語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『珍姓奇名』

2010年05月13日 | エッセイ
 日本人の名字は、十万種もあるよし。宇宙という名字もあって、気宇壮大だが、いくぶん眉唾的な印象を与えて、命名された者も災難だ。
 本書は、簡単には読めない名字や珍しい名字を3千種も紹介し、併せて珍しい地名もとりあげる。
 3部構成である。第1部では、全国的に多い名字2百傑(1位鈴木、2位佐藤、3位田中)をあげ、さらに地域ごとに多い名字を列挙する。出典は電話帳らしい。ちなみに、旅人の本名は37番目に多い名字である。

 第2部が本書の核をなし、珍姓奇名をこれでもか、というほど枚挙する。
 たとえば数字だけの名字。五六(ふのほり)、九(いちじく)、十(もぎき)、百百(どど)、萬(よろず)、エトセトラ。一二三(ひふみ)一二(かつじ)という姓名の方もいらっしゃる。
 かにかくに判じ物めいた名字がずらりと並んで壮観である。
 四月一日(わたぬき)、八月十五日(なかあき)あたりは説明されると納得いくが、小鳥遊(たかなし)、栗花落(ついり)、月見里(やまなし)となると謎々である。鷹がいないがゆえに安心して小鳥が遊ぶ、よってタカナシ。いっせいに栗の花が落ちると梅雨入りする、よってツイリ。山がないから月見ができる、よってヤマナシ。

 第3部は、珍姓、難姓、奇姓をひたすら列挙する。
 軽く書き流しているから、興味半分で読んでも面白いが、じっと眺めつづけていると、言葉に対するいとおしさみたいなものが湧いてくるから不思議だ。日本の各地で伝統ある地名が地名変更されて次第に消滅していく今日、言霊はかろうじて姓に宿って生き延びているのかもしれない。

□佐久間英『珍姓奇名』(ハヤカワ文庫、1981)
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2 コメント

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奇名といえば (趣味の本屋)
2010-02-17 00:09:09
私がときどき参考にしているのは、『どうぶつ学名散策』(小森厚)です。
上野動物園の飼育係長さんだった方の本で、学名のつけ方から、変わった学名まで、いろいろな知識が盛り込まれていて、読んでいてとても楽しいです。
今度私のブログでもご紹介したいと思います。
返信する
『どうぶつ学名散策』 (風紋)
2010-02-18 00:51:33
 動物好きとしては、気をそそられるタイトルです。どんな話が載っているのでしょうか。
 貴ブログにおけるご紹介が待ちきれませんね。
返信する

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