フーッ、ようやく結論。詳しくはこちら)。通常の横位置撮影用のシャッターボタンの他に縦位置専用のシャッターボタンを搭載しただけではなく、セルフタイマーでの記念写真も縦位置で撮れるように、縦位置用の三脚穴も備わっている。これまであるようでなかったカメラの登場である。
最初に書いたように、目の構造上、人間は横位置で書かれた絵や撮られた写真お方が安定感を持って見ることが出来るようだ。もっとも古くからある人物画の多くが縦位置で描かれてうるが、それは多分、自分の目で人を凝視する時には視角が狭く、つまり縦長になっているから、縦長に絵を描き、その縦長の絵を見て違和感を持たないのだろと思う。
そのように、縦長が自然である被写体や、いつもとはちょっと違った見せ方をしたい場合など、積極的に縦位置で撮りたい場面は、実はたくさんある。ありそうでなかった縦位置撮影用の機能を搭載したOptio VS20は、実に画期的なカメラだと、郷秋<Gauche>は思う。これなら縦でも横でも自由に撮れる。こんな画期的なカメラを世に送り出したペンタックスに、郷秋<Gauche>は拍手をおくりたい。
今日の一枚は、マルチバッテリーパックMB-D11を装着したNikon(ニコン)D7000。コンパクトカメラでの縦位置撮りよりもSLR(一眼レフ)での縦位置取りは腕の取り回しなどの点でより厄介であるが、このような、縦位置用のシャッターボタンを備えたバッテリーパックを装着すると、横位置の時と同様に実にスムーズに縦位置撮りができるようになる。シャッターボタンだけではなく、絞り操作用のダイヤルやAFポイントの移動に使うセレクターも装備され、横位置の時とほぼ同じように操作することが出来る。ただし、露出補正用のボタンがないのが唯一の、しかし大きな不満。次のモデルでは是非とも改善してもらいたいものである。