尾瀬ヶ原は日本最大の「高層湿原」とされています。「湿地」というのはじめじめとした土地のことですが、「湿原」というのは水辺の植物が『泥炭』として積もった水を通しにくい土地を指します。『泥炭』とは、植物が腐って、肥沃な土壌になる手前の、栄養分に乏しい土壌です。気温が低く腐植が進まないとこの『泥炭』ができます。冷蔵庫の中ではなかなかものが腐らないということです。つまり、「湿原」は寒い地方独特の地形ということになります。ここ尾瀬も年平均気温は4度で、かなり低気温なわけです。
話が長くなりますが、この泥炭が低く堆積している(低層湿原の)うちは、そこに生える植物は、周りから流入する土砂から栄養分を分けてもらえます。しかし、長い年月をかけて、この泥炭が厚い層をつくる(高層湿原になる)と、そこは周囲よりも高い土地になってしまいます。『泥炭』は水を通しにくいため、地下からの水を吸い上げることはできません。すると、その場所には雨水(つまり栄養のない水)以外には、水分を得る手段はなくなってしまうわけです。尾瀬の高層湿原はつまりは、栄養のない、植物にとっては非常に過酷な生育環境なのです。
こうした高層湿原で活躍するのが、晴天が続いても水を保つことができるミズゴケです。体の90パーセント以上が水でできているそうです。ミズゴケの仲間は高層湿原の表面を覆うように繁茂しています。そして、この土地の「水がめ」として、そこに生える健気な植物たちに潤いを与えてくれているのです。
高層湿原に生えることができる植物はほんのわずかですが、低層湿原から高層湿原へ移る途中の中間湿原には、栄養の少ない過酷な土地で生き抜いている、健気で可憐な植物たちが多数存在します。そんな湿原の草花を紹介します。
よく似た花ですが、朝日のように輝く「アサヒラン」と鴇色が美しい「トキソウ」です。ちょうど花盛りのようで、あちらこちらで、目を楽しませてくれました。
こちらは、「ミズチドリ」と「ヤマサギソウ」。どちらも鳥の名前がついています。花の形をよく見ると、チドリやサギに似ていることから名前がついています。
「ミズチドリ」の白はとても清楚な印象で、緑の湿原の中で目を惹きます。
「タテヤマリンドウ」です。湿原に咲く小さな、小さなリンドウです。この花は明るくなると花を開き、暗くなると花を閉じてしまいます。そんなわけで、まだいくつか残っていた蕾も、曇り空の下で閉じたままでした。2枚目は以前(晴れた日)に撮影したものです。
最後に紹介するのは「キンコウカ」。金色に光る花(金光花)と書きます。この花はまだこれから咲き始める植物で、研究見本園の中で早くも開花を始めた1株を撮影しました。雄蕊の赤が、より花を鮮やかに見せているようです。8月にかけて、群落をつくるので、小さい花ながら見ごたえがあります。
今日もブログを読んでくださり、ありがとうございました。お気に入りの花はありましたか?