とはいえ、同じ年次に入省した人同士の競い合いはあります。でもそれが起きるのは、10年から15年後ぐらいのことです。最初の10年、15年ぐらいは、横並びで差がつきません。課長補佐ぐらいまではほぼ横並びです。しかも、その競い合いに参加できるのは、年次の中でもさらに少数にしぼられた一部の人に限定されます。
要するに、役所の外側に対しては団結して、ある時期までは年次とともに「みんな一緒」の穏やかな世界。それがある時期から激しい競争が始まります。
そこでの勝ち負けについては、同期が一歩先に行ったらみんな喜んで退く、という文化があります。その「細い道」を通れた人、つまり、晴れて課長になった人は、さらなる上に昇っていくための熾烈な本格レースが始まります。なぜなら、課長になってようやく政治家との関係が出てくるからです。そこから急に「よーい、ドン」というレースが始まるのです。
ここで頭一つ抜けるコツは何か。もちろん、そつなく仕事をこなし、政治家との関係をうまく築き、省に有利に政策を進めることであるのは言うまでもありません。しかし有能ぞろいの官僚です。結局、そこで差がつくのは「上司からの評価」です。そこで認められた人だけがより上に行けるわけですが、そのポイントは「誰に認められるか」にある。要するに、「どの上司に評価されたか」ということに尽きます。身も蓋もないような話ですが、「芽のある上司のライン」に乗ることができれば、上に行けるのです。
課長までなら部下も含めた評価になります。けれども霞が関の官僚は、課長職より上になると個室を持ちます。裏返して言うと、日常的に見ている部下という「実働部隊」がいなくなります。
この点、財務省の力の構造は、他の省とだいぶ違って、課長より一段下の主査が、他の省の課長クラスを相手にします。実質的に予算の査定をするため圧倒的な力を持っているので、財務省の場合、昔の憲兵に似ていると言えるかもしれません。憲兵は自分より一階級上まで取り調べることができました。憲兵の兵長であっても、伍長を取り調べることができたのと同じです。
もう一つ、特殊な省庁が、警察庁と防衛省です。この二つに入れば、最初から「超幹部」扱いです。というのは、両方とも25万~30万人ずつ抱える、中央省庁の中では大所帯ですから(警察は地方公務員と国家公務員で構成される)、20代のころから、警察庁では数百人、防衛省だと千人以上を束ねることになる。このとき重要な資質は何かといったら、責任が取れる人物かどうかでしょう。両組織とも、国家の中において正当に武器を使うことが許された役所です。ということは、必ず一定のリスクがあります。どうしたって事故が起きるものですから、そのときの責任の取り方が問われるのです。部下がとんでもない事件、事故を起こした場合は、どんなに能力があっても直属の上司は責任を取らされるので上には行けなくなる。だからある程度、「人事は運だ」という感覚が若いころからつくのだと思います。
□佐藤優『官僚の掟 競争なき「特権階級」の実態』 (朝日新書、2018)の「第1章 こんなに統治しやすい国はない」の「どの上司に評価されたか」を引用
【参考】
「【佐藤優】官僚は年次がすべて ~官僚の掟(6)~」
「【佐藤優】官僚に「落選」はない ~官僚の掟(5)~」
「【佐藤優】ソ連官僚の鉄のモラル ~官僚の掟(4)~」
「【佐藤優】競争の土俵に上がらない ~官僚の掟(3)~」
「【佐藤優】自殺の大蔵、汚職の通産、不倫の外務 ~官僚の掟(2)~」
「【佐藤優】『官僚の掟』の目次」
要するに、役所の外側に対しては団結して、ある時期までは年次とともに「みんな一緒」の穏やかな世界。それがある時期から激しい競争が始まります。
そこでの勝ち負けについては、同期が一歩先に行ったらみんな喜んで退く、という文化があります。その「細い道」を通れた人、つまり、晴れて課長になった人は、さらなる上に昇っていくための熾烈な本格レースが始まります。なぜなら、課長になってようやく政治家との関係が出てくるからです。そこから急に「よーい、ドン」というレースが始まるのです。
ここで頭一つ抜けるコツは何か。もちろん、そつなく仕事をこなし、政治家との関係をうまく築き、省に有利に政策を進めることであるのは言うまでもありません。しかし有能ぞろいの官僚です。結局、そこで差がつくのは「上司からの評価」です。そこで認められた人だけがより上に行けるわけですが、そのポイントは「誰に認められるか」にある。要するに、「どの上司に評価されたか」ということに尽きます。身も蓋もないような話ですが、「芽のある上司のライン」に乗ることができれば、上に行けるのです。
課長までなら部下も含めた評価になります。けれども霞が関の官僚は、課長職より上になると個室を持ちます。裏返して言うと、日常的に見ている部下という「実働部隊」がいなくなります。
この点、財務省の力の構造は、他の省とだいぶ違って、課長より一段下の主査が、他の省の課長クラスを相手にします。実質的に予算の査定をするため圧倒的な力を持っているので、財務省の場合、昔の憲兵に似ていると言えるかもしれません。憲兵は自分より一階級上まで取り調べることができました。憲兵の兵長であっても、伍長を取り調べることができたのと同じです。
もう一つ、特殊な省庁が、警察庁と防衛省です。この二つに入れば、最初から「超幹部」扱いです。というのは、両方とも25万~30万人ずつ抱える、中央省庁の中では大所帯ですから(警察は地方公務員と国家公務員で構成される)、20代のころから、警察庁では数百人、防衛省だと千人以上を束ねることになる。このとき重要な資質は何かといったら、責任が取れる人物かどうかでしょう。両組織とも、国家の中において正当に武器を使うことが許された役所です。ということは、必ず一定のリスクがあります。どうしたって事故が起きるものですから、そのときの責任の取り方が問われるのです。部下がとんでもない事件、事故を起こした場合は、どんなに能力があっても直属の上司は責任を取らされるので上には行けなくなる。だからある程度、「人事は運だ」という感覚が若いころからつくのだと思います。
□佐藤優『官僚の掟 競争なき「特権階級」の実態』 (朝日新書、2018)の「第1章 こんなに統治しやすい国はない」の「どの上司に評価されたか」を引用
【参考】
「【佐藤優】官僚は年次がすべて ~官僚の掟(6)~」
「【佐藤優】官僚に「落選」はない ~官僚の掟(5)~」
「【佐藤優】ソ連官僚の鉄のモラル ~官僚の掟(4)~」
「【佐藤優】競争の土俵に上がらない ~官僚の掟(3)~」
「【佐藤優】自殺の大蔵、汚職の通産、不倫の外務 ~官僚の掟(2)~」
「【佐藤優】『官僚の掟』の目次」