グッドぐんま 2

ぐんま大好き! 群馬のちょっとイイものや身近な自然を再発見

ツキノワグマ クマと森の生物学

2010年09月06日 20時45分33秒 | 
ツキノワグマは日本の森に棲む最大級の野生動物。
日本の自然の豊かさを象徴する存在の一つだと思うのですが、九州の個体群は絶滅したとされ、中国・四国の個体群も絶滅の渦の中にあります。さらにその体格と力の強さ故、人との間に軋轢を生じることも少なくありません。
2006年に異常なほどの大量出没と人的被害、大量捕殺は記憶に新しいところです。
今年も群馬県内ですでに5件の人身事故が発生しており、県が注意を呼びかけています。

ツキノワグマの出没に注意してください 群馬県

先日、図書館で借りた本
ツキノワグマ クマと森の生物学  大井徹・著 東海大学出版会


「森林に生かされ、森林とともにあるツキノワグマ。それゆえに、本書では、森林との関係を縦糸にしてツキノワグマのタペストリを織りなしてみよう。横糸は、分布、形態、生理、行動、生態、社会、進化など。できるだけ多面的に、その生物学的な特徴を解説する。」
「そして、本書の終着点は、人間とツキノワグマの関係について。・・・・・
ツキノワグマと人間との共生ははたして可能だろうか。どんな森林作りをすればそれが可能になるのか。みなさんと一緒に考えてみたい。」
(「はじめに」より)


「はじめに」にあるように、ツキノワグマの生理、生態から進化、人との関わりまで幅広くわかりやすく解説された良書です。温帯の森林にうまく適応し、現代まで生き続けてきたツキノワグマの生きるための“知恵”は、すばらしいなぁと感じます。

科学論文同様に本文中のデータなどには、一連の番号が付けられ、巻末に引用文献が記載されています。索引もあるので、“ツキノワグマ ハンドブック”として使える一冊だと思います。
また、巻末付録の「クマとの危険な遭遇を避けるために」も必読。

ツキノワグマと言えば、今日、「九州最後のツキノワグマ」と言われていた個体について森林総合研究所東北支所が遺伝子解析を行った結果、実は本州産であったことが判明したという報道がありましたね。
本書でもこの「九州最後のツキノワグマ」については「死体の剖検により、捕獲前数年は野生状態で生活していたと推測されているが、出自については不明とされている。九州以外から持ち込まれたものである可能性もあるらしい」述べられています。
今回、やはりこの個体は九州のツキノワグマではなかったことが確かめられ、九州における最後の記録は1957年に子グマの死体が確認されたというものになりました。


2006年の異常出没以来、ツキノワグマに興味を持っていましたが、知れば知るほど魅力的な生き物です。私はまだ野生のツキノワグマを見たことはないので、是非会ってみたい動物です。森でばったり出会うのは絶対に避けたいですが・・・。

ツキノワグマ クマと森の生物学
目次
1章 ツキノワグマQ&A
2章 分布から探る森との関係
3章 クマ類としての特徴
4章 ツキノワグマの誕生
5章 大量出没と森の食糧事情
6章 冬眠の不思議
7章 繁殖の不思議
8章 森林生態系で生きる
9章 クマとの共存
付録 ツキノワグマの仲間たち
   クマとの危険な遭遇を避けるために
引用文献
索引


ツキノワグマに限らず、最近では野生鳥獣による農林漁業への被害が問題となっていますが、被害発生の根本的な原因究明とその改善をせずに、被害が発生するたびに、駆除を行うだけでは、加害獣が絶滅するまで問題は解決しません。
人的被害をなくし、農林業被害を減らし、人と動物が共生していくためには、まずは相手のことをよく知らなければならないと思います。