観世九皐会別会 -観世喜之傘寿記念- 平成27年4月26日 国立能楽堂
番組
● 『 翁 』
翁 観世喜正
面箱 山本凛太郎 三番三 山本東次郎 千歳 中森健之介
大鼓 亀井広忠 脇鼓 清水和音 頭取 鵜沢洋太郎 脇鼓 田邊恭資 笛 一噌隆之
後見 奥川恒治 弘田裕一 狂言後見 山本則秀 山本泰太郎
地謡 桑田貴志 光岡良典 宇都宮公 池上彰悟 中所宜夫 五木田三郎 中森貫太 長山耕三
● 連吟 『 養老 』 九皐会の能楽師20名
● 仕舞
東方朔 : 遠藤和久 中所宜夫
羽衣キリ: 駒瀬直也
菊慈童 : 中森貫太
● 能 『隅田川』
シテ:観世喜之 子方:観世和歌 後見:観世喜正 永島充
ワキ:宝生欣哉 ワキツレ:館田善博
大鼓:安福建雄 小鼓:幸清次郎 笛:一噌庸二
地謡:佐久間二郎 小島英明 坂真太郎 桑田貴志 遠藤喜久 駒瀬直也 遠藤和久 鈴木啓吾
● 狂言 『末広』
シテ:山本泰太郎 アド:山本凛太郎 山本則秀 後見:若松隆
● 半能 『 石橋 』 大獅子
白獅子:永島忠侈 長山禮三郎 赤獅子:五木田三郎 弘田裕一
ワキ:宝生閑 後見:観世喜之 遠藤喜久 鈴木啓吾
太鼓:桜井均 大鼓:柿原崇志 小鼓:幸正昭 笛:一噌幸弘
地謡:小島英明 長山耕三 坂真太郎 中森健之介 永島充 観世喜正 奥川恒治 佐久間二郎
能にて能にあらず とか。「翁」。喜正師の翁は貴公子が演るような印象。笛や鼓叩いて楽しみましょうというモードでは全然なく、ピリッとした雰囲気が全体を通してあった。なにか絶対的な相手に、なにも決めることのできない人間たちの願いを形にして、捧げているという印象の「翁」。でも芸であることには変わりはなく、ストイックにその印象を共有しようとする人も居るだろうし、物語として観る人、装束、所作、声、音楽性を楽しむ人もいるだろう。のっけから眠り込んでる人もいるのだ。しかしながら、いろいろな楽しみかたがあるけれど、やはり様式美の最たる演目として楽しみたい。三番三は東次郎師。少し演技に苦しそうなところもあったけれど、渋くそれなりに溌剌としていた。小鼓三丁、大鼓、笛、加えて発声は半端ではなく、東次郎師の詞章も良く聞き取れない。このお囃子の音のエネルギーを撥ね返して、突き抜けてくる声を持った能楽師はいるのだろうか。
傘寿を越える節目に選んだ演目は「隅田川」。まず小ぶりの作り物が大小前に据えられ、しばらくしてシテが、黒い女笠・水色の衣をまとい右手に笹の葉を持って心なしうつむき加減にとぼとぼという印象で橋掛かりをやってくる。「隅田川」。絶望感をテーマにした演目といってもいい。人買いに拐われ、いなくなった我が子を探し、旅する女。旅の途中での隅田川。渡しの船の中での船頭の哀しい話。病に倒れ、介抱もされずに行き倒れのように死んでいった幼子の話。聞くともなしに聞いていた女はやがてそれが自分の探し求める我が子のことだと知る。土地の人達が造った塚に、念仏をあげるしかない母の想い。やがて嵩じて塚から幼子が幽霊となって現れる。抱きしめようとしても抱き留められない幽霊。子方はこれ初舞台。作り物から’南無阿弥陀仏’と謡い、シテのところまで出てくるのだけれど、何か大泣きした風で、なにかジンとした。こんな「隅田川」はもうないだろう。