語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】米国と中国がもし戦ったら  ~『ゼロからわかる「世界の読み方」』~

2018年05月16日 | ●佐藤優
 (1)トランプの目から見ても、韓国は秩序がそれほどきちんと維持されていない国だと映っているだろう。
 ピーター・ナヴァロ『米中もし戦わば』(文藝春秋)からも、そこがよく伝わってくる。ナヴァロは、トランプに買われてホワイトハウス国家通商会議のトップに就いている人物だ。この本、なかなか面白い。
 ナヴァロは言う。米国には航空母艦があり、ステルス戦闘機や機動部隊があって、もう全能だと思っているが、勘違いしないほうがいい。中国が、小型で巡航ミサイルを二つだけ積めるような、大きなモーターボートみたいな艦船を今たくさん造っている。これが仮に1,000隻ぐらい一遍に襲いかかってきたら、いくら航空母艦があるといっても潰しきれない。シミュレートしたら負けた。人海戦術で、考えられないような旧式の兵器を積んで、大量の敵が来ることを想定しておかないと、米国の艦隊は全滅する。・・・・そんな分析をしている。

 (2)あと、ナヴァロはこんなことも紹介している。安倍総理が日露の経済協力として宇宙分野の協力をすごく強く打ち出したが、あれはなぜか? 宇宙空間は、確かにそこで薬品や合金をつくることもできるが、要はサイバー戦などで鍵になってくるからだ。ロシアとの協力は、米国を刺激しないか? 実は米国は宇宙に対しての対露制裁は一切かけていない。宇宙だけは100%ロシアと協調している。なぜか? スペースシャトル計画が失敗したからだ。スペースシャトルで安く宇宙空間に行く、宇宙ステーションに行ったり来たりできる、という計画を立てたが、安全性がほとんど保証されないままなのだ。しかも、それ以降のアポロ計画の技術は捨ててしまった。結果、いま国際宇宙ステーションに安定的に生けるのはソユーズ・ロケットしかない。だから、米国人が行くにも、ソユーズに乗せてもらわないと行きようがない。もう、米国は完全に宇宙空間へ人を送るという構想を放棄した。だから、制裁をかけようにもかけられない。
 にも関わらず国際宇宙ステーションがなぜできたか、と言えば、宇宙空間を軍事利用した場合、ものすごく効果があるからだ。ところが、国際法で宇宙空間の軍事利用は禁止されている。ただし、国際法は破っても警察が来るわけではない。となると、一緒に開発して、一緒に行っていれば軍事利用ができない。あるいは軍事利用しても共通利用をする。米露あるいはフランス、ドイツ、日本、そういった国々ならば、お互いにぶつかることはおそらくない。だから宇宙ステーションは敢えて国際宇宙ステーションにしたわけだ。

 (3)ところが、そこに加わっていない大国がある。中国だ。中国は独自の宇宙ステーションを造ろうとしている。同時に、中国はミサイル衛星を持っている。それを2007年に実験して、中国の古い気象衛星をミサイルで吹き飛ばし、おそらく人類史上最大量の宇宙ゴミを出した。これはどういうことかというと、国際宇宙ステーションをいつでも撃ち落とせる、という示威行為だ。宇宙はいま、そんな状況にある。

 (4)つまり、これから宇宙戦争が起きる可能性が出てきたわけだ。中国が宇宙ステーションをつくり、しかもその宇宙ステーションが武装する可能性がある場合、米露が連合して中国の宇宙ステーションを潰すのではないか。
 あるいは、われわれは今やすっかりGPSに頼っているのだが、もし米中戦争が始まることになったら、中国はミサイルで米国のGPS衛星を撃ち落とせばよいわけだ。すると、GPSに依存しているものは全部ダメになる。中国の軍事システムはオンボロ衛星だが、自分たちで打ち上げているから独自の通信だ。
 そういったことを考えていくと、宇宙空間をどう管理していくかについては、今後いろいろややこしい問題が起きている。
 ナヴァロが結論づけているのは、いま戦争をすれば、相当死ぬかもしれないが、米国はどうにか勝つ。しかし、限りなく「博士の異常な愛情」に近い世界になっていく。あのブラック・ユーモアが国際社会で現実化しようとしている。

□佐藤優『ゼロからわかる「世界の読み方」 ~プーチン・トランプ・金正恩~』(新潮社、2017)の「第2部 ゼロからわかる「トランプ後」の世界」の「1 新帝国主義とトランプ --あるいはクリスチャン・シオニズムと黄禍論」

 【参考】
【佐藤優】アメリカ映画とキリスト教、120年の関係史  ~『ゼロからわかる「世界の読み方」』~
【佐藤優】オランダが『アンネの日記』を必要とした理由  ~『ゼロからわかる「世界の読み方」』~
【佐藤優】オシントというインテリジェンスの手法 ~『ゼロからわかる「世界の読み方」』~
【佐藤優】聖書の翻訳 ~『ゼロからわかる「世界の読み方」』~



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