燃え上がる本能寺。取り囲む光秀軍との戦い半ばで、予想どおり、信長さまは小姓数名を従えて寺を抜け出てきた。(中略)小姓二人が、まず井戸端の古井戸の蓋を開けた。勝手知った様子で、最初に古井戸に入ったのは信長さまだった。すぐに小姓たちが続く。全員が穴に降りきったのを見計らい、将右衛門は、部下達と殺到した。かねて用意してあった大量の油まみれの松ぼっくり、団栗、籾殻の麻袋を、次々に破って穴に流し込んだ。その上から十数本の燃え盛る松明を投げ入れて上から重石で蓋をした。重石を置く時、地の底から地獄の阿鼻叫喚を聞いた。
「秀吉の枷」加藤廣