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(1)第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
(2)掛け値なしの傑作。脱帽ものです。【綾辻行人】
デリケートな問題を扱う公正さに簡単。【近藤史恵】
構成の見事さにうまく騙された。【今野敏】
作者の批評精神が素晴らしい。【藤田宜永】
少子高齢化、介護問題、長期介護による金銭的・精神的負担、介護疲れ殺人・・・・そんな高齢化社会を描ききったミステリー。さまざまな立場とその背景、その信念や論理をていねいに描く群像劇。主人公的位置づけの大友秀樹・検事の性善説も佐久間功一郎・「フォレスト」営業部長の性悪説も相対化され、特定の誰かに収斂させることなく、現代社会の構造的な問題を立体的に浮かび上がらせ、読者各自に考えさせることに成功している。【千街昌之「介護の理想と現実の間で謎を追う」(「週間朝日」2013年3月29日号)】
(3)介護をめぐる問題をたんねんに調べてある。
21世紀に急増する要介護者、不足する介護の人手。
2000年に創設された介護保険制度に内在する問題・・・・報酬改定という名のサービス切り下げ、など。
介護における格差・・・・富裕層対応の介護ビジネス。
介護ビジネスにおける不正・・・・過剰請求、など。
家族による介護の現実・・・・認知症の家族と長期間向かい合う介護者の過労、アンビバレンツな感情。
介護事業の現場・・・・劣悪な労働条件。
これらのほか、オレオレ詐欺の巧妙化、原発事故などの社会問題も取り込んでいる。ただし、その分、焦点がボケるきらいがある。
(4)本書が大きく紙数を割く大手の介護事業者「フォレスト」は、九州から全国へ事業展開した出自、厚生労働省による処分といった点からして、グッドウィル・グループに発する株式会社コムスンをモデルとしていると思われる。
(5)究極のケアが殺人という発想は不気味だ。老婆に斧をふりかざすラスコーリニコフが不気味であると同じように。
他人の生死の与奪権を勝手に握る権利は、誰にもない。癌などに苦しむ患者の自殺を幇助する行為に対してさえ異論が多い。パターナリズムの負の側面だ。
とはいえ、無意識的手落ち、意識的手抜きが目につく今日の介護、事業としての介護を思うと、この小説における解決法が妙にリアルに迫ってくる。
□葉真中顕『ロスト・ケア』(光文社、2013.2)
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