語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『プロップ・ステーションの挑戦 -「チャレンジド」が社会を変える-』

2010年06月15日 | ノンフィクション
 プロップ・ステーションは、チャレンジドの就労支援を目的とするNPOである。チャレンジドとは「神から挑戦するべきことを与えられた人々」を意味し、本書では、できないことを嘆くよりできることに目を向けて意欲的に取り組む障害者、ことに重度の肢体不自由者をさす。
 就労の武器は、パソコンである。したがって、支援はパソコン操作法のセミナーの開催、営業(企業からの注文とチャレンジドの能力とをつなげる)に重点が置かれるが、就労前後のフォローも併せ行う。

 「チャレンジドを納税者に」が標語である。ひとの税金で食べさせてもらう立場から税金を払う立場へかわることで、社会的な発言力が生まれるし、何より本人に生きがいができる。
 それだけではない。チャレンジド自身がボランティアに立場を転換しえるのだ。セミナーの講師になるのもそうだが、好例は1995年の大震災における支援活動だろう。あるチャレンジドは、パソコン通信で安否情報や救援情報を流し続けた。

 プロップ・ステーションが大阪で旗揚げしたのは、1992年4月。徒手空拳の出発だったが、アップル社からどんと機器の寄付があり、大阪府からソフト購入の助成金が認められ、好意的な新聞記事が掲載されてボランティアも確保できた。そして講座開催のための部屋もNEC関西支社の好意で無償で提供され、順風満帆の船出となった。
 「火」をつけてまわることの巧みなナミねぇの活躍もあったが、その後も、パソコン通信とインターネットにいちはやく目をつけた先見の明もあいまって、情報ネットワークが拡大。数多くの企業人、大学人の支援を受け、霞が関にも「私設応援団長」を獲得した。

 かくも広く共感を呼んだ理由の第一は、自立の哲学であろう。「自立というのは、他人の力を借りないことやない。自分の人生を、自分の意志で切り拓いていくこと。必要な人の力は貸してもらって、自己実現をしていくことなんや」
 第二は、支援してもらいやすい体制づくりである。助けてもらうだけで終わってはならない、あなたが来てくれたからこれだけのことができました、という満足感を得てもらわねばならない、という気くばり。企業の中では自分個人がやった成果は見えにくいものだが、チャレンジドに教えると成果が目に見えてくるのだ。あるいは、支援されたら結果を見せる、という意気ごみ。そして事実、結果をだす。パソコンという、ボランティアの新たな領域を開発した点も、成功の要因だろう。

 著者の語り口も元気だが、多数紹介されるチャレンジドとボランティアたちの闘志が静かに伝わってきて、快い。

□竹中ナミ『プロップ・ステーションの挑戦 -「チャレンジド」が社会を変える-』(筑摩書房、1998)
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