語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】ゲリラ戦に関するハルカビの理論 ~対テロ(11)~

2018年04月27日 | ●佐藤優
 <ガノール氏は、「懸かっている国益を比較し、それがより本質的な性格を持つ方が勝つ」というハルカビの理論で、テロリズムを分析することが重要であると説く。

  〈攻撃下にある国の世論にテロ組織が及ぼす影響は「必要性のバランス」理論を使って説明できる。これはイェホシャファット・ハルカビが、ゲリラ戦に関する著作で形成した理論である。ハルカビによると、これを使って国家間の紛争を検討し、双方の「懸かっている国益」の本質を分析することで、その結果を予見することも可能だという(懸かっている国益を比較し、それがより本質的な性格を持つ方が勝つ)。ハルカビは「必要性のバランスは、戦争継続の意志、そして敗北をもたらす態度に影響する可能性がある」と主張する。
  われわれもハルカビの理論を使って、国家レベルで重大な問題に対する国民の態度にテロリズムが及ぼす影響について明らかにすることができる。テロ攻撃が発生すると、国民は自分と家族の安全に比べれば、攻撃された国益の重要性は低いという思いを抱くようになる。これがテロリスト側の狙いである。彼らが送ってきたメッセージは、自分の命を守るためにテロをやめて欲しければ、われわれの要求を聞け、われわれが目的を達成することを認めろ、ということだ。〉(本書195頁) 

 裏返して言うと、テロに屈しないためには、自分や家族に危険が迫ってでも守らなくてはならない価値があるという認識を国民が持たなくてはならないということだ。これは民主主義国において、ほぼ不可能な課題だ。日本や欧米のような先進国の生命至上主義がテロ対策にとっては障害となっている。>

□ボアズ・ガノール(佐藤優・監訳、河合洋一郎・訳)『カウンター・テロリズム・パズル 政策決定者への提言』(並木書房 2018)の冒頭、佐藤優「監訳者のことば--テロリズムに関する実用書兼実務書」の「(11)ハルカビの理論」を引用

 【参考】
【佐藤優】壁と「鉄の屋根」というミサイル迎撃システム ~対テロ(10)~
【佐藤優】中立化(暗殺)工作 ~対テロ(9)~
【佐藤優】レッドラインを設けない ~対テロ(8)~
【佐藤優】インテリジェンスの重要性 ~対テロ(7)~
【佐藤優】テロ対策と国民感情 ~対テロ(6)~
【佐藤優】戦争犯罪とテロリズムの区別 ~対テロ(5)~
【佐藤優】テロリズムの定義 ~対テロ(4)~
【佐藤優】政治(国家)指導者の能力 ~対テロ(3)~
【佐藤優】アート(芸術)としてのインテリジェンス ~対テロ(2)~
【佐藤優】ボアズ・ガノール氏との出会い
【佐藤優】「監訳者のことば--テロリズムに関する実用書兼実務書」の目次

 

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