語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『SAS特殊任務 -対革命戦ウィング副指揮官の戦闘記録-』

2010年04月26日 | ノンフィクション
 SASに20年間あまり勤め、一等准尉に登りつめた隊員による回想録。実戦が豊富に綴られている。北アイルランド作戦、コロンビアの麻薬マフィア撲滅作戦、情勢不穏なザイールにおける大使館警備、シエラレオネ人質救出作戦など。
 ちなみに、著者は、作家に転身して成功をおさめた元隊員、アンディ・マクナブやクリス・ライアンの直属の上司であった。

 全体の3分の1を占めるアフガニスタンへの潜入記録が圧巻だ。
 ムジャヒディーンの一隊と3か月間行動をともにし、スティンガー・ミサイルの操作を教えた。このミサイルは、1989年に戦争が終結するまでに270機以上のソ連機を撃墜し、アフガン戦争におけるソ連の敗北の決定要因となり、ソ連邦崩壊の遠因ともなった。
 こう要約するときれいなものだが、本書は血と硝煙の、ほとんど死と背中合わせの日々を語る。
 この戦争における西側の関与はかねてからささやかれていたものの、当事者による報告は初めてのことらしい。それだけに、当局の検閲が入っている気配がある。除隊して民間人の立場で潜入したことが強調されている。だが、除隊の理由はとってつけたようだし、その気になれば元の階級で復帰させるという上司の保証も妙な話だ。著者は、家族と過ごす時間を持ちたい、と申し立てたことになっているのに、長期間のアフガン潜入にちゅうちょしていない。しかも、役目をおえると、ほとんど間をおかずにSASに復帰している。
 当局が検閲し漏らしたらしい文面も見受けられる。「わたしは、アフガニスタンに入ったら、とくにソ連軍との直接的接触にかかわってはならないと厳命されていた」・・・・命令は組織の構成員であるかぎりにおいて有効なはずだ。してみれば、著者の除隊は、英国政府が(公式には)関与していない、と表向きには弁明するための粉飾にすぎない。

 著者が有能な指揮官であったことは、随所に見てとれる。情勢の全体を掌握する視野、その冷静な分析、付与された権限にもとづく果断な決断、組織的な欠陥を見ぬいて改善のために直言する果断、コミュニケーションがままならぬムジャヒディーンに対してさえ効果的におこなう訓練・・・・著者は年功序列による昇進のなくなった新しい波の一員だったらしい。SASの「変化のプロセスに積極的な影響をおよぼした」と誇りたかく回顧するのももっともだ。
 だが、英国の軍略がめぐりめぐって世界的なテロ拡大を招来した今、著者には別の感想が付けくわわっているはずだ。

□ギャズ・ハンター(村上和久訳)『SAS特殊任務 -対革命戦ウィング副指揮官の戦闘記録-』(並木書房、2000)
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