玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

長期入院と幻覚(8)

2016年10月18日 | 日記

「ゴシック・ロックの演劇」つづき
研究はアメリカ80年代の同性愛文化に関するもので、直接的に肉体的な同性愛の暴力的傾向、というか自傷的傾向をテーマとしている。二人の同性愛者の自傷による傷口と傷口の接触、血と血の接触、それによってしか愛が可能にならないという残酷な同性愛のあり方が、描かれていく。
 その傷口はそれほど穏当なところにはなく、限りなくグロテスクで、残酷なのであるが、詳しく書くことが出来ない。思い出したくないからだ。彼の書いた本が床に転がっている。その本は普通の本の形をしていない。同性愛者の裸身が床に横たわって、本の替わりとなっている。
 この部分だけ夢の色彩がセピア色となっている。私の友人のそのまた友人の研究なるものが、夢の中に引用される形ともなっていて、そこだけ色が違うのは十分納得のいくところである。
 引用が終わると、場面は病室となって、私はベッドに寝ているのである。そこにゴシック・ロックのメンバーが訪ねてくる。4人組で、全員人間とは思えないような扮装をしている。彼等は私の友人の友人の研究を高く評価していて、私にまで感謝の意を表したいのであるらしい。
 だが、向こうは英語、こちらは日本語で言葉が通じない。ただ感謝の思いだけは伝わってくる。彼等は私の友人の友人のことについて、その研究が彼等に与えた大きな影響のことを言っているらしい。
 彼等はプレゼントとして私の友人に、彼の著書を置いていくつもりのようだ。ところがその本というのが馬鹿でかいもので、天地が人間の背丈ほどもある4巻本なのである。こんなものどうやって読めばいいのだと思うが、礼儀としてもらっておかなければならないだろう。彼等はその巨大な本を置くと、部屋を出て行く。
 しばらく私はこの夢を夢ではなく、実際にあったことと考えていたようだ。謎のゴシック・ロックのメンバーから本をあずかっているということを、私の友人に伝えなければならない。
 半信半疑ではあったが、このような実際にはありえない話を、現実にあったことと考えていた。まだ私のせん妄状態は続いていたのである。実際に私はこの件について私の友人に照会までしたのだから。