老い生いの詩

老いを生きて往く。老いの行く先は哀しみであり、それは生きる物の運命である。蜉蝣の如く静に死を受け容れて行く。

わたしは、生きているから飯くれ~

2023-05-19 10:38:50 | 老いの光影 第10章 老いの旅人たち
1941 生きているぞ~



齢90を超えた青海婆さんは、いまチョッと前に食べたことも忘れてしまう。
腰は90度に曲がり、両膝に手を乗せ絶妙なバランスをとりながら歩く。
「仰向けに寝るときも、足は曲がったまま天井に向かっているのか」、と尋ねたら
彼女は抜けた歯を見せ大きな声で笑い「そんなことはない。足はまっすぐに伸びたまま寝ているよ」。

釜を右手に持ち、草取りの技は最高もので草一つ残さない。
うつ病と認知症が複雑に重なりあい、うつなのか認知症なのか、その境目がわからない。

夜中に起きだし、長男、男孫の部屋に訪れ
大きな声で「生きているから飯をくれ~」、と叫ぶ。
昼間田圃仕事で疲れ切った長男は起こされ
老いた母を蒲団まで連れて行く。

入れ歯を失くし 新たに入れ歯を作った。
90歳を超えた婆さんの入れ歯つくりの経験は、「そうそうない」、と歯科医はもらす。

できた入れ歯でしっかりご飯を嚙み噛みし、胃袋に落ちる。
「生きているから飯をくれ~」の話を聴き
生きるために喰うのか、食べるために生きるのか

老いても認知症になっても
おれは、いま、生きているぞ~
おれは、ここに、生きているぞ~
その叫びに「ハッと」させられた。