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 「Hoshino Parsons Project」のブログ

日本でいちばん大切にしたい会社

2008年07月20日 | 気になる本
「日本でいちばん大切にしたい会社」
  坂本光司著 あさ出版  定価 本体1,400円+税

優良企業を取材し取り上げた本は、昔からたくさん出ていますが、本書で紹介する企業は、それらのなかでもちょっと違う。
優れているというだけでなく、著者が文字通り「日本でいつばん大切にしたい会社」という意味でとらえているからです。

なぜこの会社には、4,000人もの学生が入社を希望するのか?
なぜこの会社は、48年間も増収増益を続けられたのか?

冒頭の章で著者は、会社経営とは「五人に対する使命と責任」を果たすための活動であるとして、本書で紹介する5つの会社どれもが、その使命と責任を見事に果たしていることを見せてくれています。
まず、その五人とは、以下の人たちに対する使命と責任のことです。
1、社員とその家族を幸せにすること
2、外注先、下請企業の社員を幸せにすること
3、顧客を幸せにすること
4、地域社会を幸せに、活性化すること
5、これらを達成することで自然に生まれる株主の幸せ

5番目の表現でわかるように、この順番を間違えてはいけない。
まず従業員が幸せになっていることでこそ、良いサービスや品質を実現することができるのです。

そんな経営像の最初に紹介されている日本理化学工業株式会社の事例は強烈です。
従業員約50名のうち、およそ7割が知的障害をもった方々で占められているこの会社は、はじめからこのようなスタイルを考えていたわけではなかった。

昭和34年のある日、ひとりの養護学校の先生がこの会社を訪ねてきた。
難しいことはわかっているが、どうかあなたの会社でうちの子どもを採用してもらえないか、という。
その意義はわかるものの、責任をもてるかどうか自信はもてないので、社長は断ることしかできなかった。それでも、その先生は再三お願いに来る。
三度目の訪問のとき、それでも就職が無理なら、せめてあの子達に働く体験だけでもさせてくれないか、と頼み込んできた。その先生の姿に社長は心を打たれて、「一週間だけ」ということで二人の障害をもつ少女を受け入れることになる。
やがてふたりが勤めはじめると、先生はもとよりお父さん、お母さんが遠くから「倒れていないか」「何か迷惑をかけていないか」遠くから見守る。

そして一週間が過ぎ、就業体験が終わろうとしている前日のこと。
十数人の社員全員が社長を取り囲み、どうかあの子達を採用してあげてください。あの二人の少女をこれっきりにするのではなく、正社員として採用してあげてください。これが私たちみんなの願い、総意だという。
それだけ社員みんなの心を動かすほどその子達は朝から就業時間まで一生懸命働いていた。

なぜこの子達はこれほどまでに一生懸命働くのか、社長は不思議に見えた。
その疑問をある法事の場でお坊さんに尋ねてみた。するとお坊さんは
「そんなこと当たり前でしょう。幸福とは、①人に愛されること、②人にほめられること、③人の役にたつこと、④人に必要とされることです。(このうち②と③と④は)施設では得られないでしょう。この三つの幸福は、働くことによって得られるのです」
といい、それに社長は気づき、人を工程に合わせるのではなく、工程を人に合わせるしくみ作りをし続けて50年以上、そうした従業員を雇い続けることになる。

ある日、トイレで社長はあるベテラン社員の言葉を耳にする。
「社長があんなおかしな人間を入れるもんだから、おれたちまでおかしく見られちゃうよな。あんなことされちゃ、たまったもんじゃないな」
社長は、すぐに社員全員に会社が障害者を採用した理由を話して、別室にそのベテラン社員を呼び「彼の前で謝らないのであれば、あなたには去って欲しい。あなたの言動は会社として、人間として認めることが出来ない」と強く言った。
やがてその社員は結局会社を去っていくが、多くの会社でも、このベテラン社員と同じような気持ちで働いているものは決して少なくないのではないだろうか。

著者がそんな取材をしていると応接室に、おばあさんがコーヒーを運んできてくれて、静かに去る。
すると社長は、
彼女ですよ。
以前お話した最初に雇った女性は、という。

めまぐるしく変化する世の中で、10年はおろか、3年、5年先の事業計画すら成り立ちにくい時代ですが、
どんな変化があっても、こうしたきちんとした価値観で、決して会社側の都合でリストラなどもすることなく地域を長い歴史をもって支えている企業がここにある。

きちんとした価値観を持ちそれを貫くことこそが、長く会社経営を続けることの条件であることが、本書で紹介されている5つの企業の事例でよくわかります。

ほかの人と同じように戦いたくても戦えない、がんばりたくてもがんばれない、そんな方々が真の弱者であって、がんばれるにもかかわらず、がんばらない人、やれるはずの努力をしない人や企業は、偽者の弱者です。そんな人々に手をさしのべる必要はないと、著者は強く訴える。


この日本理化学工業という会社はダストレスチョークという粉の飛ばないチョークの生産で高いシェアを持つ会社なので、地域の学校でもこの会社の製品を使っているところも多いのではないでしょうか。

この本、追加が入荷したら、学校関係者、企業関係者、人が働くということを考える姿勢のあるすべての人たちに紹介したい。

 (以上は、正林堂店長のブログより加筆、転載したものです)
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