葉に卵を産み付ける昆虫の場合,大多数が裏側を選択します。というより,「すべてが裏側を」といっていいでしょう。
理由は昆虫に聞かなくてもわかります。卵が生命を維持するのに,表では危険過ぎます。生物的な要因だと,天敵の目に触れやすい,非生物的要因だと,乾燥しやすい,直射日光を浴びて高温環境におかれる,風雨で落下しやすい,などが思い浮かびます。昆虫には先天的に,安全な場所に産卵するよう遺伝子情報が組み込まれているのです。
アゲハの場合にも当てはまります。アゲハは柑橘類の葉に産卵しますから,葉の表面方向はほとんどの場合,日光を受けやすいように水平向きになっています。そこを訪れたアゲハの産卵姿勢を想像すると,葉の表側に脚をおいて,腹部を裏側に押し付けて産卵する姿が浮かびます。
それなら,葉が縦方向に立っている場合はどうでしょう。葉の表・裏を感知して,きちんと産み付けるのでしょうか。答えは簡単。そんな微妙で,器用なことはしません。事実,卵をよく探してみれば,時には葉の表側に卵が付いている例が見つかります。最近も,我が家のキンカンの木を観察していて一粒見つけました。
では,水平方向に葉が付いている場合,葉の表側に卵を産む例はないのでしょうか。ちょっと迷いますが,あるにはあります。下の写真をご覧ください。スダチの葉で見かけました。
拡大写真を撮りました。葉の表側であることは,葉の色と形態から明らかです。
なぜこんなところに産み付けたのか,ふと立ち止まって考えてみたくなります。
柑橘類では,葉がかなり混み合って付いています。アゲハはもともと裏側に産卵するつもりだったはず。しかし,たまたま産卵姿勢から,産卵孔が別の葉に,それも表側に触れたために,自然の流れでそこに産み付けられたと思うのです。
ここは生存上不利な場所であることはまちがいありません。そんなところに,はじめから卵を産み付けるなんて考えられません。ここでも,基本からはみ出した揺れが観察できます。おもしろい事例です。