語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】吉野弘を読む(1) ~10ワットの太陽~

2015年05月01日 | 詩歌
 彼が私に言いました。
 --この写真が一番良い
    これを一席にしよう
    あかるくて
    ひとに希望を与える
    それに・・・・
    ひとに希望を与えたいと
    ぼくは常々思っている

 彼が希望を持って居ようとは!
 私はほんとに驚いて
 彼にたずねました
 --それは素晴らしい
    そして・・・・
    どんな希望があなたの中に?

 おや めぐりの悪い
 という顔をして
 彼は私に言いました
 --それはもうお答えずみです
    ぼくはひとに希望を与えたい
    それがぼくの希望
    ひとに希望を与えたいという希望が
    ぼくの希望

 でも・・・・
 と私が言いました
 --ひとに与えたいと仰言る希望の中味が
    どんなか知りたいんです
    つまりあなたの思想が

 --中味ですって? 思想ですって?
    希望は則ち思想でしょう
    太陽には すべてを照らしたいという
    希望がある それが太陽の思想です
    おかげでわれわれは生き 月や星は
    輝く そして 太陽はいくつあっても
    いいのです

 ああ 比喩の太陽よ

 彼が
 10ワットの太陽
 懐中電灯のような太陽でも
 他人は
 月や星のように
 寒々と輝く義務がある

 *

 <この優しい連帯の情感の詩のうちに、一すじの苦がさを感じるのは、ぼくの読みすぎだろうか? ぼくは、彼の例えば「モノローグ」における希望への警戒、つまり使用される人間の意識を一種の安定のうちに持続させるものとしての希望と絶望のなれあいの混在の指摘などを思いだし、「比喩の太陽」において彼が最大限の譲歩を行っているようにも感じるのである。彼が具体的な仕事に対して明るく肯定的であるのは、それが優れた技師として眺められているときに限られるようにぼくには思われる。>【清岡卓行「吉野弘の詩」(『吉野弘詩集』(思潮社、1968)所収】

□吉野弘「比喩の太陽」(『10ワットの太陽』(思潮社、1964)所収)
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     金盞花
   

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