語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【大間原発】訴訟第1回弁論 ~函館市vs.国・電源開発~

2014年08月01日 | 震災・原発事故
 大間原発をめぐって対岸の函館市が、国と電源開発に対して建設の差し止めなどを求めた訴訟【注】の、第1回口頭弁論が7月3日、東京地裁であった。
 冒頭、原告側意見陳述で、工藤壽樹・函館市長は、国と電源開発への不信感を露わにした。
 「きわめて横暴で、強圧的なやり方だ」

 大間原発から函館市まで、津軽海峡を挟んで最短23km。事故が起きれば大きな被害を受ける。
 市は、3・11後に30km圏内の自治体として避難計画の作成を国から義務づけられたが、大間原発への「同意権」はないまま。工事が2012年10月に再開された際も、「電源開発は一方的に通告しに来ただけ」【工藤市長】。

 工藤市長は、大間原発の問題点を列挙し、「無期限凍結」を訴えた。
  (a)世界初の「フルMOX」方式(毒性が非常に強いプルトニウムを使った燃料だけで動かす)で、危険性が高い。
  (b)津軽海峡は領海が3カイリ(5.5km)しかなく、テロリストに狙われやすい。
  (c)福島原発事故を招いたずさんな審査基準で許可されている。
 
 市が訴訟の根拠に掲げるのは、の次の二つだ。重大事故によるこれらの権利への侵害を排除、予防するために原発の建設中止を求めている。
  ①地方自治体の存立を維持する権利(地方自治権)
  ②市有財産の財産権

 口頭弁論では、国の代理人も異例の意見陳述に立ち、訴えを却下するよう主張した。
  ①’地方自治権は憲法が保障する自治体固有の権利ではない。
  ②’自治体の財産権は個人の財産権のようには保護されず、市には原告適格がない。

 これに対して市の弁護団は、次のように反論する。この点が最初の争点になるだろう。
  ①''福島の事故では自治体の「生命」が失われており、存立権を実体ある権利として認めるべきだ。 
  ②''改正原子炉等規制法には「国民の財産の権利」が明記され、市にも原告適格がある。

 【注】「【原発】函館市の大間原発建設差し止め訴訟 ~自治体初~

□小石勝(ジャーナリスト)「「大間原発の無期限凍結を」 函館市長が不信感表明」(「週刊金曜日」2014年7月18日号)
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【原発】施設管理者に避難計画丸投げ ~川内原発~

2014年07月25日 | 震災・原発事故
 九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働手続きが進む。
 そうした中、援護を必要とする人びと(寝たきり高齢者・心身障害者など)の避難対策が、個々の施設に押し付けられている実態が明らかになってきた。
 川内原発から半径30km圏内の9市町はそれぞれ防災計画を策定しているが、要援護者の避難については具体策を決めていない。
 施設管理者に避難の策定が丸投げされるのは、行政の責任放棄ではないか。

 「10km圏外の要支援者(要援護者)の施設については避難計画を策定する必要はない」
 6月13日、伊藤和一・鹿児島県知事はこのように発言した。
 事実、10km圏外の社会福祉施設・医療関係の227施設については、施設管理者が避難計画を策定する、とのみ定められている。

 「在宅の要支援者(要援護者)は他の避難者と一緒に体育館や公民館に避難する計画だが、これも非現実的」【江藤卓朗・いちき串木野市(原発に隣接する)内の社会福祉施設経営者】
 「医療を必要としている人や、パニックを起こす人もいる」【同上】

 自治体への聴き取りによれば、避難先の床面積は2平米/人に限られるのが実態。
 1993年の水害の際には、ある施設から30人の入所者を7か所に分けて避難させた。それがどんなに大変だったか。【馬場添司・ケアマネージャー協会いちき串木野支部会長】
 100人の入所者を1か所では受け入れられない。行政は現状を調査して計画するべきだ。【同上】

 社会的弱者への配慮を怠るなど、多くの課題を抱えながら進む再稼働について、いちき串木野市民らが、6月24日、「市民の生命を守る避難計画がないままでの再稼働に反対を」という趣旨の陳情を同市議会および田畑誠一・市長に対して行い、賛同する15,464筆の署名を提出した。

□満田夏花(FoE Japan)「川内原発再稼働手続きに進むも避難弱者は・・・・ 施設管理者に避難計画丸投げ」(「週刊金曜日」2014年7月18日号)
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【原発】司法の役割を果たした福井地裁判決

2014年06月19日 | 震災・原発事故
 (1)日本国憲法は、立法・司法・行政の三権が分立した民主主義国家体制を定めている。
 三権分立制度の狙いは、国民・市民の人権、自由を守ることにある。
 三権のうち司法の主要な役割は、憲法が保障する国民・市民の基本的人権を守る、という視点から立法と行政をチェックするところにある。

 (2)5月21日の福井地裁判決は、まさに司法本来の役割を果たした判決だ。判決は、関西電力大飯原発3・4号機運転差し止めを命じた。
 <生存を基礎とする人格権が公法、私法を問わず、すべての法分野において、最高の価値を持つとされている以上、本件訴訟においてもよって立つべき解釈上の指針である>
 <個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、その総体が人格権であるということができる。人格権は憲法上の権利であり(13条、15条)、また人の生命を基礎とするものであるがゆえに、我が国の法制下においては、これを超える価値を見出すことはできない。したがって、この人格権とりわけ生命を守り生活を維持するという人格権の根幹部分に対する具体的侵害のおそれがあるときは、人格権そのものに基づいて侵害行為の差し止めを請求できることになる>
 同地裁判決は、人格権重視の視点から、以下のように断じた。
 <被告(関西電力)は本件原発の稼働が電力供給の安定性、コストの低減につながると主張するが、当裁判所は、極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いの問題等とを並べて論じるような議論に加わったり、その議論の当否を判断すること自体、法的には許されないことであると考えている。このコストの問題に関連して国富の流出や喪失の議論があるが、たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている>

 (3)福島原発事故以前の原発訴訟で住民側を勝訴させたのは、
  (a)高速増殖炉もんじゅの設置許可を無効とした名古屋高裁金沢支部判決(2003年)
  (b)北陸電力志賀原発2号機の運転差し止めを命じた金沢地裁判決(2006年)
 のみだった。そして、(a)および(b)のいずれも上訴審で逆転敗訴となっている。

 (4)もし、最高裁が1件でも住民側勝訴の判決を出していたら、福島原発事故は防げたかもしれないのだ。
 この意味で、福島原発事故に関し、司法の責任は大変重い。
 福島原発事故を経験してしまった現在、全ての裁判官は、司法本来の役割を果たすべきだ、ということを強く肝に銘ずべきだ。 
  
□宇都宮健児「司法の役割を果たした福井地裁判決 ~黒風白雨 28~」(「週刊金曜日」2014年6月13日号)
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【原発】【食】健康食品「青汁」の回収 ~放射能照射食品~

2014年06月17日 | 震災・原発事故
 (1)健康食品として広く飲まれている青汁の一部商品が、4月初め、デパートの店頭やネット通販からいっせいに撤去された。原料が放射線照射処理されていることが、市民の検査によって明らかになったためだ。
 食品に対する放射線照射は、ジャガイモの発芽防止目的を除き、食品衛生法違反だ。
 みなと保健所(東京都港区)が、問題となった原料の輸入販売会社「グリーンバイオアクティブ(GBA)」社に「大麦若葉粉末」20トンの自主回収を指導し(4月14日)、後に回収命令に切り替えた(5月2日)。

 (2)(1)は、照射食品の違法輸入の氷山の一角にすぎない。
 というのは、日本へ食料を輸出している中国、米国、東南アジア諸国などでは照射食品が許可され、流通している。しかも、輸出入の際の検疫は、時々モニタリング(抜き取り)調査をする程度で、きわめて緩やかだ。このため、かなりの量の違法照射食品が検疫をすり抜け、日本人の口に入っている(推定)。

 (3)コバルト60などが発するガンマ線や、電子加速器が放出する電子線を食品に当て、病原菌を殺したり、発芽組織を傷つけたりするのが放射線照射だ。
 その線量は、日本原子力産業会議の資料によれば(単位はキログレイ(kGy))
  ・ジャガイモの発芽抑制・・・・0.03~0.15kGy
  ・香辛料などの殺菌・・・・3~10kGy
 哺乳動物の致死線量は0.005~0.01kGyだから、人間に有害な線量よりはるかに大量の放射線が食品に照射されているわけだ。

 (4)照射食品について、
  (a)国際原子力機関(IAEA)、国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)の合同専門家会議は1980年に「意図した技術上の目的を達成するために適正な線量を照射した食品は、適正な栄養を有し、安全に摂取できる」との見解をまとめている。
  (b)(a)を基に、国際食品規格委員会(コーデックス委員会、CAC)は、「食品への放射線照射は、正当な技術目的を達成するのに必要な場合を除き、10kGyを超えるべきではない」と定めている。
  (c)(a)について、
    「合同専門家会議が1976年に公表した検討課題を検討していない」
    「重要な実験のデータが公表されず追試が困難」
    「検討内容と結論の間に論理の飛躍がある」
   などの疑問が出されている。そして、照射食品の安全性に疑問をつきつける動物実験も多い。
  (d)(a)について、合同専門家会議が照射によって、
    ①食品の誘導放射能(放射線を出す力)のレベルが上昇することも、
    ②特別の「分解生成物」が有害なレベルまで生成されることも、
   ほとんどない、としている点にも疑問が出されている。
    ①については、米国陸軍の研究機関の50年以上も前の実験で誘導放射能が生じていたことが2007年に公表されている。
    ②については、アルキルシクロブタノン類(ACBs)という生成物に発癌促進作用のあることがルイ・パスツール大学(仏)の研究者らによって2002年に発表された。

 (5)(4)-(d)のような事実を無視して「10kGy以下なら安全」という見解が一人歩きしているのだ。
 放射線照射は、透過力が強いので、包装した食品でも殺菌効果があり、温度が2度前後しか上がらないので、冷凍食品の殺菌も可能だ。このため、細菌数が多く衛生上問題のある食品を簡単に殺菌でき、検疫を通過させるのに便利だ。照射に対しても新鮮に見えるので、消費者の目を誤魔化すこともできる。
 そうした「利点」があるため、照射食品は世界50か国以上で許可されている。照射食品の量は、2005年時点で40万トンにも達した。中国(にんにく・香辛料・穀物などの146,000トンに照射)、米国(肉・果実・香辛料などの92,000トンに照射)が上位1、2位を占めていた。
 その後、アジア諸国で急増した。2010年の照射食品量は、中国で200,000トン超、ベトナムで66,000トンになっている。

 (6)普及促進の旗振り役は、IAEAなど世界の原子力関係者だ。原子力産業は、食品照射施設を懸命に売り込んでいる。
 日本の原子力業界は、1960年代から食品照射の導入に熱心だった。
 しかし、1972年にジャガイモの発芽防止用に限って許可されただけで、他の食品への照射は禁止されてきた。
 全国でただ一つ、北海道士幌町農協が「芽止めじゃが」の表示付きで照射ジャガイモを販売しているが、年間出荷量は6,000トンにとどまっている。
 2000年になって、全日本スパイス協会が香辛料への許可を国に要望し、原子力委員会は2006年、推進を促す文書を厚労省などに通知した。これに対し、厚労省は2010年に、安全性審査に進むにはまだ資料が不十分との趣旨を原子力委員会に回答している。 

 (7)2011年の福島原発事故以降も、導入に向けた動きは止まらない。
  (a)食品安全委員会は、2012年に、ACBsに関するパスツール大学の結論を否定する国内研究者の実験結果を有用なデータだと発表した。これに対し、「実験の方法が異なるので、否定はできていない」との反論が出されている。
  (b)厚労省は、2012年9月から、生の牛レバーの殺菌に放射線照射を使うことができないか、研究を進めている。
 (a)も(b)も照射食品の導入に道を開こうとしているわけだが、忘れてはならないのは、照射食品は消費者にとってまったく必要がないことだ。
 食品の安全を保つには、製造・流通過程を衛生的にすればいいし、そのための技術も数多く開発されている。そもそも「
生命の糧」である食べ物と原子力は相容れない。
 照射食品を締め出すために、消費者が声を上げるときだ。

□岡田幹治「健康食品「青汁」を回収へ 原料が放射線で照射されていた」(「週刊金曜日」2014年6月13日号)
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【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~

2014年06月13日 | 震災・原発事故
 (1)「東電:10月から全国で電力販売」
 「乱戦 電力小売り」
 ・・・・など、新聞各紙に電力自由化に関する派手な見出しが躍っている。
 しかし、疑問な点がいくつかある。
 
 (2)確かに、今国会で審議されている電気事業法改正案の柱は「2016年からの消費者向け電力販売自由化」だ。自由化されれば、競争になり、料金は下がるかもしれない。
 しかし、小売り以外の大口需要家向けの電力販売はとっくの昔に自由化されているのに、大手電力会社間での競争はまったく生じなかった。
 原発依存度が異常に高かった関西電力は、原発停止で供給力に不安が生じ、さらに電力料金も値上げした。本来なら、供給力に余裕のある北陸電力などが。関電管内で事業者向けに電力販売の営業攻勢をかけそうだが、そうはなっていない。自由化は競争を必ずしも意味しないのだ。
 
 (3)今回は、関電や中部電が東電管内で発電や小売りに参入するとか、東電も全国で小売りを始めると報じられるが、そこにも疑問がある。
 東電以外の大手電力会社と東電との間の競争は起きるのに、東電以外の電力会社の間(<例>関電と北陸電)の競争は起きない。
 さらに、東電は、福島第一原発の事故処理を自分ではできず、国民の税金が投入されている。それなのに、なぜ発電所を作ったり、他の地域に出かけていく余裕があるのか。
 
 (4)(2)や(3)の疑問に答えるカギが、「電気事業連合会」と「経済産業省」の微妙な癒着にある。
 電事連は、大手電力会社が集まって自分たちの利権を守ろうとする団体だ。先進国ではありえない独占企業の連合体だが、任意団体なので経理内容や会議内容は秘密だ。
 しかし、ヒントはいくつかある。
 国会事故調査委員会報告書のp.510以降によれば、福島原発事故以前に電事連が談合して、耐震設計審査指針を骨抜きにしようとしていた。また、日経新聞によれば、原子力規制委員会が、各電力会社に対して個別の原発ごとに地震想定を大幅に引き上げるように指示したのに、電力会社は「談合」して見直しに応じないという態度を続けていた。
 つまり、電事連の談合組織としての機能は、今日も続いている。

 (5)実は、大手電力会社が東電抜きの会議を頻繁に開いている。
 何故か。
 東電は、国の出資を受けて経産省の子会社となり、役員に経産省の役人もいる。電事連の会議で談合の打ち合わせをやったら、東電から経産省に筒抜けになる。そこで、危ない話をするときには東電を外さざるを得ない。電事連は、事実上、東電抜きの談合組織になったのだ。
 以上のように考えれば、今起きていることは非常にわかりやすい。
 東電は、他の電力会社にとってはもはや仲間ではない。そこで、中部電や関電は東電管内で競争を仕掛ける。一方、経産省は、自分の子会社である東電に税金を投入し、他の電力会社管内でもビジネスを拡大しようとする。

 (6)むろん、(5)の構図では東電以外の電力会社間の競争は進まない。経産省は、他の電力会社に天下りを送っているから、東電の営業攻勢もほどほどのものになるだろう。 
 東電以外の大手電力会社は、談合で事実上地域独占を温存して利益を確保し、余裕をもって競争できる。
 東電は、何兆円もの税金を投入してもらって、経産省と二人三脚で暴れる。
 これでは大手電力会社と競争する新電力会社は大きな勢力になりにくい。
 消費者が、安くてサービスのよい電力会社を自由に選べる時代が本当に来るのか。
 そのためには、電事連解体と、経産省から規制権限を剥奪できるかどうかがカギになる。」

□古賀茂明「電力会社の歪んだ「競争」 ~官々愕々第112回~」(「週刊現代」2014年6月21日号)
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 【参考】
【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任
【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造
【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~
【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~
【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~
【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~
【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~
【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~
【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~
【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~  
【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~
【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと
【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~
【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~
【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~

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【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任

2014年06月07日 | 震災・原発事故
 (1)5月27日に政府は、原子力規制委員会委員のうち9月に任期が終わる2人の委員を再任しない、と発表した。
 このうち島崎邦彦・委員長代理の交代については、電力会社に厳しかったので、政府が交代させた、というマスコミの報道が多かった。
 それはしかし、表面的な見方だ。
  (a)「島崎委員が電力会社に厳しかった」という見方は正しくない。傍証・・・・総理秘書官の一人は、島崎委員の言うことは極めてまとも、と評している。原発推進にのめり込む官邸でさえ、島崎委員が決して厳しかったわけではないことを認めている。
  (b)古賀茂明の知る地震学者の多くも、島崎委員は「人間としては良心的」だが、学者としては電力会社にかなり妥協した、と見ている。
  (c)客観的に見て、島崎委員はちっとも「電力会社に厳しい」ことはなかった。

 (2)規制委員会は、あらゆる意味で、再稼働を前提に動いている。
 地震の評価の面を見ても、基本的な姿勢は電力会社に対して甘い。
  (a)米国であれば、立地地点について大きな地震のリスクがないということを電力会社側が完全に証明して規制委員会を納得させなければならない。規制委員会側は、その説明fでわからなければ、「わからないから建設はダメ」と言える。日本では逆に、電力会社が「規制委員会の言うことは根拠不足だ」などと偉そうに論評し、それに対して規制委員会側が原発の敷地内の断層調査などを行って「危ない」ことを証明しようとするありさまだ。立証責任が逆転している。
  (b)規制委員会は、基準値振動【注】の見直しを指示した。当然だと思うだろうが、驚くべし、電力会社はこれに抵抗し、「島崎は電力会社に厳しい!」と批判した。

 (3)川内原発(鹿児島県)の早期再稼働を画策する九州電力にとって、「島崎退任」は朗報だ。
 一部には、退任が決定した島崎委員が最後にとんでもない「置き土産(今まで以上に厳しい判断)」を残すのではないか、と心配する向きもあるが、それは杞憂だろう。
 島崎委員はすでに、川内原発再稼働のために大きな妥協をしているからだ。規制基準では、火山の超巨大噴火に伴う火砕流が原発に到達する可能性がある場合には立地不適とされているのに、抜け道規定を作って九電がモニタリングして噴火が予知されたら急いで対応すればよい、としてしまった。
 しかし、火山噴火予知連絡会長らは、「超巨大噴火の予知はできない」として、規制委員会の抜け道規定を根本的に否定している。
 九電は、こんなに「甘い」島崎委員に足を向けて寝ることはできないだろう。

 (4)たった一人で原子力ムラと闘うのがいかに困難であることか、古賀茂明自身、身をもって体験してきた。島崎委員がその恐怖に押しつぶされ、退任後のことを心配したとしても決して驚くことではない。
 しかし、本来独立性が保証されているはずの規制委員会の委員が政治家などから公然と圧力を受けているのはおかしい。
 政府に責任があるのは当然だが、これを見て見ぬふりをしているマスコミの責任も大きい。島崎委員は、世論の後押しもなく孤立したと感じ、退任に追い込まれた。マスコミが、自民党や経産省や財界などの横暴を最初から厳しく批判し、世論を喚起していれば、結果は違っていたかもしれない。
 この国のマスコミが変わらない限り、後任の石渡明・委員にも多くは期待できない。

 【注】各原発ごとに想定する最大の揺れの大きさ。それ以上の揺れは絶対に起こらないとされていたのに、過去10年足らずの間に、5回も基準値振動を超える地震が生じた。

□古賀茂明「規制委人事とメディアの責任 ~官々愕々第111回~」(「週刊現代」2014年6月14日号)
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 【参考】
【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造
【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~
【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~
【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~
【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~
【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~
【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~
【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~
【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~  
【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~
【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと
【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~
【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~
【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~

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【原発】差別的労働管理 ~「吉田調書」に浮かぶ電力会社の「日常」~

2014年06月04日 | 震災・原発事故
 (1)吉田昌郎・福島第一原発所長(肩書きは当時。以下同じ)が、政府事故調査・検証委員会の聴取に答えた「吉田調書」の内容を「朝日新聞」が報じている。
 「調書」では、次のようなことが指摘されている。
  (a)所員の9割が所長命令に反して第二原発へ避難していた。
  (b)本店(東京)に助けを求めた吉田所長に対して、清水正孝・社長が「可能な範囲で対処方針、対処しますので、なんとか、今しばらくはちょっとがんばっていただく」と答え、迅速には動かなかった。
  (c)(b)の結果、収拾に当たったのは消防隊や関連企業だった。

 (2)<最も大変な事態が進行しているときに、原発を操作できる電力会社が収束作業態勢を著しく縮小し、作業にあたる義務のない者が自発的に重要な作業をし、現場に来ることが定められていた役人が来なかった>と朝日新聞は書く。
 その底にあるのは、電力会社の「日常」だったのではないか。つまり、間接部門(委託・派遣)や非正規に現場(事業の根幹であるはず)を担わせて本体は空洞化し、幹部や上級社員が「不在地主化」しつつある「日常」だ。

 (3)原発のようなものを動かすなら、最低限、次のシステムが不可欠だ。これらの基本が「調書」には見られない。
  (a)働き手は何をしているか(職務の透明性)。
  (b)その役割は果たされているか(評価の透明性)。
  (c)「目下」の社員からの危険信号でも迅速に受け止める体制があるか(職場の民主制)。 

 (4)中国電力では、賃金差別訴訟も起きている。ここでも、同様の危惧が感じられる。
 原告は、同社で働き続けてきた長迫忍だ。女性にも力を発揮させてほしい、と長く訴え続け、ようやく営業の仕事を任せられるようになった。しかし、昇進・昇格・賃金で男性と大きく差をつけられ続け、2008年、提訴に踏み切った。
 一審、二審は敗訴し、最高裁に上告中だが、その記録からは、実際の職務より性別や身分を重視する体質、異論を唱えた者を封殺する労務管理が浮かんでくる。

 (5)原発だけではない。テレビ業界・広告業界、自治体サービスを始め、派遣・委託・非正規任せによる空洞化は蔓延している。竹信三恵子『ルポ賃金差別』(ちくま新書)でも指摘があるが、怖いのは、非正規化と間接雇用化で一線の働き手は労使交渉の道さえふさがれ、意思決定層への発信が難しくなっていることだ。
 そんな中で働き手に投げつけられるのが「自己責任」という言葉だ。

 (6)正社員の枠を狭められて就職に苦労する学生に、「自分を磨け」と説教するだけの社会では、学生は持てるすべてを注ぎ込んで、自力で就活を乗り越えるしか手はない。大内裕和・中京大学教授のいわゆる「全身就活」だ。
 企業の低賃金や長時間労働による結婚の困難を何とか自力で乗り越えようと、「全身婚活」に走る男女。
 保育所不足を乗り越えるため、産休・育休中から必死で保育所探しに走る「全身保活」の若い母。

 (7)(5)や(6)の状況をめぐる対談集『「全身○活」時代 ~就活・婚活・保活からみる社会論』(大内裕和/竹信三恵子、青土社、2014.5.22)が今月出たが、「吉田調書」に表れたのは、まさに空洞化した電力会社内での現場の必死の乗り越えとしての「全身○活」の姿だった。
 原発の持続可能性の危うさは言うまでもない。
 同時に、私たちにあの原発を再稼働できるような組織を持っているのか・・・・という問いも発していく必要がある。

□竹信三恵子(和光大学教授)「「吉田調書」に浮かぶ電力会社の「日常」 差別的労働管理が生む「全身○活」の危うさ  ~竹信三恵子の経済私考~」(「週刊金曜日」2014年5月30日号)
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【原発】函館市の大間原発建設差し止め訴訟 ~自治体初~

2014年05月18日 | 震災・原発事故
 (1)原発立地において「地元」の範囲はどこまでか。
 4月3日、北海道函館市は、電源開発(東京)による大間原発(青森県大間町)の建設差し止めを求め、国と事業者(電源開発)を提訴した【注】。

 (2)大間原発建設地から函館市まで最短23km、海上に遮蔽物はなく、晴れた日には函館市役所本庁舎から大間原発の工事現場から伸びる大型クレーンを肉眼で確認できるほどだ。
 大間原発の最大の特徴は、「フルMOX」仕様であることだ。原発の運転経験のない電源開発が、核分裂反応を制御しにくいとされるMOX燃料を全炉心で使うことを目指す世界初の商業炉を稼働させることに、原子力規制委員会委員からですら「経験のなさを心配している」と懸念する声が上がる。
 過酷事故が起これば、函館も甚大な被害を受けるだろう。函館は海に囲まれ、避難するには北上するしかない。だが、避難路として使える幹線道路は1本きりで、この道路も連休ごとに渋滞を繰り返す。函館市民27万人がすべて避難可能な、実効性ある避難計画を策定することは事実上不可能だ。
 福島第一原発事故後、大間原発は函館市民にとって生活の根幹を揺るがす脅威となった。

 (3)国は、防災重点区域を原発から半径8~10km圏(防災対策重点地域=EPZ)から同30km圏(緊急防護措置区域=UPZ)に拡大し、事故を前提とした原子力防災計画と避難計画の策定を義務づけた。
 だが、原発の建設や再稼働における同意・不同意の意思を表明する権限があるのは、福島第一原発事故以前に指定されたEPZ内にある「立地自治体」とその都道府県に限られる。
 函館市は、建設に同意していないし、説明会を開くよう要望しても受け入れられず、意見を言う場もない。何の情報も得られないのに、避難計画策定の義務は負わされる。リスクだけを押し付けられ、理不尽だ。UPZ内の周辺自治体にも同意・不同意の意思表明をする権限を与えるべきだ。【工藤寿樹・函館市長】

 (4)函館市が裁判で明らかにしたいのは、政府の原発政策のずさんさだ。原発の安全確保や事故が起きたときの責任の所在が国なのか、原子力規制委員会なのか、事業者なのか、現時点ではきわめて曖昧なままだ。次の(a)と(b)に見られるように、互いに責任逃れしている。
  (a)田中俊一・原子力規制委員会委員長・・・・原子力規制委員会の審査は、基本的に新規性基準に適合しているかのみ判断するとし、「絶対安全という意味で安全というなら、私どもは否定する」。【3月26日、定例会見】
  (b)管義偉・官房長官・・・・函館市の提訴を受け、「原子力規制委員会によって(大間原発の)安全性が確認された段階で、立地自治体などの関係者の理解を得るために、事業者が丁寧な説明を行うことはもちろん、国としてもしっかり安全性を説明したい」。【4月3日、記者会見】

 (5)工藤市長が「最終手段」だという司法の場での問題提起は、次の3点に絞られる。これは原発再稼働に揺れる全国の周辺自治体も同様に抱える問題で、代理人(河合弘之・弁護士)も、函館市に追随し、他の周辺自治体も訴訟を提起することに期待を込める。
  (a)避難計画を義務付けられる30km圏内に同意権を拡大すること。
  (b)建設や稼働にあたっては、実効性のある有効な避難計画の策定が可能か、事前に検証し、原子力規制委員会の新規性基準の適合審査のなかで避難計画についても審査すべきだ。避難が困難な地域には原発を建設すべきではない。
  (c)原子力規制委員会の新規性基準の適合審査をクリアするまでは、大間原発の建設を中断すべきだ。

 (6)自治体による提訴には、地方自治法によれば議会で出席議員の過半数の賛成による議決が必要だ。函館市による提訴承認を求める議決では、2人の退席者があったが、全会一致で可決した。工藤市町が、立場の異なる市議と2年半かけて議論を重ねた結果だ。
 函館市の提訴を、市民はおおむね支持する。特に観光と水産が主要業の函館では、風評被害によるダメージも大きい。
 函館市が訴訟費用に充てるための寄付を募ったところ、4月21日までに1,650万円集まった。
 水産業では実害も起こり得る。昨夏は海水温が上がり、特産のイカの不漁が続いた。原発稼働に伴い、温排水が海に放出されれば、さらに海水温が上がる。マグロはイカを追って津軽海峡に来る。イカの不漁はマグロの不漁にもつながる。全国区になった戸井マグロの水揚げの行方が懸念される。

 (7)係争中も原発の建設は進む。裁判が長期化すれば、判決より先に稼働する恐れもある。
 函館市の提訴に先立ち、2010年7月に国と電源開発を相手に函館地裁に提訴dした住民訴訟は、まだ終わりが見えない。民事裁判では原告に立証責任を重く課しているに加え、建設地周辺に活断層がある可能性について論証するなど、専門分野に深く入り込み、裁判を長引かせている。
 函館市もその点を危惧し、「行政手続きの不備を突くことが、自治体が提訴した意義につながる」と争点を絞ることに決めた。
 原発稼働が目前に迫るなど、切迫した状態になれば、建設差し止めを求める仮処分申請も視野に入れるというが、実効性は定かではない。
 初弁論は、7月初旬に開かれ、工藤市長も意見陳述する予定だ。

 【注】池澤夏樹「「(終わりと始まり)函館の憤怒・日本の不幸 原発、合理の枠から逸脱」」(朝日新聞デジタル 2014年5月13日)

□松嶋加奈「自治体初 函館市の大間原発建設差し止め訴訟」(「世界」2014年6月号)
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【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~

2014年03月28日 | 震災・原発事故
 (1)東京電力が新たな総合特別事業計画(再建計画)を策定し、安倍政権がゴーサインを出した。
 そこには「東電復活」ロードマップが描かれている。
 柏崎刈羽原発の4基を7月から順次再稼働させ、2014年度に1,6円超の経常黒字を見込む。
 再稼働が遅れれば電気料金の再値上げを検討する。

 (2)はっきりと確定したのは、東電は絶対に潰さないということ。廃炉、除染、汚染水対策などで東電の資金力がなくなっても、すべて税金か電気料金で賄うスキームだ。銀行が東電に融資している4兆円は何が何でも守る。銀行、経済産業省がうまいことをやった、という印象だ。
 膨大なカネがかかる事故処理に、最終的に税金の投入は仕方がない。しかし、その前に、経産省、銀行、株主は何の責任をとらなくてもいいのか。事故から3年間、世論の反発をかわしながら、時に東電を矢面に立たせ、問題が出ると政府が「ちゃんとやります」とポーズを取り、のらりくらりと国民を丸め込んだ。

 (3)国は、2012年7月、原子力損害賠償支援機構を通して東電に1兆円の公的資金を注入し、議決権の過半を握った。この議決権を2016年度末以降に50%未満、2020年代初頭には3分の1未満に引き下げ、東電の「自律的運営体制」を取り戻そうというのが、計画のポイントだ。2020年代半ば以降には、この国が持つ株式を市場で売る算段だ。
 売却益は国庫に戻さず、東電の除染費用に充てられることになった。
 株価を上げるためには、東電が儲かる会社にならなければならない。つまり、今後、もっと東電に甘い仕組みができるだろう。

□記事「古賀茂明氏が読み解く東電の新再建計画 絶対に潰さずに銀行守る 株売却視野に甘い仕組み」(「AERA」2014年3月17日号)
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 【参考】
【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
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【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働

2014年03月27日 | 震災・原発事故
 (1)原発再稼働が最終プロセスに入った。
 原子力規制委員会は、3月13日、再稼働審査中の10原発のうち、九州電力川内原発(鹿児島県)の審査を優先的に進めることにした。
 かくて、この夏の川内原発再稼働がほぼ確実になった。

 (2)3年前、東日本大震災直後の2011年春、経済産業省では官僚たちが原発再稼働のための戦略ペーパーを作っていた。その後、新設される「原子力規制委員会」をどのようにして「再稼働のための組織」にするかが大きな課題になるのだが、彼らは実に見事にそれをやり遂げた。
  (a)規制委員会の人選を国会ではなく、関西電力大飯原発再稼働を強行した野田内閣が行う仕組みにした。
  (b)2年はかかると言われていたのに、日本の原発を動かすための甘い規制基準案をわずか半年で作らせることに成功した。
  (c)規制委員会を設立後1年近く再稼働の準備に専念させた。福島第一原発の悪い情報は上げず、関心を逸らした。その結果が汚染水問題の深刻化と事故収束の遅れだ。
  (d)これが実は非常に大きいのだが、原発事故の避難対策は規制委員会の仕事ではないことにしてしまった。安倍政権は、規制委員会が規制に適合していると認めた原発は、地元がよいと言えば再稼働させる、という立場だ。その結果、避難対策には規制委員会も政府も責任を持たず、地元自治体に丸投げされることになった。地元自治体は、再稼働最優先のところがほとんどだ。まともな避難対策はできない。つまり、日本では、過酷な事故で放射能が検出されると想定しながら、それから逃げるための避難対策が著しく不十分なまま原発を動かすことができるようになった。

 (3)ある民間の研究所が行った原発ごとの試算では、避難に必要な時間が8~63時間だった。
 試算がある自治体の数字とも符合する。
 ちなみに、試算の前提は「すべての道路が壊れていないこと」だった。大地震では道路は寸断される。
 しかも、大雪、台風、さらに逃げ遅れたお年寄りや病人を高濃度汚染されている地域に誰が行って、どう助けるか、なども「想定外」のままだ。実際の避難には、数十時間から100時間以上かかるだろう。

 (4)メルトダウンは2時間で起きる。
 規制委員会はフィルタベント(原発事故時に蒸気を、放射性物質を低減してから外部に逃がす装置)の設置を義務づけているが、放出される放射能濃度は人体に有害なレベルでもよいことになっている。ここから帰結されるのは、事故が起こると多数の住民が深刻な放射能被曝に合う、ということだ。
 逆に言えば、避難対策をきちんとやれ、と言うと、日本の原発はすべて再稼働できなくなる。
 だから、規制委員会は避難対策を無視することにした。
 田中俊一・規制委員会委員長は、廣瀬直己・東京電力社長には会うが、泉田裕彦・新潟県知事の面会要求を拒否している。泉田知事の避難対策に係る質問に答える能力がないからだ。

 (5)規制委員会は、安全でないのに安全だと見せかけて再稼働につなげる、という難しい任務を背負わされている。
 自民党の原子力ムラの議員や経産相らから「早く審査しろ」と圧力がかかる。
 安部首相らが、原発が止まって化石燃料輸入増で貿易赤字になった、と喧伝する。
 全部規制委員会の責任だ(と原子力ムラは言う)。

 (6)規制委員会も政府に反撃するがよい。
 <例>電力会社に損害賠償保険への加入を義務づけるよう経産省に勧告する。
 誰も保険を受けなければ、安部のお得意の経団連へ要請してもらえばよい。安全だというのだから、経団連企業が引き受けるだろう。

□古賀茂明「「避難計画」なき原発再稼働 ~官々愕々第103回~」(「週刊現代」2014年4月5日号)
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 【参考】
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~

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【原発】非核神戸方式への影響懸念も ~神戸市が憲法集会の後援を拒否~

2014年03月27日 | 震災・原発事故
 (1)核兵器を積載していない旨、非核証明書を提出しない艦船は入港を認めない・・・・この「非核神戸方式」が神戸市議会で決議されて39年。
 特定秘密保護法案が強行採決されて以降、「非核神戸方式」をめぐって緊張感が高まっている。

 (2)先ごろ、市民団体などが主催し、毎年開かれていた「5月3日憲法集会」への後援神聖を、神戸市および神戸市教育委員会が断った。これが、緊張感の高まりとなる直接のきっかけだった。
 「非核神戸方式」は、1975年3月18日、神戸市議会が全会一致で採択した「核兵器積載艦船の神戸入港拒否に関する決議」に由来する。以来、神戸港に米軍艦船は入港していない。
 これに並行して、神戸市では憲法集会への後援も事実上、「慣例」となっていた。
 しかし、昨秋就任した久元喜造・神戸市長は総務官僚出身だ。
 自民主導で選挙をしており、自民党に過度な配慮をしている。いよいよ馬脚を現してきた。【林英夫・神戸市議】
 神戸市は、3月18日に開催予定の非核神戸方式決議39周年記念集会への後援は、今のところ維持している。しかし、消極姿勢が目立つ同市の対応からして、「安倍改憲の先取り」を憂慮する市民の声も強い。今後への悪影響が懸念される。

 (3)公務員には、憲法尊重擁護義務が課せられている(憲法第99条)。
 だが、今回の後援不承認は、「憲法に関する集会そのものが政治的中立を損なう可能性」を理由としている。市教委は、「昨今の社会情勢に鑑みた」という。
 この後退姿勢は「地方自治の放棄」だ。【上脇博之・神戸学院大学教授】

 (4)「非核神戸方式」の精神・手法は、ニュージーランドにも取り入れられた。世界各国の範とされ、国内では、核持ち込み「密約」を暴く力にもなった。
 今年の39周年記念集会のテーマは「秘密保護法で非核『神戸方式』はどうなる?!」だ。新原昭治・国際問題研究者が、非核・非同盟の日本づくりの展望を語る。

□たどころあきはる(ジャーナリスト)「神戸市が憲法集会の後援を拒否 非核神戸方式への影響懸念も」(「週刊金曜日」2014年2月14日号)
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【震災】ずさんな検証と隠蔽 ~大川小学校事故検証委員会~

2014年03月22日 | 震災・原発事故
 (1)津波で全校児童108人中70人が死亡、4人が行方不明となった宮城県石巻市大川小学校。津波襲来まで50分あり、裏には避難可能な山、スクールバスもあった。「それなのに」
 遺族は、2月にまとまった検証委員会の最終報告に失望し、3月10日、訴訟に踏み切った。提訴したのは、遺族54家族のうち19家族。石巻市と宮城県に対し、教職員の過失を問う損害賠償請求を行う。
 「子どもを失った上、3年間侮辱され続けた。訴訟に追い込んだのは検証委員会だ」

 (2)検証委員会は、石巻市の依頼を受けた第三者機関として昨年1月に活動を開始。投じられた予算は合計5,700万円。検証委員会は石巻市教育委員会に代わり、遺族の思いに応える義務があった。市教委は、以下のような不誠実な対応を続けてきたからだ。
  (a)遺族説明会を開かない。
  (b)唯一生存教師を「病気休暇中」として出さない。
  (c)初期段階で聴取した子どもの証言を改竄・隠蔽し、メモを廃棄した。

 (3)ところが、検証委員会の検証は実にいい加減だった。
  (a)設置段階で、「中立性を保つ」と称して委員の人選を文科省が行ったが、「市教委や県教委と結びつきの深い人物は入れないでほしい」などの遺族の要望は蹴られた。首藤由紀・株式会社社会安全研究所所長(受注先にして事務局を担う)と首藤伸夫・委員とが実の親子であることも疑問視されたが、文科省は押し切った。
  (b)設置要項に「目的」がなく、「誰のために何を検証するか」が不明確だった。
  (c)検証は「ゼロベース」からで、遺族が集めた重要な証拠はほとんど活かされなかった。遺族が「子どもたちは日常的に登っていた」と震災前年に撮影した写真(裏山で写生中)を提出しても、1999年以降の大川小勤務経験者アンケートなどから「教職員は裏山は危険と認識していた」と結論付けた。
  (d)検証方法も不可解だ。
   ①検証委員会には6人の委員のほか、4人の調査委員がいるが、当日の津波を検証したのは津波工学の権威、首藤委員ではなく、心理学者の大橋智樹・調査委員/宮城学院女子大学教授だった。
   ②中間とりまとめ(7月)の際、同調査委員は「学校への津波到達時刻は15時30~32分ごろ」と通説だった15時37分より早いとの見解を出したが、遺族らの指摘ですぐ引っ込めた。最終報告では「37分ごろ」に戻っている。
   ③そもそも遺族は、当初から「津波の検証は不要」としていた。遺族が知りたいのは、「逃げられる客観的条件があり、教師が一緒にいながら、なぜ子どもを救えなかったのか」だからだ。しかるに、検証委員会は、問題の核心からほど遠い津波や気象など周辺の検証に力を入れ、肝心な生き証人の検証を軽んじた。どんな立場の誰が証言したかをぼやかした。そして、「山への避難を訴えたり、泣き出したり、嘔吐する子どもがいた」と書く一方で、「遊び始めたり、ゲームや漫画など日常的な会話をしていた」などと相反する証言を羅列し、検証を放棄した。
   ④要するに、検証委員会は何も新しいものを提示できず、すでにわかっていた事実を曖昧にしただけだった。
   ⑤そして、「津波予想浸水域に入っていなかったから危機意識が薄かった」「裏山は危険で登れないと思っていた」など、「子どもたちが命を落としたのは仕方なかった」と言わんばかりの最終報告をまとめた。

 (4)教師には、子どもの命と安全を守る義務がある。教師以外が見過ごしてしまうような危険でも、それを予見し、回避することが求められる。
 しかるに、大川小で教師らは、
  (a)ラジオで災害情報を得ながら、川を見に行くなど積極的な情報収集をしなかった。震災2日朝に起きた震度5弱の地震時には、教師間で津波の危険性が話題になったにも拘わらず。生存教師は裏山に避難を促したが、「津波はこない」とする古参教師の声にかき消された。
  (b)教師は子どもたちを助けるどころか、逃げようとした子どもまでその場に止めておいた。
  (c)校長は不在で、教頭は決断できずにいた。
  (d)生存教師は理科が専門で、地震に詳しかったはずだが、くだんの教師の二度の主張が通らなかった背景には、日ごろの教師間の人間関係や力関係、校長の学校運営に問題があったのではないか。ところが、検証ではこの一番重要な部分が手つかずだった。
  (e)最終報告にも「生存教師が校舎2階で比較的安全に避難できそうな場所を特定している間に、三角地帯に向けて移動を始めた」とあり、少なくとも教師間の意思の疎通がうまくいっていなかったことが推定できる。
  (f)なぜ学校から250m先の新北上大橋たもとの堤防上にある三角地帯を避難先に選んだかも謎だ。海抜1~2mの大川小の数m高いだけの場所に過ぎないし(15時32分にラジオが伝えた予想津波高は10m)、しかも津波が来る川は目前だ。
  (g)避難経路も不可解だ。三角地帯を目指すなら、学校を背にまず右に行くのが自然だが、山がある左に出てから県道238号線に向かった。わざわざ遠回りをし、住宅地を進んだのだ。最後の瞬間、左の裏山を目指せば助かったかもしれない。
  (h)何人もの子どもが「山へ逃げよう」と教師に訴えた。しかし、その声は無視された。子どもたちの証言も遺族の思いも無視され続けている。

 (5)大川小事件は、子ども一人ひとりの命の重さより、自分たちの利益を優先させる日本の権力構造そのもの。
 検証を放棄し、その構造の維持に手を貸した検証委員会の罪は重い。

□木附千晶(ジャーナリスト)「遺族を訴訟に追い込んだ大川小学校事故検証委員会」(「週刊金曜日」2014年2月14日号)
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【原発】巻き返しをはかる原発推進派の策動 ~利権構造の再現~

2014年03月13日 | 震災・原発事故
 (1)安部政権は、今井尚哉・前経済産業省資源エネルギー庁次長を首相秘書官に据える。今井は、開催電力大飯原発再稼働の先頭に立った。
 その安部“原子力ムラ内閣”が、原発再稼働に本格的に手を染め始めた。
 原子力規制委員会を矢面に立たせるのが、その手法だ。同委員会が「世界で一番厳しい基準」で安全と判断すれば再稼働していきたい・・・・と安部首相は繰り返し強調する。だが、「世界で一番厳しい基準」という発言こそ、安部首相の無知の証明、経産官僚に洗脳されている証左だ。

 (2)<ソフトで対応するのか、ハードで対応するのかの違いはあれど、「メルトダウン事故は起きる」という前提で考えているのが世界の潮流です。ところが(日本の)技術委員会の議論を聞いていると、「メルトダウンが起きる」という前提の議論をしていない。「メルトダウンがいかに起きないのかを必死にで説明している」というのは、第二の安全神話を作るのにほかならない>(泉田裕彦・新潟県知事の定例記者会見・メディア懇談会、2013年10月16日)
 他方、安倍首相は「メルトダウン事故は起きる」という前提を考えていない。
 そもそも安部は、2年前の総選挙の選挙公約で、「原子力に依存しなくてもよい経済社会構造の確立」を掲げていた。
 ところが、今になって原発を「基盤となる重要なベース電源」(「エネルギー基本計画案」、2013年末策定)と言い出し、メルトダウン事故の対策もとらず、再稼働に踏み切ろうとし、原発輸出さえ目論んでいる。

 (3)さらに、いま進行中なのが、再稼働反対の脱原発派知事潰しだ。例えば、嘉田由紀子・滋賀県知事潰し。
  (a)2月22日、自民党滋賀県連大会で、上野賢一郎・県連会長/衆議院議員は、来賓の嘉田知事を前に「7月の滋賀県知事選では新しいリーダーを」と宣戦布告した。
  (b)嘉田知事の対抗馬は、原子力ムラの総本山である経産省の官僚だった小鑓隆史・前内閣官房日本経済再生総合事務局参参事官(2月28日退職)だ。
  (c)嘉田知事は、野田政権が進めた大飯原発再稼働に、橋下徹・大阪市長らと共に強く反対。今井資源エネルギー庁次長(当時)に、「再稼働しないと電力不足となって病院の電気が止まったらどうするのですか」などと脅された。安倍首相の側近に抜擢された今井ら官邸関係者が嘉田知事潰しのため後輩の経産官僚擁立に動いた、という見方もある。
  (d)嘉田知事潰しに加わるのが、東京電力に代わって電力業界のドンとなった関西電力だ。大飯原発再稼働の時も、関電がローラー作戦をかけ、滋賀県内をはじめ関西の中小企業を「再稼働しないと計画停電になる」と脅した。
  (e)自民党サイドからは、前回の知事選で嘉田知事を支援した滋賀県の経済界や各種団体に、「今度の選挙では嘉田知事を応援するな」という横やりをすでに入れ始めた。

 (4)経済3団体(日本経団連・経済同友会・日本商工会議所)は、3・11以降、原発再稼働や従来通りの原発の国策としての固定化等を求める提言・レポートを実に24も発表。
 各電力会社のトップらがほとんどの会長職を占めている北海道、中部、九州など地方の経済連合会も、政府に同趣旨の提言・要望を提出している。
 電気事業連合会を先頭に、財界が総力を挙げて巻き返しを狙っている。

 (5)昨年5月、原発族議員である自民党の「電力安定供給推進議員連盟」(細田博之・会長/党幹事長代行)が結成され、昨年末現在140人以上が加盟している。

 (6)今年1月、電力業界は、自民党内で国会議員に対する「エネルギー基本計画案」に対するアンケート調査を実施した際、電事連は同調査記入にあたっての「模範回答」まで議員に送付している。すなわち、①原発の重要電源としての位置づけ明記、②再稼働の迅速化、③原発新増設の明確化。【注】

 (7)メディアの原発報道も3年の間に大きく変わった。
 事故直後は、原発に批判的な番組が一気に増えた。
 今では、「原発事故関連番組は視聴率が取れない」【テレビ局関係者】として避ける傾向が目立つ。
 それどころか、安倍政権発足後は、原発輸出や再稼働に突き進む安倍政権を批判する番組は激減した。その一方、現役閣僚が、高支持率を背景に脱原発派のコメンテーターの番組出演にクレームの電話をかけたりする。

 【注】
記事「原発推進、水面下で工作 業界、自民議員らに「回答例」」(朝日デジタル 2014年1月31日05時00分)
記事「原発新増設、自民に促す 電力業界、議員に「模範回答」配布 政権方針超え、利益前面」(朝日デジタル 2014年1月31日05時00分)

□横田一「利権構造の再現を狙う 巻き返しをはかる原発推進派の策動」(「週刊金曜日」2014年3月7日号)
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【原発】福島に不足する熟練作業員 ~ミスが続く原因~

2014年03月11日 | 震災・原発事故
 (1)2014年2月19日深夜、福島第一原発H6エリアのタンクから汚染水が漏れているのが見つかった。
 翌20日、東京電力は、100トンもの汚染水が漏洩した、と発表。かかる大量の汚染水が漏洩した経緯は、東電説明によれば、次のとおり。
 汚染水をタンクに送り込む配管の、弁の開閉状態が違っていたため、本来、汚染水を送り込むはずだったEエリアのタンクではなく、H6エリアのタンクに流れ、その結果溢れた。
 つまり、「単純操作ミス」だった可能性がある。

 (2)疑問は、まだある。
 汚染水を断続的に移送していた19日14時から23時まで、Eエリアタンク内の水位に変化はなかった。つまり、タンクに水が送られていない可能性が考えられる。にも拘わらず、担当者が作業を止めなかった。水位の変化がなければ、どこかで漏洩の可能性もある。だが、放置されていた。
 東電は、水位に気づかなかった理由は「調査中」としている。

 (3)福島第一原発では、昨年来、かかる初歩的ミスを原因とするトラブルが続出している。
  (a)2013年10月1日には、作業員が窒素注入装置の停止ボタンを誤って押し、1系統が停止した。翌日、汚染水の貯蔵タンクの傾きを知らなかった担当者が、通常通りに注水し、汚染水が溢れた。
  (b)1週間後の9日には、除染装置の配管を間違って外して、大量の高濃度汚染水を漏洩させた上に、作業員6人に汚染水を浴びさせてしまった。さらに、現場責任者がPHSの通話可能範囲を知らず、連絡が遅れ、11トンもの大量漏洩に繋げてしまった。

 (4)なぜ、こうしたミスが続くのか。
 大きな要因として考えられるのは、現場を熟知した熟練作業員の不足だ。
 作業員の被爆限度は、法律上、50mSv/年or100mSv/5年だ。ここで言う5年の起点は2011年4月1日だ。ただし、福島第一原発に係る作業は、事故が発生した3月の分も加算される。
 事故から4年目を迎える今、事故直後から収束作業に関わってきたベテラン作業員が、100mSvの上限に近づいて現場から抜けるケースが増えてきている。このため、現場を統括できる人材が不足してきているのだ【注】。
 ここ半年間で続出した一連の事故の背景に、現場の管理能力の低下がある。
 ベテラン作業員らが現場に戻ることができるのは、被曝線量がリセットされる2年後(2016年)の4月1日だ。

 (5)熟練作業員が減る一方で、初めて原発に入る作業員が増加している。最近は、東電の事務系社員が現場に入ることもある。
 ある作業員は、困惑して漏らす。「工具の使い方や専門用語から教えないと行けない」 
 事故前は、先輩作業員について仕事を覚えるのが当然だったが、そうした時間はない。
 それでも東電は、中期的には「作業員の不足はない」と説明する。放射線作業従事者の登録人数は8,000人。福島第一原発の作業員数は1日あたり3,500人程度なので余裕がある、という説明だ。
 だが、福島第一原発で収束作業にあたった作業員の中には、被曝線量の関係で現場を離れても非常時のために登録を残している人がいる。だから、登録人数の8,000人がそのまま実働可能な作業員数になるわけではない。
 
 (6)さらに、東電は8,000人の作業員が「ベテラン」なのか「新人」なのかといった詳細を明らかにしていない。記者会見では、「パーツ、パーツで見ているわけではない」と述べている。
 危機的状況が現実になる中、この回答は不誠実だ。責任放棄に近い。
 また、たとえ2年後にベテラン作業員が戻ってきたとしても、今後は被曝線量の大きい原子炉建屋内の作業が増える。作業内容が高度になり、かつ、被爆低減のためには多くの人員が必要になる。
 仮に、その時点で再稼働が始まっていたら、危険な福島第一原発に行く作業員は、今より少なくなる。

 (7)事故収束までに、最低でも数十年かかる。
 現場の安全を確保しつつ廃炉を進めるには、東電の解体を含めた体制の見直しが急務だ。

 【注】記事「(東日本大震災3年)作業員1.5万人、5ミリシーベルト超 被曝、汚染水対策で」(朝日デジタル 2014年3月9日05時00分)

□木野龍逸(ジャーナリスト)「1Fで不足気味の熟練作業員」(「週刊金曜日」2014年3月7日号)
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 【参考】
【原発】東電が隠す放射能拡散のリスク ~4号機核燃料の搬出~
【原発】汚染水を浄化できるか ~福島第一原発はどうなっているのか~
【原発】今、そこにある汚染水危機(3) ~次の震度6~
【原発】「汚染水」の本当の深刻さ ~東電のコストカットが一因~
【原発】「被ばく労働を考えるネットワーク」結成
【原発】停止しても25兆円儲ける原子力ムラ ~除染・廃炉ビジネス~





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【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~

2014年03月08日 | 震災・原発事故
(1)原子力政策の現状如何
 原発をめぐる利権の構造や社会を支配する大きな力は完全復活している。原子力ムラだけでなく、経済界挙げての原発推進に、国会議員も「反対」と言いにくい状況だ。

(2)原発は必要か
 先進国で原発が安いと言っているのは日本ぐらい。経済的に原発はすでに終わった産業というのが世界の流れだ。再生可能エネルギーで覇権を取った国が成長する。原発にしがみつく方が、じり貧のいばらの道だ。

(3)東京都知事選で支援した細川護煕元首相が敗れた
 自然エネルギー普及で成長と雇用、福祉を生み出す新しい日本の生き方として原発即時ゼロを訴えたが、ワンイシュー(単一争点)のイメージを付けられてしまった。

(4)安倍晋三政権は再稼働に前のめりだが
 百歩譲って再稼働を許すなら、電力会社が事故時の被害を全額賠償できるだけの保険加入を義務づけるべきだ。本当に安全なら、世界の再保険制度でまかなえる。

(5)「核のごみ」の最終処分地の選定を国が進めている
 日本学術会議が地層処分を見直すよう提言したのに、経済産業省の審議会はそれを無視して議論している。地中深くに埋めて何万年も安全などという新たな神話で国民をだまし、利権を温存するのはおかしい。

(6)国民の不安と政策の隔たりをどう埋めるか
 議員に圧力がかかり、国会で議論できない。自由に発言できるように、脱原発を訴える議員を支援する人々がいる現状を示すことが大事だ。

□古賀茂明「利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~」(日本海新聞 2014年3月8日)
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