語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】プロテスタンティズムという思考の鋳型 ~『牙を研げ』~

2018年03月09日 | ●佐藤優
 (1)外国の企業と仕事をしたり、外資企業で働くビジネスパーソンの数はますます増えている。ビジネスパーソンにとって、国際社会で活動していくうえで、欠かせないのが宗教、なかでもキリスト教の本流に対する理解だ。
 その本流とは何か。
 〈例〉近代的な人権や主権国家はキリスト教を土台にしているから、それがわからないと現代そのものを理解できない。
 キリスト教は、イエス・キリストがつくった宗教ではなくて、イエス・キリストと会ったこともないパウロという人がつくった宗教だ。

 (2)プレモダンなキリスト教として、カトリシズムや正教もあるが、ここでウェイトを置くのはプロテスタンティズムだ。仕事で役に立ち、かつ現代の社会の基本にあるのはプロテスタンティズムだからだ。
 エリートは、世俗化されたかたちであれ、プロテスタンティズムの論理にもとづいて思考し、行動している。その論理を体得することが必要だということだ。

 (3)結論から言うと、プロテスタンティズム、なかんずくカルバン派は、人は生まれる前から、救われる人は選ばれていて、天国のノートに名前が載っていると考える。同時に、生まれる前から、滅びに至る人も天国のノートに記されている。しかし、そのことを我々は知ることができない。
 現実の生活において、さまざまな試練がある。しかし、自分は選ばれている人間だという確信を持っているから、どんな試練も乗り切ることができ、最終的には、「ああ、これでよかったんだ」という人生を歩むことができると考える。いわば刷り込みだ。
 だから、プロテスタントの人たちは、苦しみながら最後を迎えたとしても、ふりかえって自分の人生はよかったと思って死ぬ。そういう刷り込みがあるから、特に逆境に強い。どんな逆境にあっても、それは神の試練であって、救われることが前提となっている。教会に行くことも、自分が教会に来させられていると考える。

 (4)いずれにしろ、金融をはじめビジネスの世界で成功している人には、このような刷り込みがあることを知っておいてよい。
 ちなみに、米国のトランプ大統領は長老派(カルバン派)だ。 

 (5)ただ、この論理は裏返して言うと、「イスラム国」(IS)、アルカイダに通じるものだ。自分たちは完全に選ばれていて、絶対に正しくて、勝利は保証されている。
 あるいは、我々は絶対に正しくて革命は成就するから、一時的な試練も勝利のためだ、という革マル派、中核派の人たちの発想にも通じるものだ。
 こういう目的論的な強力なエネルギーは、プロテスタンティズムから出てくる。
 世の中にはそういう思考の鋳型があるということだ。

□佐藤優『牙を研げ 会社を生き抜くための教養』(講談社現代新書、2017)の第2章の「①プロテスタンティズムという思考の鋳型」
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 【参考】
【佐藤優】日本兵は捕虜になるとよくしゃべる理由、米軍の日本研究  ~『牙を研げ』~
【佐藤優】ソ連軍の懲罰部隊が強かった理由、日本軍の「生きて虜囚の辱めを受けず」  ~『牙を研げ』~
【佐藤優】『牙を研げ 会社を生き抜くための教養』 ~各章の小見出し~
【佐藤優】『牙を研げ』 ~まえがき~
【佐藤優】『牙を研げ 会社を生き抜くための教養』 ~目次~

 



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