おそらく大切なことは、もっとも見事な充実をもって、その『時』を通りすぎることだ。
『若さ』から決定的に、しかも決意をもって、離れることだ。
熟した果実がそうであるように、新しい『時』にみたされるために、『若さ』からきっぱりと遠ざかることだ。
ただこのように若さをみたし、『若さ』から決定的にはなれることができた人だけが、はじめて『若さ』を永遠の形象として
・・・すべての人々がそこに来り、そこをすぎてゆく『若さ』のイデアとして・・・造型することができるにちがいない。
辻 邦生 「スペインのかげり」