3月23日、東京・有楽町の東京国際フォーラムで、『第14回・精神障害者自立支援活動賞(リリー賞)』の表彰式が行なわれた。
リリー賞は、認定特定非営利活動法人地域精神保健福祉機構(コンボ)が主催し、製薬会社の日本イーライリリーが協賛。精神障害者でありながらも、その困難を克服して社会参加し優れた活動をしている当事者と、その支援者を表彰する。
当事者部門と支援者部門の各2組、合計4組が選ばれ、受賞者には表彰状と副賞(当事者部門100万円、支援者部門50万円)が授与される。
今年は当事者部門に56組、支援者部門に36組、合計92組の応募があり、継続的な活動であることや、独自性があることなどを基準に、選考委員会によって受賞者が選出された。
精神障害者の子を抱える親の切実な関心事
リリー賞の主催者であるコンボでは、定期的に精神障害者やその家族、支援者に向けた「こころの元気+セミナー」を行なっているが、今回の授賞式では、その「こころの元気+セミナー」も同時に開催された。
今回のテーマは「親なき後を支える仕組み」――。精神障害者の子どもを抱える親にとって、「自分たちが死んだ後、この子はどうなるのだろう」ということは、切実な関心事だ。
コンボでは昨年、「親なき後」に備えるためのノウハウを収録した書籍『精神障害を持つ人のための親なき後に備える』を発行。これが新聞に紹介されると、コンボの事務所の電話が鳴り止まぬほど注文が殺到したという。このことからも、この問題への関心の高さが伺われる。
今回の「こころの元気+セミナー」では、山口県の特定非営利活動法人「ときわ」理事長・藤井悌一氏、神奈川県のNPO法人西区「はーとの会」の櫻庭孝子氏、福岡県の一般社団法人「Q-ACT」の倉知延章氏が登壇。
精神障害者が世話人のケアを受けながら一緒に暮らすグループホームや、多職種のケアを受けながら地域で暮らす仕組みであるACTの事例が紹介された。
「ACT(Assertive Community Treatment)」は「包括的地域生活支援」のこと。1970年代にアメリカで生まれ日本でも2002年から取り入れられている。
重い精神障害を持った人でも、地域社会の中で自分らしい生活を実現・維持できるよう、包括的な訪問型支援を提供するケアマネジメントモデルのひとつだ。
日本では、健康保険などの制度化がされていないため、導入は限られた地域に留まっている。だが、病気の症状がなくなっているにもかかわらず、行き先がないために病院に入院している、いわゆる「社会的入院」の問題の解決に期待されている。
ACTのサポートを受けながら地域で暮らし、疲れたときに一時的に入院するような、医療と地域の好循環が普通になっていくことが、これからは求められるからだ。
さて、今回、リリー賞の当事者部門を受賞したのは2人――。
塚本正治さん(56歳)は、26歳のときにうつ病を発症。現在は精神障害者地域生活支援センターの常勤職員として働きながら、シンガーソングライターとして10枚のCDをリリースしている。
曽根博さん(74歳)は、16歳で統合失調症を発症し、33歳までに19回もの入退院を繰り返した。その後は同じく統合失調症を患う姉を支えながら、患者家族会の運営、NPO法人の立ち上げ、就労継続支援B型事業所の開設など、地域の精神保健福祉を向上させる活動を続けてきた。
特定非営利活動法人「ときわ」の藤井理事長は「心の病を持つ人が生きていくためには『社会の役に立っている』と実感することが必要だ」と話す。
例年の当事者部門の受賞者たちは、病気の状態もよくなり積極的に社会活動を行なう、いわば「スーパー当事者」たちである。いまだ症状が重く、他人のための活動どころではない人たちにとっては、いささか眩しすぎる存在かもしれない。
それでも受賞者たちは、精神的な病気を持ちながらも、人間はそこから復活し、リカバリーして社会に貢献できるようになるということを証明している。
現在、苦しい思いをしている患者にとっても、自らの亡き後を心配する親にとっても、大きな希望であるのは間違いない。病気の重さに苦しんでいる人にこそ、ぜひ目標としてほしい存在である。
(取材・文=里中高志) ヘルスプレス