もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

安保に関する国是-1

2022年04月07日 | 防衛

 日本における国防に関する、専守防衛・非核3原則・憲法9条堅持を国是とする人は多いが、自分は、それらの主張に対して「現実を直視しない思考停止の所業」と思っている。

 これまで、「武力=悪若しくは不要」とする著書を読んだり、同様の主張を繰り広げる市井の人々と話す機会があったが、両者に共通しているのは「今、平和憲法を持つ日本を武力攻撃する国は無く、対話と経済支援外交での解決が可能で、紛争が起きたとしても国連の調停によって武力衝突は回避できる」との前提に立っており、武力侵攻事態の想定すら受け入れようとしなかった。
 残念ながら、日本と同様に、専守防衛・非核を国是としていたウクライナが狂国の侵攻を受けている現在でも、国防態勢の見直し論に対して立憲民主党が「火事場泥棒的」と一蹴しているのと軌を一にしているように思える。
 本日以降、複数回に分けて日本の安保について、自分の考えを整理してみたい。
 そもそも「国是」とは何だろうか。ウィキペディアでは「国民の支持を得た国の大方針で、すべての政策の方向性を決定付け基本的には長期的に維持される」とあるように、アメリカは独立宣言を、フランスは人権宣言を、韓国は抗日上海臨時政府を、それぞれ憲法前文に掲げて国是としている。しかしながら、第二次大戦前のアメリカのモンロー主義のように一時的な国是と捉えられるべきものも少なくないと思う。
 専守防衛は、1934(昭和29)年に発足した自衛隊に関して当時の杉原荒太防衛庁長官が、翌年の国会答弁で使用したのが最初で、その後1970(昭和45)年以降に刊行されるようになった「防衛白書」で使用され正式用語となったとされるので、50年間の歴史しかないが、50年間も守れ通したのは奇跡と云ううべきかもしれない。
 専守防衛の概念は、1981(昭和56)年防衛白書において「専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限る」とし、以後の閣議決定答弁において定義として使用されている。
 このように、専守防衛の概念誕生時の背景を考えると、中国・韓国と一部の東南アジア諸国が日本の再軍備・海外派兵を懸念し、国内では全盛期の社会党が近隣諸国に呼応するように活発に政府・自衛隊を攻撃していたために、政府は自衛隊の創設が憲法違反である印象を薄め・糊塗し、保有する武力も極めて限定的な範囲にとどめることを内外に示す必要から生まれたもので、軍事的な選択ではなく再軍備の矮小化を企図・演出した政治的政局の産物に過ぎないと思っている。(注:  での訂正は、投稿4時間後)
 日本が定義する専守防衛に従えば、必然的に敵を日本の領域内で迎撃せざるを得ないために、全土がかっての沖縄戦と同様な戦場となって軍民・インフラの損害は測りし得ないほど大きい。特に、初動(第一撃)における損害は避けることができないことを専守防衛を国是と戴く朝野は覚悟しているのだろうか疑問である。第一撃の犠牲者は、侵攻勢力の選択に任されるために、政治家であるか、市民であるか、子供であるか、自衛隊員であるか、誰も予測し得ないし、誰も逃れることはできない。
 ウクライナの推移を見ても、専守防衛に徹するウクライナは、ロシアの武力行使があり得るとした西側情報を荒唐無稽とし、臨戦態勢構築の予備役招集に踏み切ったのは侵攻2日前とされている。
 幸いにして、ウクライナでは市民の強固な団結と戦意によって徹底抗戦を成し遂げつつあるが、市民の犠牲におののいた日本の有識者の一部がウクライナ降伏を主張することを見る限り、日本有事には国民の憂国の情など置き去りにされて、初動の損害で白旗を挙げることすら予想される。

 本日の結論は、専守防衛は国民の生命を守るために機能するよりも、敵に武力侵攻の企図を誘引させ、無血侵攻の幻影を誘発させる愚策と称すべきである。
 独立国は、自衛のための権利に自ら手枷・足枷を付けないのが世界基準であり、専守防衛を平和の手段と考えるのは日本の独りよがりの議論であるように思う。


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8 コメント

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「平和憲法」を全世界に (Badman)
2022-04-07 14:13:51
世界平和のために「専守防衛」や「平和憲法」を守って行こうと主張される政党や団体、個人の方々は尊敬に値します。

もしロシヤに日本国と同じ「平和憲法」があれば今回のロシヤのウクライナ侵攻は無かった事でしょう。全世界の憲法が日本と同じであれば戦争も無くなると思います。

「平和憲法」が施工されて70年以上経ちますが、その間世界は多くの戦争が有りました。でも日本は戦争に巻き込まれませんでした。

私は不心得者ですので政治活動や布教活動もできませんが、平和活動家の方々が中国やロシヤなどの専制国家に渡り、「平和憲法」を広める市民活動をしていけば世界はより平和になると思いますがどうでしょうか?

フランシスコ・ザビエルは使命感をもってアジア諸国の布教活動を行いました。病気や殺害などがある命がけの行動だったと思います。またその国の宗教や政治体制と対立して厳しい弾圧が有りました。
我が国でも江戸時代初期にキリシタン弾圧が有り、信者達は隠れキリシタンとして明治まで続きました。
人民や市民の心に訴え、平和の情熱があれば、弾圧されても地下に潜って「平和憲法」が施行されるまで戦い続ける事でしょう。

私は小心で疑り深いので、崇高な事ができませんが、日本だけが「専守防衛」や「平和憲法」では国は守れないでしょう。

平和を唱える政党や活動家の皆様に専制国家に渡り、弾圧に耐えて活動してください。まさに「平和憲法」のグローバル化、行動の時です。
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有難うございます (管理人)
2022-04-07 17:21:55
Badman様
卓見を感謝します。
表題のとおり、平和憲法にも触れようと思っております。
変わらぬご訪問をお待ちします。
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Unknown (行雲流水の如くに)
2022-04-07 19:41:48
こんばんは。
日本は「専守防衛」、「平和憲法」を国是としております。
しかも軍事力は世界で10位以内であり、米国と「日米安保条約」という軍事同盟を結んでいます。
これで何が「不安」というか「不十分」なんでしょう。

今の状況において何らかの問題点があればご指摘いただきたい。軍事面については小生よりも造詣が深いとお見受けいたしますので。
外国の戦闘機(主に中国とロシア)が領空侵犯した時はスクランブル発進をしています。このやり方に問題があるのでしょうか?
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遅くなりました (管理人)
2022-04-07 21:07:44
行雲流水様
自分は、自衛隊装備と米軍の協調については記述しておりません。
専守防衛では、初動における国民の犠牲は避けられないために、軍事的には愚策であると書いたものです。
敵の第一撃は、仰る様な少数の航空機で領空突破するような攻撃ではなく、領海線の遥か彼方から迎撃能力を超える多数のミサイル攻撃であろうと思われます。そうなれば、戦闘生起までに米軍が介入することは考えられませんので、初動において少なからぬ死傷は起こり得ると思います。
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条約について思うこと (Badman)
2022-04-07 23:40:14
「日米安保条約」は日本国民や政府与党にとっては絶対的に信頼できる条約であるかのようです。

1936年に日本とドイツとの間に「日独防共協定」が結ばれ、1939年にドイツとソビエトの間に「独ソ不可侵条約」が結ばれました。当時の平沼内閣は、「欧州の天地は複雑怪奇なる新情勢を生じた」と言って総辞職しました。
「日独防共協定」は、与党の政治家や財閥資本家にとって協定が長く続くと思っていたのでしょうか?
「独ソ不可侵条約」は、日本共産党員達にとって第2の祖国であるソビエトが安泰であると喜んだのでしょうか?

1941年に「独ソ不可侵条約」を破棄してナチス・ドイツがソビエトに侵攻しました。同年にソビエトと「日ソ中立条約」を結び、日本はアメリカに対し開戦しました。

日本の敗戦が色濃くなって来た1945年にソビエトに和平の仲介を頼みましたが、アメリカとの密約どおり条約を破って対日参戦しました。

国と国との条約は信頼も大切ですが、国益が絡んでくると豹変することも肝に銘じなくてはなりません。それは、現在友好国であっても油断してはならないということです。

「日米安保条約」の信頼を少しでも高めるためにはアメリカの国益に応えることであると思います。国益は状況により変化しますが、現在では中国の軍事力に対し相対的に低下したアメリカの軍事力を補完することだと思います。

日本人は相手を信頼すると「身も心も捧げます」という心情が有りますが、国際社会では、相手を半分信頼しながらも残り半分は裏切りに備える心構えをしないと急変する世界にはついて行けない様な気がします。
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遅くなりました (管理人)
2022-04-08 20:38:10
Badman 様
遅くなりました。
国際条約に対しては信義と危惧を併せ持つ必要があることは歴史が教えているように思います。
次回はその切り口から、非核3原則を考える予定です。
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「専守防衛」について思うこと (Badman)
2022-04-09 12:12:33
「専守防衛」を守って戦闘を維持するためには自衛隊の兵器や施設を地下に置けば良いと思います。

太平洋戦争末期の「硫黄島の戦い」では、日本軍は地下に潜りアメリカ軍の空襲や艦砲射撃に耐え、アメリカ軍が上陸したならゲリラ戦さながらの戦いを行い当初1週間で陥落する予定が最終的に1ヶ月以上を要することとなりました。
日本軍は侵攻する機動部隊、補給部隊を撃退する空母や戦艦が無く、アメリカ軍を迎え撃つ戦いをせざるを得なかった。ちょうど「専守防衛」の戦いに似ているなと思って例に出しました。

先にミサイル攻撃されるのは自衛隊やアメリカ軍の施設でしょう。現在、航空自衛隊、海上自衛隊、陸上自衛隊の施設は地上に設置されて、あまりにも脆弱です。

航空自衛隊の戦闘機もトンネルに格納できるように既存の鉄道や高速道路などのトンネルを拡張して整備すれば新たに建設するより予算は少なくてすむと思います。また、パーキングエリアの近くの高速道路を滑走路として整備するのも良いでしょう。戦闘機は重いので道路のコンクリートは重量に耐えられるようにします。
パーキングエリアにはガソリンスタンドがありますので航空燃料も給油できるよう新設します。航空燃料は灯油に似ているので多少性能が落ちても灯油で飛ぶようにしたいものです。日本軍は石油が枯渇したとき松ヤニ油を代用した実績があります。

海上自衛隊は、北欧のフィヨルドの洞穴の潜水艦基地を参考にして海に直接臨む崖にトンネルを設けて潜水艦基地とします。
護衛艦などの艦艇は、大きく数も多いのでトンネル構想は無理かと思います。

陸上自衛隊は最後まで温存しなければなりません。敵が上陸したときに押し返すのは陸上自衛隊です。爆撃やミサイルで地上が攻撃されても、反抗の命令が出るまでは絶対姿を現してはいけません。
地下には至る所トンネル網を設けて、ベトナム戦争でアメリカ軍を負かしたゲリラ戦を実施するのです。

「専守防衛」で戦う自衛隊の備えを妄想しましたが、戦場が国内となればその悲惨さは「沖縄戦」で知っています。
「専守防衛」を「国是」とする国民は、私の妄想は絶対起こらないと確信しているのでしょう。私もそうあってほしいと願います。

話は変わりますが、エネルギー問題で「地熱発電」の話はエネルギー危機の度に出ますが今でも主要なエネルギーとなっていません。
クリーンなエネルギーで豊富にある地熱が活用できないのは温泉業界と環境省の反対があるからと聞いています。

先の自衛隊の備えは防衛省、国土交通省、環境省などの法律を変更しないと実現しないでしょう。エネルギー問題でも遅々として進まないのはどうしてでしょうか。

かっては防衛問題は票につながらない時代がありました。
ロシヤ侵攻で与党の政治家はテレビなどで発言していますが、全体として国防の議論は低調です。

国民の生命財産に直接関わる国防は、故三島由紀夫氏が言った「命よりも大切なものがある」から、国防より大切なものを優先的に議論しているので低調なのでしょう。
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遅くなりました (管理人)
2022-04-09 20:22:34
Badman 様
自衛隊の各級司令部の地下移行は多少行われていると聞いたことがありますが、詳細が公表されることはないでしょう。
また、潜水艦用ブンカーは、潜水艦の大型化や経費の面から絶望的であると思います。
また、高速道路を滑走路とする方法は、韓国・台湾で行われておりますが、演習などで使用した実績は少ないと聞いております。
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