語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】世界に向かう真っ当な好奇心 ~『十五の夏』の書評~

2018年05月21日 | ●佐藤優
★佐藤優『十五の夏(上・下)』(幻冬舎 各1,944円)
  

 <(前略)本書の15歳の「僕」は、高校1年の夏休みに、理解のある親に旅費48万円の大半を出してもらい、当時は珍しかった東欧、ソ連への一人旅へ出る。
 ある種、恵まれた境遇にある少年の旅行記であり、〈共産主義にかぶれているんじゃないだろうか。少し頭がいいと思って、生意気なことをするんじゃない〉と非難する日本人の大人と旅先で出会うこともあるが、「僕」の世界に向かう姿勢の真摯さ、真っ当な好奇心の在り方が、自ずと読者に自分の15を振り返らせ、旅の行方を見守りたい思いにさせる。旅先にアメリカではなく東欧、ソ連を選んだのは、ハンガリーにいるペンフレンドやモスクワ放送の日本課長を訪ねるとともに、社会体制の異なった国を見てみたいという希望からだった。(中略)
 形容詞を省いた文章が、思い入れを廃した旅の記録となり、頻出する食事の記述が、観念的ではなく庶民の暮らしぶりを生き生きと描き出している。この旅が“佐藤優”たらしめたというよりも、執行猶予の時期にあって、単なる回想ではなく、いまある原点の15の自分を作品の中でもう一度生き直そうとしたのではないか、と評者には感じられた。会話の箇所の〈僕は言った〉の中に、ごく稀に〈僕が言った〉という表現が混入する叙述が、「語る僕」と「語られる僕」を孕んでいる一人称の表現としてスリリングであり、著者がこの先、本格的に小説に向かう予感を抱かせる。>

□佐伯一麦(作家)「世界に向かう真っ当な好奇心 ~佐藤優『十五の夏』~」(「朝日新聞デジタル」2018年5月19日)を一部引用

 【参考】
【佐藤優】人生を変えた旅の記録 ~『十五の夏』~



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