語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【丸谷才一】なぜビジネスマンがビジネス書を読んでも役に立たないか

2016年02月11日 | 批評・思想
 (1)最近のビジネスマンはビジネス書ばかり読むようだが、あれはおかしいんじゃないか。
 ビジネス書をいくら読んでも普通のビジネスマンにしかなれない。なぜなら、他のビジネスマンもみんな同じ本を読んでいるのだから。
 では、人とちがう発想をするにはどうしたらよいか。
 それは、ふだん自分が付き合っている領域とはちがう本を読むことだ。

 (2)料理人には、二通りある。
  (a)自分で料理を発明し、かつ、作る人。音楽でいえば、作曲家兼演奏家。
  (b)自分で発明しない、作るだけの人。音楽でいえば、作曲しない演奏家。
 (a)の代表は、日本料理では千花(京都)の永田基男、フランス料理ではコート・ドール(東京・三田)の斉須政雄。
 斉須政雄は、その著書『調理場という戦場』によれば、若いときから料理屋と厨房しか知らないので他の職業に関心がある。他の職業の人に接して面白いなと思ったら、その人が書いた自叙伝やその職業の人の伝記を読む。すると、新しい料理のアイデアが閃く。

 (3)アメリカ随一の広告マン、ジェームズ・W・ヤングの『アイデアのつくり方』(TBSブリタニカ)によれば、広告のアイデアは事実と事実との関連性を探るのがコツである。創造的な広告マンの特徴は二つある。
  (a)関心の幅が広い。
  (b)どんな方面の本でも読んでいる。
 広告関係の本は読むな、社会科学の本を読め、ともヤングはいう。たとえば社会学者リースマンの『孤独な群衆』、経済学者ヴェブレンの『有閑階級の理論』である。

 (4)思想書もよい。
 時代を画する哲学者は、哲学を越境して、他の領域の本をふんだんに読んでいる。
 ハイデガーは、生物学者ユクスキュルの「環境世界理論」をふまえてアリストテレスを読み、「世界内存在」の概念を導きだした。
 カッシラーは、言語学、神話学、人類学、物理学といった他領域の学問をふまえて『シンボル形式の哲学』を書いた。
 ついでに言うと、木田も三浦も丸谷も言ってないが、小児科医にして市井の思想家、松田道雄は多方面にわたる雑学の人だった。

 (5)物理学者も同様。
 ニールス・ボーアは、キルケゴールが見直され、復権された雰囲気のなかで育った。
 ド・ブロイの波動力学は、第三共和制下のベルグソン哲学の影響のもとに発想された。

□丸谷才一『ゴシップ的日本語論』(文藝春秋、2004)の木田元・三浦雅一・丸谷才一「思想書を読もう」
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