EBMという言葉がよく使われる。
Evidence Based Medicine (根拠に基づく医療)の略である。これは、様々な医療(薬の使い方、消毒の仕方、手順などなど)を根拠に基づいて行うというあり方である。そのあり方は、まさに論理的であり、示された根拠には謙虚に耳を傾けるのが良いと私も思う。とくに標準的医療を提供するには大きな武器となる。
ただ気をつけないといけないのは、根拠というのは多くの場合統計上の優劣である点だ。人の体の多様性に、完全には対応していないのである。それを一番感じるのは抗癌剤の使用においてだ。
抗癌剤の使用には、標準使用量がある。しかし、この標準量より遙かに少ない量でも著効を示す場合もあるのである。 Aという抗癌剤を体表面積あたり100mg使用して、有効であることを示す大規模な研究があれば、それは根拠を示したことになる。そこでEBMに沿って医療を行うのであれば当然その量の抗癌剤を使うことになるわけだが、実に人の体は千差万別。効果も副作用も人により大きく出方が違うのである。
よくよく観察した上で、その人にちょうど良い加減の医療を提供する、まさにさじ加減の発想も絶対失ってはならないと思っている。