


①柄谷行人『柄谷行人講演集成1995-2015』(ちくま学芸文庫 1,000円)
②OECD教育研究革新センター編著(本名信行・監訳)『グローバル化と言語能力 自己と他者、そして世界をどうみるか』(明石書店 6,800円)
③デイヴィッド・ブルックス(夏目大・訳)『あなたの人生の意味 先人に学ぶ「惜しまれる生き方」』(早川書房 2,300円)
(1)①に収録された「他者としての物」と題された講演録が面白い。
<私の定義では、他者とは、ヴィトゲンシュタインの言い方でいえば、言語ゲームを共有しない者のことです。彼はその例として、しばしば外国人をあげていますが、精神異常者をあげてもよい。確かに、彼らとの間に合意が成立することは困難です。しかし、まったく不可能ではない。ここで、それがまったく不可能な他者を考えてみましょう。それは死者であり、いまだ生まれざる者です。生きている他者とであれば、いかに文化が異なり、あるいはいくらか正気からかけ離れているとしても、なんらかの合意に至ることがありえないことではない。他方、死者や生まれざる者とは、そのようなことは不可能なのです>
死者や生まれざる者との対話という「不可能の可能性」に挑むことが、過去と未来の歴史に対して責任を負うことなのだ。
(2)②において、次の指摘がなされている。
<言語は、人の認知的発達や対人コミュニケーションに不可欠なものだが、グローバル化によって、異文化間コミュニケーションや世界的なつながりという、さらに高いレベルへとその意味が昇格している。にもかかわらず、言語や言語学習の問題が、グローバル化の重要な要素とみなされることはあまりなく、グローバル化は概して、経済やテクノロジーが動かす現実とみられている。本書は、言語に対するグローバル化の影響は大きく、時に困難を伴うものであること、その一方で、言語や多言語コミュニケーションが、グローバル化や世界全体の今後に寄与することもすでに現実であり、また予測もされていて、その将来的な影響力は、言語のグローバル化の影響と同じく甚大であることを明らかにしてる。>
グローバル化の過程で他者理解に果たす言語の役割は今後ますます大きくなる。
(3)③は、「ニューヨーク・タイムズ」紙のコラムニストによる興味深い人生論だ。
<社会への信頼感は低下している。たとえば、「他人は総じて信用できると思いますか。それと他人と関わる時にはいくら用心しても用心しすぎではないと思いますか。それとも他人と関わる時にはいくら用心をしてもしすぎではないと思いますか」と質問したとする。(中略)1990年代には、いくら用心をしてもしすぎではないしすぎではないと思いますか」と質問したとする。(中略)1990年代には、いくら用心をしてもしすぎではないという人が、信用できるという人より20パーセントも多い、という状況になった。いくら用心をしてもしすぎではないという人が、信用できるという人よりも20パーセントも多い、という状況になった。しかも、この差はまだ広がり続けている。>
社会を強化するためには、人間間の相互不信を脱却しなければならないが、そのためにも言語の機能が重要になる。
□佐藤優「言語の果たす役割の大きさ ~知を磨く読書 第184回~」(「週刊ダイヤモンド」2017年2月4日号)
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