語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【社会】「保険」としてのダブルワーク ~最賃平均823円の現実~

2017年06月01日 | 社会
 (1)4月、埼玉県のマンションで火事があり、留守番をしていた0歳から5歳の子ども3人が重軽傷を負った。そのうち4歳の女の子が死亡。【注】
 この家庭は母子世帯で、30代の母親は仕事で家にいなかった。
 この母親がどんな仕事をしていたのか、昼も夜も仕事を掛け持ちしていたのか(ダブルワーク)などは不明である。
 この家族が住んでいた市には、24時間保育を行う認可保育園はなかった、という。
 シングルマザーたった一人に家計の担い手と子育て、家事負担がのしかかれば、このような事件が起きないことが「奇跡的な幸運」でしかない。毎晩、子どもだけを残して働きながら、母親はどれほど不安だったろう。

 (2)そんな事件が起きる数日前、「最低賃金1,500円」を掲げるAEQUITAS(エキタス)の「上げろ最低賃金デモ」に雨宮処凜は参加した。
 デモの前、そしてデモ中のスピーチで、最低賃金全国平均823円のこの国の「現実」が紹介された。それは、エキタスがネットで呼びかけた「最低賃金が1,500円になったら?」という問いへの回答だ。
 一番多かったのが、「病院に行ける」だったという。それ以外にも「ブラック企業を辞められる」「ダブルワークしなくて済む」「もやしと鶏肉以外の料理を食べられる」「薬を処方どおり飲める」「貯金ができる」などの切実な声が紹介されていた。
 もし、最低賃金が1,500円だったら。
 フルタイムで働いても年収300万円には届かないけれど、シングルマザーが子どもを置いて深夜働きに行くような「綱渡り」の生活をしなくて済むかもしれない。
 しかし、今の最賃823円では、1日8時間、月に20日働いたとして131,680円。一人暮らしだってギリギリの額だ。

 (3)雨宮処凜は最近、ダブルワークをして1日15時間働いているという女性に会った。
 9時から18時までラーメン店で働き、20時から深夜2~3時までキャバクラで働くという女性は、「どっちかをクビになっても、もうひとつあると思うと安心だから」とダブルワークの「利点」を語った。
 それくらい「クビ」が当たり前の環境に生きているのだ。「保険」としてのダブルワーク。
 しかし、年齢を重ねれば1日15時間働くことはできなくなっていく。その時に、「保険」はない。

 【注】<19日午後9時50分ごろ、さいたま市南区沼影2のマンション一室から煙が出ていると、別の部屋に住む男性から119番があった。1階のアルバイト、大和田歩さん(31)方が燃え、子供3人が喉にやけどを負うなどして救急搬送された。長女結愛ちゃん(4)が死亡し、長男(5)と次女(8カ月)が意識不明の重体。/埼玉県警浦和署によると、この部屋は母親の大和田さんと子供3人の4人暮らし。大和田さんは外出中で不在だった。子供3人は同じ部屋で倒れていたという。/(中略)母子を見たことがあるという70代男性は、大和田さんが買い物や送り迎えの時に子供と手をつないで歩く姿をよく見かけたといい「仲が良さそうだった」と振り返った。(後略)>【記事「火災で幼児3人死傷 さいたまのマンション」(日本経済新聞 2017年4月20日)】

□雨宮処凜「最賃平均823円の現実 ~乱気流 第54回~」(週刊金曜日 2017年5月12日号)
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