秋、晴れた空、紅葉、古寺、谷川、これだけ言えば、フランスの秋も日本の秋も変わりはないように見える。しかし実際にそこにいてみると、何という大きな違いだろう。それはよい、悪いの問題ではない。自然までがちがう。それはどういうことだろう。一度だけ来日中のサルトルに会ったことがあるが、日本では自然までが違う、と言っていた。そしてサルトルは、自然は一つの筈だが、とつけ加えた。だからかれは、そう言った時、風土のちがいを決して忘れているわけではないのだ。そういうものを考慮に入れても、日本の自然はいかにも特殊だ、と言いたかったのだと思う。私にとっては、それは日本の自然は人を孤独にしない、という点に要約できると思う。人間の感情があまりにも深く自然に浸透している。そういう感じである。どういう風景を見ても、それと直接触れることができない。そこには先人によって詠まれた和歌や俳句がすでに入りこんで来る。日本の自然は余りにも人によって見られており、また日本人は、そういう温か味のある自然を求めているようである。そしてこれは人間と人間との関係がそこに投影されているだのだと思う。だからそれは人を孤独にしない。フランスではその逆のようである。自然はあくまで自然としてそこに在る。そういう自然の中に入る時、人は孤独になる。そしてこの関係は、人間同士の間にも投影される。人間はあくまで自然存在を強く帯びており、その孤独の中から人間経験が生まれてくるのである。
【出典】森有正「遙かなノートルダム」(『遙かなノートルダム』、筑摩書房、1967)
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【出典】森有正「遙かなノートルダム」(『遙かなノートルダム』、筑摩書房、1967)
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