語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】遅読家のための読書術、電気の構造、本屋大賞

2016年06月10日 | ●佐藤優
   
 ①印南敦史『遅読家のための読書術 情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社 1,400円)
 ②森本雅之『交流のしくみ 三相交流からパワーエレクトロニクスまで』(講談社ブルーバックス 900円)
 ③宮下奈都『羊と鋼の森』(文藝春秋 1,500円)

 (1)①は、ビジネスパーソンを想定した優れた読書の指南書だ。「遅読」とは、逆説的な表現で、基本となる本をゆっくり精読することで、多読が可能になり、読書の技法をストックからフローに転換することができる。
 印南氏は、紙媒体とウェブ媒体の書評は本質的に異なると考え、次のように指摘する。
 <紙媒体に掲載される書評の場合、そこには評者の主観や主張が入り込むことが前提となります。評者がその書籍から感じたことを伝え、読者が「この本、読んでみたいな」と感じる。それが、紙媒体における書評の基本的な価値です。
 一方、ウェブメディアの場合、その“あり方”自体が違っている。極論をいえば、ウェブ上のニュースメディアに掲載されるブックレビューに読者が求めるものは、評者の主観ではなく「情報・ニュース」です。つまり、「その記事(書評)を読んで、どれだけ得をしたか」ということがもっとも重要な価値基準なのです>
 その通り。
 ウェブ媒体の書評に引用が多いのは、読者のニーズに応えているからだ。

 (2)電気には直流と交流がある。乾電池は直流で、家庭のコンセントから流れる電気は交流だ。
 ②は、電気の構造に関する基礎知識を得るための好著だ。著者は、電気を理解するコツについて、次のように指摘する。
 <電気が見えているかのように理解することである。電気を見るというのは、実際には見えない電圧や電流のイメージを作るのである。式が出てくると、そのイメージが「どのように変化するのか」というように考える。どうも抽象画の世界を頭の中に描いていたようだ。数学に強い人は、複雑な数式が出てきても頭の中では同じことをやっていると聞く>
 見えない事柄を可視化するという手法は、政治や人間の心理などの分析にも応用できる。

 (3)2016年の本屋大賞は、ピアノ調律師の世界を描いた③だった。
 調律師などの職人の世界では、努力によってある域までは到達できるが、その先は才能になる。
 <努力していると思ってする努力は、元をとろうとするから小さく収まってしまう。自分の頭で考えられる範囲内で回収しようとするから、努力は努力のままなのだ。それを努力と思わずにできるから、想像を超えて可能性が広がっていくんだと思う>
 ロシア語通訳や作家、学者、政治家などを見ていても、才能のある人は、努力をしていると思わずに、自然に、あるいは楽しみながら、継続的に努力をしている。人間には努力を楽しむことができるという才能が備わった人が一部にはいるようだ。

□佐藤優「努力を楽しむ才能がある人 ~知を磨く読書 第151回~」(「週刊ダイヤモンド」2016年6月4日号)
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