語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【朝日俳壇抄】天の川鳴門の渦に流れ入る ~7月31日~

2017年08月03日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<大串章選>
 ①遠き日の象潟偲ぶ合歓(ねむ)の花 (相馬市)鹿又一武
 ⑤空蝉や人は脱皮を繰り返し (本巣市)清水宏晏
 ⑧製本の弛む歳時記大西日 (東京都)望月清彦
 ⑩海賊の砦の跡の鹿尾菜(ひじき)刈る (今治市)藤原守幸
 【評】第一句。合歓の花を見て「象潟や雨に西施がねぶの花 芭蕉」を思い出し、象潟の今昔を思っている。(後略)

<稲畑汀子選>
 ①籐椅子や寝心地見かけほどでなく (交野市)遠藤昭
 ③生きてゐる証暑さに立ち向かふ (長崎市)徳永桂子
 ⑥雷神に鯱(しゃちほこ)喰はれ犬山城 (尼崎市)橋本絹子
 【評】一句目。見た目は寝心地の良さそうな籐椅子であるが、堅さまでは想像できなかった作者の本音の一句。(後略)

<金子兜太選>
 ①草刈りを止めて鬼蜻蜒(やんま)の羽化を待つ (福島市)菅野泰治
 ②さあこれで仕舞ひと花火花火かな (川越市)渡邉隆
 ⑥雨の日の棺にひとつパナマ帽 (明石市)江尻順子
 ⑧母の句に手を加へけり夏座敷 (新庄市)三浦大三
 ⑩人と語らひ人と笑ふ春の星 (東京都)池田合志
 【評】菅野さん。草刈りの動、羽化の静。対比が絶妙。渡邉さん。花火花火の重ねが上手(うま)い。(中略)十句目、池田氏は夜空が大好き。星が人を和ませる。

<長谷川櫂選>
 ①天の川鳴門の渦に流れ入る (横浜市)守屋雅
 ③夏富士や頂残し空となる (茅ケ崎市)加藤西葱
 ⑦夏帽子ひさしに迷ひ雲一つ (三次市)錦武志
 ⑧冷酒(ひやざけ)と冷酒(れいしゅ)の違ひ談論す (横浜市)犬山達四郎
 ⑨夕涼みこのごろはやる将棋かな (東京都)野上卓
 【評】一席。奇想天外な国芳の浮世絵のような。鳴門の渦がいよいよ巨大。(中略)三席。中腹以下は夏空に溶け、山頂のみ浮かぶ富士山。四句目、「天皇譲位のお祝い」とある。

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年7月31日)
朝日俳壇
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】


【朝日俳壇抄】ヒアリ来る地球はますます炎えてくる ~7月24日~
【朝日俳壇抄】為政者の驕り露見や青嵐 ~7月10日~
【朝日俳壇抄】叩かれて叩かれてなほ油虫 ~7月3日~
【朝日俳壇抄】政権も徒党に堕すや走り梅雨 ~6月26日~
【朝日俳壇抄】妻はヨガ吾は吟行風薫る ~6月19日~
【朝日俳壇抄】あの人も人間失格桜桃忌 ~6月5日~
【朝日俳壇抄】地響きに滝の重さのありにけり ~5月29日~
【朝日俳壇抄】聖五月人には青の時代あり ~5月22日~
【朝日俳壇抄】戦後よりまた戦前へ四月馬鹿 ~5月15日~
【朝日俳壇抄】空爆の次は花見のニュースかな ~5月7日~
【朝日俳壇抄】鞦韆は蹴るべし愛は返すべし ~5月1日~


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【朝日俳壇抄】ヒアリ来る地球はますます炎えてくる ~7月24日~

2017年07月24日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<長谷川櫂選>
 ①はるかなるものの一つに蝉の穴 (北杜市)北村和利
 ③滴りの下に光の溢(あふ)れけり (山口市)田福信介
 ④敗戦の一句八十一の夏 (川崎市)池田功
 ⑦人魂(ひとだま)のやうに鵜篝(うかがり)現れし (岩倉市)村瀬みさを
 【評】一席。あまりの暑さにぼうっとしてしまう夏の真昼。そんな感じのする一句。(中略)三席。滴る水の観察。落下して砕けるところに飛びちる光の粒子たちよ。

<大串章選>
 ①壁を這ふ蜘蛛に音なき迅(はや)さあり (八代市)山下さと子
 ④かの夏や野外映画のなつかしく (越谷市)新井高四郎
 ⑤下町に残る昭和の夕焼かな (新居浜市)三浦八重子
 ⑩香港のにほひ濃くなる熱帯夜 (熊本市)寺崎久美子
 【評】第一句。「音なき迅さ」が蝿捕蜘蛛の動きを見事に言い表している。(後略)

<稲畑汀子選>
 ①忘るるは呆(ぼ)けるに非(あら)ず只(ただ)涼し (高崎市)山本春樹
 ⑥ばらばらにされし獲物や蟻の列 (米子市)中村襄介
 ⑧七夕や夢は必らず叶ふとも (神戸市)森岡喜恵子
 【評】一句目。ふっと人の名前を忘れた作者。でも呆けたのではなく、涼しさに只心を許したのだと承知する。(後略)

<金子兜太選>
 ②ヒアリ来る地球はますます炎(も)えてくる (横須賀市)友松茂
 ③老人に心眼のあり牛蛙 (熊谷市)内野修
 ⑩文明を嫌ひて団扇手放さず (今治市)横田青天子
 【評】 芝岡さん、広島にて偶然に被爆死した丸山定夫を思う。嗚呼無念。友松さん、ヒアリ来る、炎えてくる、の恐怖を含むリズム良し。内野さん、牛蛙の存在感に、悟りを得た老人をみる。十句目、横田氏、生き様の皮肉。

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年7月24日)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【朝日俳壇抄】為政者の驕り露見や青嵐 ~7月10日~
【朝日俳壇抄】叩かれて叩かれてなほ油虫 ~7月3日~
【朝日俳壇抄】政権も徒党に堕すや走り梅雨 ~6月26日~
【朝日俳壇抄】妻はヨガ吾は吟行風薫る ~6月19日~
【朝日俳壇抄】あの人も人間失格桜桃忌 ~6月5日~
【朝日俳壇抄】地響きに滝の重さのありにけり ~5月29日~
【朝日俳壇抄】聖五月人には青の時代あり ~5月22日~
【朝日俳壇抄】戦後よりまた戦前へ四月馬鹿 ~5月15日~
【朝日俳壇抄】空爆の次は花見のニュースかな ~5月7日~
【朝日俳壇抄】鞦韆は蹴るべし愛は返すべし ~5月1日~


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【朝日俳壇抄】為政者の驕り露見や青嵐 ~7月10日~

2017年07月10日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<稲畑汀子選>
 ①夏至の日もなんだかんだと暮れにけり (佐賀県基山町)古庄たみ子
 ③水動く時涼しさの生まれけり (高松市)梶万喜子
 ⑥海賊の国に忘れし夏帽子 (奈良市)田村英一
 【評】一句目。一年で一番日が長い夏至。暮れるのが遅いと思いつつ、いつの間にか暮れた。つい気を許した一日になった。(中略)三句目。水を動かし、涼しさを作るのは風と知った。

<金子兜太選>
 ②山百合を山ごと負うて妻の墓 (群馬県東吾妻町)酒井大岳
 ⑥雲の峰昭和に飢ゑといふ記憶 (日立市)國分貴博
 ⑧返すすべ失せし一書を曝(さら)しけり (名張市)長山千栄
 ⑨花も実も子も無き六十路しやぼん玉 (島根県邑南町)高橋多津子
 ⑩為政者の驕(おご)り露見や青嵐 (野洲市)深田清志
 【評】(前略)酒井氏。山百合で亡き妻の墓を埋め尽したい。(中略)十句目深田氏。都議選を予見か。

<長谷川櫂選>
 ①反古(ほご)にする約束ひとつ沖縄忌(東京都)野上卓
 ②豊かなる胸よ心よ雲の峰(いわき市)馬目空
 ③よろよろと命の水へ夏の蝶(尾張旭市)久永満
 ⑤薫風や第九すなはちEU歌(ドイツ)ハルツォーク洋子
 【評】一席。ほんとうは「ひとつ」どころではないのだが。反古の山の島というべきか。二席。夏の讃歌である。あふれるような入道雲。三席。炎天下、水に集まるアゲハの群れを見たことがある。蝶たちもまた渇いているのだ。

<大串章選>
 ④戦にも地震にも耐へし大夏木(合志市)坂田美代子
 ⑦産土の今は蛍の里となり (川越市)大野宥之介
 ⑨空梅雨の三連水車廻りけり (伊万里市)松尾昭良
 ⑩枇杷(びわ)の実の人無き里に落つるのみ (明石市)小田龍聖
 【評】(略)

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年7月10日)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【朝日俳壇抄】叩かれて叩かれてなほ油虫 ~7月3日~
【朝日俳壇抄】政権も徒党に堕すや走り梅雨 ~6月26日~
【朝日俳壇抄】妻はヨガ吾は吟行風薫る ~6月19日~
【朝日俳壇抄】あの人も人間失格桜桃忌 ~6月5日~
【朝日俳壇抄】地響きに滝の重さのありにけり ~5月29日~
【朝日俳壇抄】聖五月人には青の時代あり ~5月22日~
【朝日俳壇抄】戦後よりまた戦前へ四月馬鹿 ~5月15日~
【朝日俳壇抄】空爆の次は花見のニュースかな ~5月7日~
【朝日俳壇抄】鞦韆は蹴るべし愛は返すべし ~5月1日~



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【朝日俳壇抄】叩かれて叩かれてなほ油虫 ~7月3日~

2017年07月10日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<大串章選>
 ①父の日に百薬の長届きけり (柏市)藤嶋務
 ②誰ひとり気付かず父の日の過ぎぬ (東京都)三輪憲
 ④しやぼん玉とばす夕日のゴビ砂漠 (川口市)青柳悠
 ⑦石塊(いしくれ)の動きて蟇(ひき)となりにけり (大月市)中村照子
 ⑩死に際の母の希(ねが)ひし心太(ところてん) (町田市)佐藤隆市
 【評】第一句。「百薬の長」と言ったのは、ほかでもない贈られたご当人であろう。酒が大好きなのだ。第二句。こういう家族もある。母の日はみんな気付いていたのに。(後略)

<稲畑汀子選>
 ②叩かれて叩かれてなほ油虫 (静岡市)松村史基
 ③立石寺登り切ったる涼しさよ (西宮市)竹田賢治
 ⑥足音に水の沸き立つ鰻桶 (枚方市)嶋林岳紹
 ⑧万緑や人ら小さく吸ひ込まる (堺市)山戸暁子
 【評】(前略)二句目。強い害虫の油虫を描いて見事。三句目。芭蕉が訪ねた立石寺。磴(いしだん)を登り切った作者の感慨を、季題が語る。

<金子兜太選>
 ②老いるとは軽くなること海霧深し (さぬき市)野崎憲子
 ④牡丹咲く青春といふ浪費あり (熊谷市)内野修
 ⑤見えぬぞや秘仏秘宝に燕の子 (秦野市)熊坂淑
 ⑦退屈は人間のもの蟻地獄 (秋田市)中村榮一
 【評】(前略)野崎さん。率直な実感のユーモラスなことよ。(後略)

<長谷川櫂選>
 ①南(みんなみ)の孤島が墓標六月来 (桑名市)藤井シゲ子
 ②風鈴の修羅からひとつ選びけり (日光市)渡辺全朗
 ⑦短夜の心いたぶるニーチェかな (鴻巣市)佐久間正城
 ⑧吹かれてはまた戻り来る糸蜻蛉(とんぼ) (松阪市)谷元清志
 【評】一席。「父の場合」と前書(まえがき)がある。南海を今も漂う墓標である。二席。涼しげに鳴る風鈴にも修羅があるのだ。修羅とは業のもたらす果てしない争い。(後略)

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年7月3日)
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【朝日俳壇抄】政権も徒党に堕すや走り梅雨 ~6月26日~
【朝日俳壇抄】妻はヨガ吾は吟行風薫る ~6月19日~
【朝日俳壇抄】あの人も人間失格桜桃忌 ~6月5日~
【朝日俳壇抄】地響きに滝の重さのありにけり ~5月29日~
【朝日俳壇抄】聖五月人には青の時代あり ~5月22日~
【朝日俳壇抄】戦後よりまた戦前へ四月馬鹿 ~5月15日~
【朝日俳壇抄】空爆の次は花見のニュースかな ~5月7日~
【朝日俳壇抄】鞦韆は蹴るべし愛は返すべし ~5月1日~
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【朝日俳壇抄】政権も徒党に堕すや走り梅雨 ~6月26日~

2017年06月26日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<長谷川櫂選>
 ①今年竹虚空に風の生まれけり (加古川市)森木史子
 ②竹の皮六十九枚脱ぎ真竹 (浜田市)田中静龍
 ③蝸牛(かたつむり)乗り出して殻脱げさうな (東かがわ市)桑島正樹
 ④鮎釣りの少し流されまた釣りぬ (摂津市)内山豊子
 【評】一席。「虚空に風の生まれけり」は常套(じょうとう)。しかし今年竹とは無上の上五。二席。六十九は自身の年かもしれない。この年になってやっと人となった。三席。重そうな殻を曳(ひ)いて急ぐ蝸牛を活写。その一心の姿に脱帽。

<大串章選>
 ①古戦場跡に飛び交ふ蛍かな (加古川市)森木史子
 ②母を追ふ軽鳧(かる)の子何も疑はず (東京都)山内健治
 ③白日傘映画のごとく走り出す (塩尻市)古厩林生
 ⑥麦秋を見渡してゐる義民の碑 (横浜市)志摩光風
 ⑦これほどに揃はぬ音色牛蛙 (東村山市)高橋喜和
 【評】第一句。かつて矢尻や弾丸が飛び交った古戦場。今は静かに蛍が飛んでいる。第二句。ひたすら母鳥を追う軽鳬の子。「何も疑はず」が端的でいい。第三句。まさに映画の一場面。果(はた)して白日傘の先には何が待っているか。

<稲畑汀子選>
 ②蟻地獄(ありじごく)修羅場に静寂戻りけり (東かがわ市)桑島正樹
 ③夕焼けの今日の一日を惜しみけり (尼崎市)田中節夫
 ⑤誰か踏む十薬匂ふ夜の底 (熊本市)内藤悦子
 ⑥屋久島の緑は雨が似合ひけり (鹿児島市)青野迦葉
 ⑧噴水や水の命の競ひ合ふ (神戸市)岩水ひとみ
 【評】(前略)二句目。蟻地獄に落ちた獲物の修羅場を見終わった作者の動悸(どうき)。三句目。夕焼けに、快晴だった一日を惜しむ。

<金子兜太選>
 ②政権も徒党に堕すや走り梅雨 (福岡県鞍手町)松野賢珠
 ⑤沖縄の蜥蜴(とかげ)の尻尾なる地獄(福島県伊達市)佐藤茂
 ⑥亡き妻は美しく生き夏帽子 (高松市)島田章平
 【評】(前略)松野氏。議会政治ではなく、徒党政治に堕した国会の浅ましさ。(後略)

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年6月26日)
朝日俳壇
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【朝日俳壇抄】妻はヨガ吾は吟行風薫る ~6月19日~
【朝日俳壇抄】あの人も人間失格桜桃忌 ~6月5日~
【朝日俳壇抄】地響きに滝の重さのありにけり ~5月29日~
【朝日俳壇抄】聖五月人には青の時代あり ~5月22日~
【朝日俳壇抄】戦後よりまた戦前へ四月馬鹿 ~5月15日~
【朝日俳壇抄】空爆の次は花見のニュースかな ~5月7日~
【朝日俳壇抄】鞦韆は蹴るべし愛は返すべし ~5月1日~



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【朝日俳壇抄】妻はヨガ吾は吟行風薫る ~6月19日~

2017年06月26日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<金子兜太選>
 ①夏に入る生きて過ごせと青虫に (行田市)荻原義久
 ②戦争は嫌だ嫌だと行々子(ぎょうぎょうし) (東大阪市)渡辺美智子
 ⑥掌(て)の中を蛍の宿にして渡す (綾部市)阪根瞳水
 ⑩更衣四谷の駅は白い波 (東京都)尾張英治
 【評】荻原氏。モンシロチョウなどの幼虫が「青虫」。猛暑に耐えて生きよと呼びかける作者。渡辺さん。行々子(葭切〈よしきり〉)の騒がしい鳴き声がそう聞こえるのだ。(中略)十句目尾張氏。四ツ谷駅が上手(うま)い。

<長谷川櫂選>
 ①追憶の六月三日山動く (島原市)高比良映子
 ②茶農家の深蒸す心新茶汲む (青森市)天童光宏
 ③生活に色つけやうと金魚買ふ (川崎市)池田功
 ⑦愛すべき言葉飛び交ふ溝浚(みぞさら)へ (山形県河北町)小山田恒吉
 【評】一席。一九九一年六月三日、雲仙・普賢岳の大火砕流。山動くとは。二席。深蒸し茶という名称がある。そこから生まれた「深蒸す心」。いいセンスである。三席。鮮やかな金魚の赤。金魚を描いたマチスの絵を思い出した。

<大串章選>
 ①万緑や乗員替はる国境線 (ドイツ)ハルツォーク洋子
 ③同級会日傘に入れて貰ひけり (京都市)水船つねあき
 ④名園の水に育ちてあめんぼう (熊本市)加藤うゐ
 ⑤城山に城無く朴の咲きにけり (平塚市)日下光代
 ⑩軍刀は祖父の形見よ著莪(しゃが)の花 (福岡市)松尾康乃
 【評】第一句。国境を越えて乗務員が替わると、言語も替わるのだろうか。万緑はどこまでも続く。(中略)第三句。日傘に入れてくれたのは、嘗(かつ)てのマドンナであろう。

<稲畑汀子選>
 ①きりのなきやうである庭草を引く (尼崎市)ほりもとちか
 ②闇を来て闇に戻らぬ火取虫(ひとりむし) (岡山市)伴明子
 ④妻はヨガ吾は吟行風薫る (長岡市)桑原たかよし
 ⑥句読点無き子規の文黴(かび)寄せず (藤沢市)小田島美紀子
 ⑦これ以上深くはなれず茄子の紺 (高槻市)会田仁子
 【評】一句目。庭の雑草を引くのは大変である。次々生えてくるとはいえ、いつかは抜き終える喜び。二句目。火取虫を外の闇に追い出そうとしても出来ない作者のいらだち。(後略)

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年6月19日)
朝日俳壇
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【朝日俳壇抄】あの人も人間失格桜桃忌 ~6月5日~
【朝日俳壇抄】地響きに滝の重さのありにけり ~5月29日~
【朝日俳壇抄】聖五月人には青の時代あり ~5月22日~
【朝日俳壇抄】戦後よりまた戦前へ四月馬鹿 ~5月15日~
【朝日俳壇抄】空爆の次は花見のニュースかな ~5月7日~
【朝日俳壇抄】鞦韆は蹴るべし愛は返すべし ~5月1日~


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【朝日俳壇抄】あの人も人間失格桜桃忌 ~6月5日~

2017年06月05日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<大串章選>
 ①麦秋の刈り取られゆく光かな (東かがわ市)桑島正樹
 ②ひかへ目を己が色とし花樗(はなおうち) (合志市)坂田美代子
 ④青嵐の谷に駅舎の屋根一つ (名古屋市)池内真澄
 ⑥母の日の母を思ひて旅にあり (長崎市)徳永桂子
 ⑦信玄の隠れ湯に余花仰ぎけり (八王子市)大串若竹
 ⑩サングラス外して波の音を聞く (東京都)竹内宗一郎
 【評】第一句。夏の日差しの中、麦刈りが進む。「光」が「刈り取られ」る、と言ったところが見どころ。第二句。「花樗」を詠みながら、どなたかのことを思っている。(後略)

<稲畑汀子選>
 ③緑蔭の座つてみたくなるベンチ(筑紫野市)多田蒼生
 ⑥晩年を心豊かに月朧 (荒尾市)鶴田幾美
 【評】(前略)三句目。作者は緑蔭の心地よさそうなベンチに座ったのであろう。

<金子兜太選>
 ①水田の深き足跡てふアート (養父市)足立威宏
 ③九条のありて千枚の青田かな (石川県能登町)瀧上裕幸
 ⑥原発と同居してゐる暑さかな (川崎市)池田功
 ⑩ため息が曲がってばかりや五月闇 (清瀬市)峠谷清広
 【評】足立氏。山国の水田に印(しる)された足跡は深く、芸術作品の如し。(中略)瀧上氏。九条ありてこそ平和、そして青田。十句目峠谷氏。ため息に幸いあれ。

<長谷川櫂選>
 ②あの人も人間失格桜桃忌 (飯塚市)釋蜩硯
 ⑤誰よりも吾が病床の明易し (岡崎市)鈴木信男
 ⑥朴の葉の子らに教ふる風車 (厚木市)石井修
 ⑦痛からう子規に五月の風が吹く (東京都)大網健治
 【評】(前略)二席。恋の句、それも女性の詠んだ句なら余計おもしろいのだが、残念。(後略)

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年6月5日)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【朝日俳壇抄】地響きに滝の重さのありにけり ~5月29日~
【朝日俳壇抄】聖五月人には青の時代あり ~5月22日~
【朝日俳壇抄】戦後よりまた戦前へ四月馬鹿 ~5月15日~
【朝日俳壇抄】空爆の次は花見のニュースかな ~5月7日~
【朝日俳壇抄】鞦韆は蹴るべし愛は返すべし ~5月1日~


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【朝日俳壇抄】地響きに滝の重さのありにけり ~5月29日~

2017年05月29日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<長谷川櫂選>
 ①帰省子の未だ東京の匂ひせず (可児市)豊田正己
 ②花茣蓙(はなござ)や丸太ん棒のやうに母 (我孫子市)藤崎幸恵
 ④ウクライナ美しかりし麦の秋 (川崎市)竪山道助
 ⑥草笛の拙(つたな)きことも愛さるる (奈良県田原本町)小林博明
 ⑩薔薇剪(き)つて今日でなければならぬこと (高松市)桑内繭
 【評】一席。春に東京へ出たばかりの娘あるいは息子。まだ子どものまま。二席。昼寝の図。萬鉄五郎の裸婦のように、たくましいお母さんである。(後略)

<大串章選>
 ①少子化に抗ふごとく鯉のぼり (香芝市)矢野達生
 ③☆人類史角番(かどばん)にあり夏に入る (東京都)望月清彦
 ⑦鯉のぼり風を磨いてをりにけり (塩尻市)古厩林生
 ⑩傘雨忌や生家に残る句碑一つ (愛西市)小川弘
 【評 第一句。青空に翻る鯉(こい)のぼり。「抗ふごとく」に力感あり。少子化に負けてはならない。(中略)第三句。一触即発を懸念させる昨今の世界情勢。まさに「角番」である。

<稲畑汀子選>
 ①地響きに滝の重さのありにけり (熊本県菊陽町)井芹眞一郎
 ②着くまでを残る期待の花吉野(大分市)高柳和弘
 ⑦何もかも心機一転なる五月 (北海道鹿追町)高橋とも子
 ⑩借景の山万緑を尽しをり (四国中央市)森實英子
 【評】一句目。大きな滝であろう。滝壺(たきつぼ)に落ちる水音が地響きを立てる。豪快な姿まで見えるような一句。二句目。桜にまだ期待を持って訪(おとな)う吉野山。作者の心情の推移が描けた。(後略)

<金子兜太選>
 ①平和こそ山川草木皆笑ふ (川崎市)神村謙二
 ②陽炎や全ての戦争許すまじ (飯塚市)釋蜩硯
 ⑥☆人類史角番にあり夏に入る (東京都)望月清彦
 ⑨からだごと笑ふ乙女の立夏かな (海老名市)川上益男
 【評】神村氏。無邪気に詠(うた)いきった平和の句。釋氏。陽炎の野。うらうらと戦う気配などまったくない。(後略)

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年5月29日)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【朝日俳壇抄】聖五月人には青の時代あり ~5月22日~
【朝日俳壇抄】戦後よりまた戦前へ四月馬鹿 ~5月15日~
【朝日俳壇抄】空爆の次は花見のニュースかな ~5月7日~
【朝日俳壇抄】鞦韆は蹴るべし愛は返すべし ~5月1日~
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【朝日俳壇抄】聖五月人には青の時代あり ~5月22日~

2017年05月22日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。
 ☆印は共選作

<金子兜太選>
 ①餓死病死爆死地球の子供の日 (大阪市)三木節子
 ②四季に死期隠し眺めし春がゆく (筑紫野市)二宮正博
 ③天空の棚田千枚鯉幟 (加古川市)森木史子
 ⑦月光のさなかにひらく山法師 (川崎市)沼田廣美
 ⑧さくら咲く伯父はレイテの水中花 (館山市)蝦名正男
 ⑨☆春愁の影引く試歩となりにけり (八代市)山下接穂
 【評】三木氏。地球は「こどもの日」まで暗くなった。餓死や病死に加えて戦争で失う子供まで増えている。二宮氏。一年中死期を隠して眺めてきたのに、もう春はゆく。森木氏。空に向って広がる棚田千枚、農家も鯉幟も多数。五月だ。

<長谷川櫂選>
 ①縦書きの国に生まれて心太(ところてん) (多摩市)谷澤紀男
 ②銃持たず終る一生更衣 (佐賀県有田町)森川清志
 ④かくれんぼしてゐる貝や汐干狩 (越谷市)伊藤とし昭
 ⑥散るときも八重に重なり八重桜 (三鷹市)二瀬佐恵子
 【評】一席。立て板に水、のような縦書きの日本語。心太と止めたところがうまい。二席。つくづくと安堵(あんど)しているのだ。まだ終わってはいないけれど。(後略)

<大串章選>
 ①聖五月人には青の時代あり (川越市)渡邉隆
 ③いつの世も戯画になりたる蛙かな (泉大津市)多田羅紀子
 ⑤夜ざくらを見上げ戦士と呼ばれし日 (羽村市)寺尾善三
 ⑧☆春愁の影引く試歩となりにけり (八代市)山下接穂
 【評】第一句。ピカソ(1881?1973)に「青の時代」「バラ色の時代」があるように、人にはみな「青の時代」がある。(中略)第三句。中でも「鳥獣戯画」が有名。

<稲畑汀子選>
 ①谷底へまた谷空へ飛花落花 (浜田市)田中静龍
 ②百千鳥会話続かぬ二人かな (神戸市)涌羅由美
 ④たんぽゝの絮(わた)飛ばす風運ぶ風(芦屋市)酒井湧水
 ⑦過疎すすむ峡の村にも鯉のぼり (奈良市)田村英一
 【評】一句目。山桜の情景を見た。飛花、落花と見分け、渓谷の桜に一瞬心うばわれた作者。二句目。囀(さえず)りしきりの中で人は黙すのであろう。会話が続かぬと具体的な表現が妙。(後略)

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年5月22日)
朝日俳壇
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【朝日俳壇抄】戦後よりまた戦前へ四月馬鹿 ~5月15日~
【朝日俳壇抄】空爆の次は花見のニュースかな ~5月7日~
【朝日俳壇抄】鞦韆は蹴るべし愛は返すべし ~5月1日~
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【朝日俳壇抄】戦後よりまた戦前へ四月馬鹿 ~5月15日~

2017年05月15日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<稲畑汀子選>
 ①押し寄せる芽吹き明りの大玻璃(はり)戸 (長野市)鈴木しどみ
 ③挨拶に行く先々に桜餅 (松本市)唐澤春城
 ⑤囀(さえずり)や一樹一樹に空のあり(柏原市)早川水鳥
 ⑧信濃路の右も左も花盛り (大阪市)友井正明
 ⑨花吹雪散り込む峡の宿に泊(は)つ (尼崎市)橋本絹子
 ⑩終着を吉野と決めて花の旅 (福山市)広川良子
 【評】一句目。玻璃越しに見える庭の情景。押し寄せるような木々や草々の芽吹きが始まった。待たれた春への喜びが伝わる。(中略)三句目。桜の花の頃に訪ねる家のもてなしであろう。

<金子兜太選>
 ①戦後よりまた戦前へ四月馬鹿 (いわき市)馬目空
 ③ゆくりなく初蝶に会ふ皇居かな (米子市)中村襄介
 ⑤風を呼ぶ春落日の鴉かな (さぬき市)野崎憲子
 ⑥亀鳴くや砥石の面(つら)は己(おの)が面 (河内長野市)西森正治
 ⑩立つときはいつも桜がありにけり (箕面市)櫻井宗和
 【評】馬目氏。言うこと為(な)すこと戦前そっくりだ。嘘(うそ)がまかり通る。ああ嫌だ。(中略)中村氏。皇居を訪れたら初蝶に出会った。その新鮮さよ。

<長谷川櫂選>
 ①全円となるぼうたんの真昼かな (合志市)坂田美代子
 ④端午の日かつて曽祖は鉄兜 (所沢市)小坂進
 ⑦シヤボン玉我等も若き父母なりき (東京都)廣川風韻
 ⑨花見酒孔子孟子も屁の河童 (横浜市)渡辺萩風
 ⑩今日からは東京人や花吹雪(大和市)小田島恵子
 【評】一席。牡丹の爛漫(らんまん)たる感じ。これが「全円」である。単に牡丹の形のことではない。(下略)

<大串章選>
 ②故郷にまた無人駅さくら咲く (戸田市)蜂巣厚子
 ③島桜白し灯台なほ白し (東京都大島町)大村森美
 ⑩山桜淋しくなればふぶきけり (川口市)青柳悠
 【評】(前略)第二句。電車の乗客が減り、無人駅が増えていく。故郷の過疎化は大きな課題。第三句。白い灯台の上には青空が広がっている。心洗われる光景。

□「朝日俳壇」(朝日新聞 2017年5月15日)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【朝日俳壇抄】空爆の次は花見のニュースかな ~5月7日~
【朝日俳壇抄】鞦韆は蹴るべし愛は返すべし ~5月1日~
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【万葉集】白珠は人に知らえず知らずともよし ~衆に埋もれる~

2017年05月10日 | 詩歌
 白珠は人に知らえず
 知らずともよし
 知らずとも
 吾し知られば知らずともよし
    【万葉集 巻六 1018 元興寺僧】

 *

 <『万葉集』巻六。奈良の元興寺の一僧、衆にぬきんでて学問があったが頭角をあらわすことができず、かえって他の連中に馬鹿にされてばかりいた。そこでみずから嘆いてこの歌を作った、と註にある。真珠(白珠)は人に真価を知られない。知られなくてもかまやしないさ。世間のやつらが知らなくても、自分で自分の真価を知っているなら、連中が知らなくたってかまやしないさ。>【注】
 
 【注】大岡信ことば館

     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【朝日俳壇抄】空爆の次は花見のニュースかな ~5月7日~

2017年05月07日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<大串章選>
 ①人生の集つてゐる花筵(はなむしろ) (姫路市)橋本正幸
 ②百歳が百歳を撮る花の寺 (鹿児島市)青野迦葉
 ③☆空爆の次は花見のニュースかな (横浜市)杉江美枝
 ④散り散りの昭和の闇や花筏(はないかだ) (福島県伊達市)佐藤茂
 ⑤九条のありて賑はふ花見かな (岡崎市)米津勇美
 ⑥昭和の日うたごえ喫茶に集まれり (一宮市)岩田一男
 ⑨耕人のしばらく雲をみつめをり (東京都)望月喜久代
 【評】第一句。花筵には様様な人生が集まっている。「人」ではなく「人生」といったところが見どころ。第二句。微笑(ほほえ)ましい光景。励まされる感じもある。第三句。「空爆」と「花見」、百八十度異なる光景が突如現れる。それが現実。

<稲畑汀子選>
 ①花散らす風の無情を追ふ有情 (鹿児島市)青野迦葉
 ④由布院の朝の始まる遠霞(徳島県松茂町)奥村里
 【評】一句目。花が散ってしまうのを無情と見て、だがその美しさに有情を知る心の推移が伝わる秀句。二句目。咲き満ちた桜が花屑になるまでの花吹雪。三句目。小学校の夕桜がどの桜より美しいと知っている作者の今年の花見。

<金子兜太選>
 ①朝の野に転(まろ)ぶも自恣や春の雲 (船橋市)斉木直哉
 ④桜散り人語も散って静かなり(三郷市)岡崎正宏
 ⑩☆空爆の次は花見のニュースかな(横浜市)杉江美枝
 【評】斉木氏。自然児の自由さに何んとない憂愁が漂う。(中略)十句目杉江氏。いまの政治状況に皮肉を。

<長谷川櫂選>
 ①ランボーにまづは献盃(けんぱい)花の下 (松江市)三方元
 ③花の雲よりひとひらの飛び来たる (豊明市)水野高爾
 ⑧人間に器なるもの春愁 (東京都)三輪憲
 【評】一席。ランボーと桜。こうしてみると、意外にもよく似合うのだ。句にも献盃。(中略)三席。遠景の花の雲。それに対するに近景の「ひとひら」。

□「/5月7日」(朝日新聞 2017年5月7日)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【朝日俳壇抄】鞦韆は蹴るべし愛は返すべし ~5月1日~

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【朝日俳壇抄】鞦韆は蹴るべし愛は返すべし ~5月1日~

2017年05月01日 | 詩歌
【凡例】☆印は共選作。①、②以下丸文字は一席、二席等。

<長谷川櫂選>
 ①二度と来ぬ八十八歳花に酌む (いわき市)坂本玄々
 ③花冷にまた来る老の影法師 (愛西市)小川弘
 ⑥☆亀鳴くや一村挙げて避難中 (名古屋市)池内真澄
 【評】一席。たしかに一生に一度。それどころか、また生まれてきても来るとはかぎらない。大事な一年。(中略)三席。老いというものの影法師。ときおりその姿が見える。

<大串章選>
 ①鞦韆(しゅうせん)は蹴るべし愛は返すべし (諏訪市)宮澤恵子
 ⑩去年よりひとつ歳とる花見かな (焼津市)増田恵津子
【評】第一句。三橋鷹女の代表作「鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし」を踏まえる。「返すべし」が佳(よ)い。(中略)

<稲畑汀子選>
 ①きのふでもあしたでもなきけふのはな (糸魚川市)早津邦彦
 ⑤見えてより天守は遠し花の雲 (枚方市)嶋林岳紹
 【評】一句目。まことに桜ならではの一句。刻々の花の変化に心を寄せる。(後略)

<金子兜太選>
 ①戦争へ回帰しさうな桜かな (東京都)無京水彦
 ⑨☆亀鳴くや一村挙げて避難中 (名古屋市)池内真澄
 ⑩熊野古道神出鬼没の蜥蜴(とかげ)かな (泉南市)藤岡初尾
 【評】無京氏。桜の満開ぶりを異状とも。(中略)十句目藤岡氏。「神出鬼没」が旨い。

□「朝日俳壇/5月1日」(朝日新聞 2017年5月1日)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【俳句時評】100歳のユーモア ~後藤比奈夫~

2017年04月04日 | 詩歌
 世阿弥は能の奥義を老木(おいき)に花咲かすことだといった。いま俳句で奧千本の花をみせてくれるのは四月に満百歳になる後藤比奈夫。代表句に<東山回して鉾を回しけり>がある。句巾(くはば)は柔軟で広やか。2006年蛇笏賞を受賞した『めんない千鳥』には斬新な現代批評詠まである。
  蟻地獄までもバーチユアルリアリテイ
 現実は仮現実に侵食され、ついにお堂下に巣食う蟻地獄(ありじごく)まで取り込まれる。スノーデンが告発したサイバー空間が地球上の見えない戦争を支配するように。
  抱えられ跨ぐ湯槽や初湯殿
 昨年の句集『白寿』は肉体の衰えを素直にあらわす。初湯は新年の季語。バスタブをじぶんではもう跨(また)げない。若い介護職員に抱えられて浸(つ)かる風呂桶(ふろおけ)は、下五で一挙に御殿のゆたかさに変容する。初湯に合体した「殿」の効果だ。ものと春をなす老艶(ろうえん)の境地といえよう。
  喪に籠もりゐても年賀は述べたかり
 長寿にも嵐はあり昨年愛息を喪った。父の夜半から継承主宰した「諷詠」を譲り四年。だが、俳精神はくじけない。
  あらたまの年ハイにしてシャイにして
 今年の新年詠。ハイは高揚する気分、シャイははにかみ。百歳のかわいさ、めでたさ、おかしみがあふれる。ハイが俳、シャイが謝意の懸詞(かけことば)なら、素顔の恥じらいすらほのみえよう。母音アの開放的な五音が、母音イの歯切れ良い連打へと変わってゆく音楽性は、俳句を「定型音感詩」と心得てきた人ならではの愛誦性に富む。なんともふくよかな上方文化の薫りだ。百歳の俳味にほっこりし、やがてシャンとさせられる。

□恩田侑布子「100歳のユーモア ~俳句時評~」(「日本海新聞」 2017年2月27日)を引用
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【旅】長良川の鵜飼 ~漱石・多佳子・三鬼~

2017年02月18日 | 詩歌
 蔵書を処分する前、ざっと読み返した1冊。
 本書は夏目漱石から石田波郷まで、近現代の俳人47家を収録。口絵写真に例えば「匠と鵜」あり、これをめぐって3句が紹介されている。

  鵜飼名を勘作と申し哀れ也  夏目漱石
  つかれ鵜のこゑごゑ鵜匠ききわけて  橋本多佳子
  昼の鵜や鵜匠頭(うしょうのかみ)の指ついばみ  西東三鬼

 漱石句の注にいわく、
 <「鵜飼名を」の句。明治28年作。漱石の句は古く明治22年の作から記録されているが、その多くは手なぐさみという程度にすぎない。漱石の俳句開眼は明治28年松山中学赴任以後といっていい。以下その当時の句。すでに漱石独自の世界を開いている。【安住敦】>

□『俳句集』(日本の詩歌30)(中央公論社、1970)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン
 
 【参考】
【旅】岐阜 ~長良川~
  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする