語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】生前退位の理由(その2) ~バチカン世界戦略(5)~

2017年04月17日 | ●佐藤優
【佐藤コメント】
2-(1)~(2)
 2013年2月11日、ベネディクト16世(ヨゼフ・ラッツィンガー)は、高齢(85歳)による体力の衰えを理由に退位を発表した。
 バチカンの公式見解を伝える日刊紙オッセルバトーレ・ロマーノによれば、教皇の決断は前年の2012年3月にメキシコとキューバへ外遊した後になされた。2007年にはドイツ人ジャーナリストのインタビューに、「力が衰えたら退位すべきだ」と語っている。前教皇ヨハネ・パウロ2世の衰えを側近として見つめ、存命中の退位表明が念頭にあったらしい。
 同月28日、ベネディクト16世は正式に退位した。
 3月12日から、枢機卿による教皇を選出するコンクラーベ(ラテン語で「鍵がかかった」の意。秘密会のこと)が開催された。
 ローマ教皇の生前退位は、1415年のグレゴリウス12世以来、598年ぶりであった。このときは、3人の教皇が鼎立していた。1414~18年、ドイツのコンスタンツで教会分裂を解決するための公会議が開かれ、2015年7月、ボヘミア(チェコ)のヤン・フスを異端として火刑に処した。その後、フスの思想がマルティン・ルターに影響を与え、宗教改革が起きた。もっとも、宗教改革というのは、プロテスタント側の用語で、カトリック側は信仰分裂という。フスを始末した前後に鼎立していた教皇はすべて退位することになり、1417年11月に新教皇マルティヌス5世を選出し、教会の統一を回復した。

3-(1)
 カトリック教会においては、今日、コンスタンツ公会議のときと同じくらいの危機が生じているので、異例の教皇生前退位を行って、組織の建て直しを図っている。カトリック教会の内部にも、聖職者による児童虐待に対する教会の責任、避妊容認、同性愛容認を求める信者の声にどう対処するかという問題があるが、これらの内部問題とともに見落としてはならないのがバチカンの世界戦略だ。
 ベネディクト16世は、2006年9月にイスラーム教の聖戦(ジハード)を批判したが、これは教皇の個人的発言ではなく、バチカンの世界戦略に基づくものだ。台頭するイスラーム教を封じ込め、巻き返すためには教皇が健康で、戦略を立て、実行する中心に立たなくてはならないという危機感から、異例の生前退位が行われたのだ。
 カトリックの世界戦略に関して、イスラーム世界に対する巻き返しを図るという点で、教皇候補となる枢機卿の間に見解の相違はない。

□佐藤優「ローマ教皇ベネディクト16世の生前退位」【「イスラーム過激派に対抗する「バチカン世界戦略」」に対する分析メモ】『佐藤優の10分で読む未来 ~新帝国主義編~』(講談社、2014)
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 【参考】
【佐藤優】法王と教皇、その不可謬性 ~バチカン世界戦略(4)~
【佐藤優】対中国、対イスラーム過激派の論理 ~バチカン世界戦略(3)~
【佐藤優】教皇の若返りが必要な理由 ~バチカン世界戦略(2)~
【佐藤優】改革派の教皇、保守派の教皇 ~バチカン世界戦略(1)~


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