(1)日本軍が降伏しない、というのは実はウソだ、ということに米国は戦争の途中で気づいた。
米軍は、戦争の途中までは日本兵をほとんど殺していた。だから米軍は決して人道的でも何でもなかった。ところが、ある状況から、日本兵、特に将校は捕まえたらよくしゃべる、ということに気づいた。日本兵は死に物狂いで戦うけれども、なぜ、一旦捕まってしまうと、ペラペラしゃべるのか。
(2)要するに、捕虜になることがない、という前提なので、捕虜になったときのマニュアルがないわけだ。
国際法では、捕虜になった場合は自分の氏名と階級、生年月日と所属部隊の認証番号と個人番号のみ言えばよくて、それ以外のことは言わなくていい。部隊の配置については言わないでいいし、拷問で聞き出したりすれば戦時国際法違反だった。
ところが日本人は全体か無かという発想で仕事をしているから、捕虜になってしまったら、ペラペラしゃべる。宣伝新聞などに自分の顔を出さないでくれ、日本側に自分が捕虜になってしまったことを通報しないでくれ、という願いが受け入れられれば、いくらでもしゃべる。
そのことに米軍の情報部は関心を持った。
(3)そこでつくられたのが、米国の文化人類学者ルース・ベネディクトを中心とするチームだ。ルース・ベネディクトは社会学者だが、日本の専門家ではない。日本人がなぜこういうふうに投降するのか、日本人をどんどん投降させてしゃべらせるにはどうすればいいか、ということで調査させた。その結果生まれたのが、いまや日本人観の古典ともいえる『菊と刀』だ。
彼女は、日本の軍記物、戦記物など、戦国時代の研究を中心におこなった。その結果、日本人はよく寝返るし、降伏するということがわかる。殿様は自分が切腹すれば家臣が助かる場合には城を明け渡す、といった事例を研究して、日本人に埋め込まれた文化はそう簡単には変わらない、という結論になる。
(4)米国は、日本研究とは別に沖縄研究もおこなっている。ルース・ベネディクトたちとは別の社会学者のチームをつくって、沖縄の占領に向けて、特別の人類学調査をおこない、報告書「民事ハンドブック(CIVIL AFFAIRS HANDBOOK)をまとめている。これは沖縄県が翻訳して、沖縄県史の資料編として入っている。
長年の差別政策に対して沖縄人は不満は持っているけれども、劣等感は持っていない。このところに、日本は気づいていない。したがって、日本との分断はそれほど難しくない。そういう観点から沖縄統治をおこなうべき、というのが「民事ハンドブック」の基本的な内容だ。
だから、戦後政策のなかで米国はある時期まで、対日離反政策を取り、いわば沖縄のアイデンティティを強化する政策を取っている。このときに刷り込まれた遺産が、じつは21世紀になって芽吹いてきている、という面もある。
□佐藤優『牙を研げ 会社を生き抜くための教養』(講談社現代新書、2017)の第1章の「⑦捕虜になった日本人はなぜしゃべるのか」
↓クリック、プリーズ。↓
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【参考】
「【佐藤優】ソ連軍の懲罰部隊が強かった理由、日本軍の「生きて虜囚の辱めを受けず」 ~『牙を研げ』~」
「【佐藤優】『牙を研げ 会社を生き抜くための教養』 ~各章の小見出し~」
「【佐藤優】『牙を研げ』 ~まえがき~」
「【佐藤優】『牙を研げ 会社を生き抜くための教養』 ~目次~」
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米軍は、戦争の途中までは日本兵をほとんど殺していた。だから米軍は決して人道的でも何でもなかった。ところが、ある状況から、日本兵、特に将校は捕まえたらよくしゃべる、ということに気づいた。日本兵は死に物狂いで戦うけれども、なぜ、一旦捕まってしまうと、ペラペラしゃべるのか。
(2)要するに、捕虜になることがない、という前提なので、捕虜になったときのマニュアルがないわけだ。
国際法では、捕虜になった場合は自分の氏名と階級、生年月日と所属部隊の認証番号と個人番号のみ言えばよくて、それ以外のことは言わなくていい。部隊の配置については言わないでいいし、拷問で聞き出したりすれば戦時国際法違反だった。
ところが日本人は全体か無かという発想で仕事をしているから、捕虜になってしまったら、ペラペラしゃべる。宣伝新聞などに自分の顔を出さないでくれ、日本側に自分が捕虜になってしまったことを通報しないでくれ、という願いが受け入れられれば、いくらでもしゃべる。
そのことに米軍の情報部は関心を持った。
(3)そこでつくられたのが、米国の文化人類学者ルース・ベネディクトを中心とするチームだ。ルース・ベネディクトは社会学者だが、日本の専門家ではない。日本人がなぜこういうふうに投降するのか、日本人をどんどん投降させてしゃべらせるにはどうすればいいか、ということで調査させた。その結果生まれたのが、いまや日本人観の古典ともいえる『菊と刀』だ。
彼女は、日本の軍記物、戦記物など、戦国時代の研究を中心におこなった。その結果、日本人はよく寝返るし、降伏するということがわかる。殿様は自分が切腹すれば家臣が助かる場合には城を明け渡す、といった事例を研究して、日本人に埋め込まれた文化はそう簡単には変わらない、という結論になる。
(4)米国は、日本研究とは別に沖縄研究もおこなっている。ルース・ベネディクトたちとは別の社会学者のチームをつくって、沖縄の占領に向けて、特別の人類学調査をおこない、報告書「民事ハンドブック(CIVIL AFFAIRS HANDBOOK)をまとめている。これは沖縄県が翻訳して、沖縄県史の資料編として入っている。
長年の差別政策に対して沖縄人は不満は持っているけれども、劣等感は持っていない。このところに、日本は気づいていない。したがって、日本との分断はそれほど難しくない。そういう観点から沖縄統治をおこなうべき、というのが「民事ハンドブック」の基本的な内容だ。
だから、戦後政策のなかで米国はある時期まで、対日離反政策を取り、いわば沖縄のアイデンティティを強化する政策を取っている。このときに刷り込まれた遺産が、じつは21世紀になって芽吹いてきている、という面もある。
□佐藤優『牙を研げ 会社を生き抜くための教養』(講談社現代新書、2017)の第1章の「⑦捕虜になった日本人はなぜしゃべるのか」
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【参考】
「【佐藤優】ソ連軍の懲罰部隊が強かった理由、日本軍の「生きて虜囚の辱めを受けず」 ~『牙を研げ』~」
「【佐藤優】『牙を研げ 会社を生き抜くための教養』 ~各章の小見出し~」
「【佐藤優】『牙を研げ』 ~まえがき~」
「【佐藤優】『牙を研げ 会社を生き抜くための教養』 ~目次~」
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