玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

長期入院と幻覚(2)

2016年10月12日 | 日記

 この天井板の模様は天然大理石を模したトラバーチン模様というのだそうで、ごく一般的にどこででも見ることのできるものだ。このトラバーチン模様が執拗に私の想像力を刺激することになるとは、入院するまで予想もしないことであった。
 トラバーチン模様をずっと見ていると、人の顔が現れてくるようになると言われているが、私の場合にはまずそれは有意味な文字のつながりとして読まれるべき連続として出現した。この天井の模様に誰かが何らかのメッセージを隠しているのだという強い思いこみが、そこに文字を読み取ることを強制した。
 特にその模様が横に走査されるとき、それは文字列のようなものとして認識されやすい。そこには規則的な繰り返しがあり、文字列には必ず単位としての文字に繰り返しが現れるからである。これを朝から晩まで飽きず眺めていたら、どうしたって、そこに意味のある文字列の存在を読み取らないわけにはいかない。

 あるときそこには文学の言葉が読まれたし、別のあるときにはそこに呪術の言葉が出現した。またコンサートのプログラムそのものとしての働きを担ったこともあった(というよりもアルバムの曲目紹介のようなもの)。
しかし、記憶は曖昧である。もともとトラバーチン模様に意味などあるわけはないのだし、文字情報そのものが夢や幻覚の記憶として残ることは少ない。よく夢の中で本を読むことがあるが、そこに何が書いてあったかを思い出すことは出来ない。
夢や幻覚においては文字情報が記録されることはもともとないのだ。トラバーチン模様はそれが文字であるかのように振る舞うだけで、決して文字の意味を開示しない。だから私の記憶の中にも、それら文字として読まれるべき記号情報の意味だけは排除されているのである。
 もちろん、あるひとにとって顔がそこに出現してくるように、私にとっても忘れられない記憶として刻み込まれたのは、映像であった。私はこのトラバーチン模様を源泉とした幻覚や夢をたくさん見たし、そのほとんどを覚えているが、それらを見た順番は忘れてしまっている。
 いくつか忘れかけているものもあるので、忘れないうちに題名をつけておこうかと思う。以下のような夢、あるいは幻覚である。

① 「動き出す巨大建築」
② 「勢揃いした兵器群」
③ 「エロチックな冷凍イカ」
④ 「冷凍された少女達」
⑤ 「鮮度抜群の居酒屋」

以下、ひとつずつどんなものか説明していこう。