イラク・シリア・イスラムステート、通称イスラム国に渡る欧米人が増えていると言われている。イギリスでは500人は渡ったのではないのかと言われている。アメリかからもかなり渡っているようだ。
宗教上の熱狂と言えばそれまでなのだし、彼らのインターネット上での勧誘活動もスマートで魅力あるものだと言われている。だからこそ戦場へと向かっているのだろう。
欧米諸国では基本的に信教の自由が守られている。だからこそ母国でそんな過激な思想に染まっていても、誰も罰する事は出来ない。テロを起こす準備として違法なものを大量に所持していない限りは、罰する事は出来ない。そしてイラクで戦って来て、こっそり帰って来ても基本的には違法ではない。国によっては自国の兵士と戦ったと言う証明がなされれば、あるかもしれない。
だが武装組織「ダウード旅団」が誘拐したアメリカ人ジャーナリストを、イスラム国が斬首刑にした時から潮目が変わって来たように思われる。この斬首した男がイギリス人だと言われている。
耐え忍んで来たアメリカも、重い腰を上げはじめた。
異民族が宗教上の理由で殺しあうのはよくある話だ。コミュニケーションに障害があるからだ。だが今回はアメリカ人とイギリス人だ。コミュニケーションは不可能ではない。宗教上の理由以外では共通するものが多い。それでも殺した。ということは今後イギリス人ジャーナリストをイギリス人が殺したりするのだろう。
欧米諸国には、宗教戦争と言う悪夢が共通認識にある。魔女裁判から異端迫害もあった。これらの反省が、現在の信教の自由に繋がっている。
なにしろ宗教戦争は単純な宗派の争いのとどまらず、領主の領土拡張の野心やローマの介入、一時的に現れた共和制の村や町、傭兵の問題、ありとあらゆる矛盾が噴出し、互いに殺し疲れるまで続いた。近代への橋渡しにはなったが、それにしても犠牲が大きかった。このため少なくとも同国人同士が、宗教を理由に殺しあうのは禁止になったものだ。
もちろんそれでも宗教差別などはまだ残っている。アメリカでは911の直後のイスラムへの禁避が起きた。しかし国家としては差別的な対応はとれない。このイラクやシリアで戦っている同国人が帰って来た時には、受け入れなければいけない。本当ならパスポートを無効にする処置をとりたいのだが、密かに渡った人たちの足取りを掴むのは容易ではない。今回のようにアメリカ人を殺したイギリス人が完全に特定されれば、殺人罪を理由にパスポートを無効にして帰って来れないように出来るかもしれない。その前に偽装パスポートを使われたらどうしようもない。
アメリカやイギリスは、彼らが帰って来てテロリストになる事を怖れている。確かにそうなのだが、それ以上にもっと厄介な問題がある。
先の「ダウード旅団」だが、本来はシリアの穏健派武装勢力だった。それがどうもイスラム国が有利と見て、寝返ったという説がある。そしてその際にイスラム国への忠誠の証として、斬首が行われたと言うものだ。この説は実はそんなに不思議ではない。現実にシリアの中の武装勢力は離合集散を繰り返しているようだ。シーアとスンニの戦いでもあり、市民の反撃でもあり、部族闘争の色も見せているからだ。上位のものへの手みやげは欠かせない。
そう考えてみると、なぜアメリカ人をイギリス人が殺したのかという背景があるように感じる。そのイギリス人に対して忠誠を見せろと言う事なのだろう。そう言えばレバノンからの移民でオーストラリア人が、自分の子供にシリア国軍の兵士の生首を持たせた写真をネットに掲載していた。この彼はどうも頭のおかしな人のようなので何とも言えないが、彼の友人までもが首を持って写真を撮ってネットに出していたようだ。
イニシエーションの可能性、通過儀礼の何かを感じている。母国に帰れなくするために、進んで行わせているように感じる。またこうした写真をネットで公表することで、躊躇していた人たちを呼び寄せる効果も狙っていると思う。
だが最も問題なのは、イスラム国がカリフ制復活を唱えている事だ。カリフ制はムハンマド亡き後に教団を支えるために、「ムハンマドの代理人」としてウラマー、宗教指導者と訳すべきだろうか、の調停役として振る舞う最高の権威だ。そして初期続いていた部族抗争での、教団最高指揮官でもある。このカリフ制がうまくいったかと言えば、シーア派を生み出した元凶でもある。ムハンマドほどの指導者はいない。誰がなろうと火種が残るわけだ。
中期から王朝的に移行するのは拡大期から安定期に入ったというのが大きいだろう。だがそうなるとやはり反撥もあるものだ。それがずっと続いて最後にカリフ制は廃止された。カリフに相応しい人がいなくなったというのが大きい。特にカリフはクライッシュ族出身でなければいけないという原則がある。それ以外の人がなった場合、簒奪者と言われかねない。トルコのスルタンのように強大であったからこそその批判を封じ込める事が出来たが、現在のイスラム国のカリフ制は他のスンニ派から認められていない。異端のカリフだ。
このイスラム国に忠誠を誓った、この外人部隊はどうなるのだろうか。イスラムの名を借りた民族紛争とすれば、イスラム国が完成した暁には、彼らは徐々に排斥されて行くのではないのか。
そもそも彼らの言う「堕落した国」から来たものには正統性がないのだ。出世の見通しも、よほどの技術者でない限り暗いだろう。安定期には違う原理が働くのだ。アフガニスタンでは違ったからここも大丈夫だろうか。全く違う。アルカイダはそもそも外人部隊だった。トップのビン・ラディンはサウジアラビア人だ。彼らは公正に振る舞わなければ正統性がなかった。だからそうしたのであって、シリアやイラクではかなり毛色が違う。剥き出しの権力闘争になっている。その中で残れるのか?カリフ制を言い出した時点で、単なる独裁政権になると予想するべきだろう。
そうしてイスラム国から出て行かなければいけなくなり、映像に残ったものは特定されて本国に戻れなくなり、特定されなかったものも疑いがあれば監視される生活を送る事になるのではないか。イスラム世界をさまよう事も考えられるが、アルカイダから見ても異端な彼らを受け入れてくれる所はあるのだろうか。更に異端なポゴ・ハラムだろうか。戦闘が続いても、前線に向かわされ、生き残ったとしても紛争の地でしか生きられなくなるだろう。平和な所では彼らを受け入れてくれる所はないのだ。あったとしても、「英雄」ともてはやされ、監視がつくだろう。そして「英雄」はあっという間に「次の英雄」に抜き去られてしまうだろう。
そして何も残らないのだ。
彼らは神のために戦って死ぬ事ばかりを考えているのだろう。だが万が一生き残った場合、本国に帰ってジハードを起こすとかテロを起こすとか、そういった輝かしい未来はあるのだろうか。
ジハードは聖戦とも訳されているが、本来は「耐え忍ぶ事」だ。異教徒達とは出来る限り争わない、そしてどうしても我慢出来ない場合ににのみ認められているのが「聖戦」だ。それが多少の色の違いがあるからと言って、イスラムの中で争っている。
子供に首を持たせた男はおかしい人だが、その無邪気さに暗い未来が見えるのは、私だけだろうか。
宗教上の熱狂と言えばそれまでなのだし、彼らのインターネット上での勧誘活動もスマートで魅力あるものだと言われている。だからこそ戦場へと向かっているのだろう。
欧米諸国では基本的に信教の自由が守られている。だからこそ母国でそんな過激な思想に染まっていても、誰も罰する事は出来ない。テロを起こす準備として違法なものを大量に所持していない限りは、罰する事は出来ない。そしてイラクで戦って来て、こっそり帰って来ても基本的には違法ではない。国によっては自国の兵士と戦ったと言う証明がなされれば、あるかもしれない。
だが武装組織「ダウード旅団」が誘拐したアメリカ人ジャーナリストを、イスラム国が斬首刑にした時から潮目が変わって来たように思われる。この斬首した男がイギリス人だと言われている。
耐え忍んで来たアメリカも、重い腰を上げはじめた。
異民族が宗教上の理由で殺しあうのはよくある話だ。コミュニケーションに障害があるからだ。だが今回はアメリカ人とイギリス人だ。コミュニケーションは不可能ではない。宗教上の理由以外では共通するものが多い。それでも殺した。ということは今後イギリス人ジャーナリストをイギリス人が殺したりするのだろう。
欧米諸国には、宗教戦争と言う悪夢が共通認識にある。魔女裁判から異端迫害もあった。これらの反省が、現在の信教の自由に繋がっている。
なにしろ宗教戦争は単純な宗派の争いのとどまらず、領主の領土拡張の野心やローマの介入、一時的に現れた共和制の村や町、傭兵の問題、ありとあらゆる矛盾が噴出し、互いに殺し疲れるまで続いた。近代への橋渡しにはなったが、それにしても犠牲が大きかった。このため少なくとも同国人同士が、宗教を理由に殺しあうのは禁止になったものだ。
もちろんそれでも宗教差別などはまだ残っている。アメリカでは911の直後のイスラムへの禁避が起きた。しかし国家としては差別的な対応はとれない。このイラクやシリアで戦っている同国人が帰って来た時には、受け入れなければいけない。本当ならパスポートを無効にする処置をとりたいのだが、密かに渡った人たちの足取りを掴むのは容易ではない。今回のようにアメリカ人を殺したイギリス人が完全に特定されれば、殺人罪を理由にパスポートを無効にして帰って来れないように出来るかもしれない。その前に偽装パスポートを使われたらどうしようもない。
アメリカやイギリスは、彼らが帰って来てテロリストになる事を怖れている。確かにそうなのだが、それ以上にもっと厄介な問題がある。
先の「ダウード旅団」だが、本来はシリアの穏健派武装勢力だった。それがどうもイスラム国が有利と見て、寝返ったという説がある。そしてその際にイスラム国への忠誠の証として、斬首が行われたと言うものだ。この説は実はそんなに不思議ではない。現実にシリアの中の武装勢力は離合集散を繰り返しているようだ。シーアとスンニの戦いでもあり、市民の反撃でもあり、部族闘争の色も見せているからだ。上位のものへの手みやげは欠かせない。
そう考えてみると、なぜアメリカ人をイギリス人が殺したのかという背景があるように感じる。そのイギリス人に対して忠誠を見せろと言う事なのだろう。そう言えばレバノンからの移民でオーストラリア人が、自分の子供にシリア国軍の兵士の生首を持たせた写真をネットに掲載していた。この彼はどうも頭のおかしな人のようなので何とも言えないが、彼の友人までもが首を持って写真を撮ってネットに出していたようだ。
イニシエーションの可能性、通過儀礼の何かを感じている。母国に帰れなくするために、進んで行わせているように感じる。またこうした写真をネットで公表することで、躊躇していた人たちを呼び寄せる効果も狙っていると思う。
だが最も問題なのは、イスラム国がカリフ制復活を唱えている事だ。カリフ制はムハンマド亡き後に教団を支えるために、「ムハンマドの代理人」としてウラマー、宗教指導者と訳すべきだろうか、の調停役として振る舞う最高の権威だ。そして初期続いていた部族抗争での、教団最高指揮官でもある。このカリフ制がうまくいったかと言えば、シーア派を生み出した元凶でもある。ムハンマドほどの指導者はいない。誰がなろうと火種が残るわけだ。
中期から王朝的に移行するのは拡大期から安定期に入ったというのが大きいだろう。だがそうなるとやはり反撥もあるものだ。それがずっと続いて最後にカリフ制は廃止された。カリフに相応しい人がいなくなったというのが大きい。特にカリフはクライッシュ族出身でなければいけないという原則がある。それ以外の人がなった場合、簒奪者と言われかねない。トルコのスルタンのように強大であったからこそその批判を封じ込める事が出来たが、現在のイスラム国のカリフ制は他のスンニ派から認められていない。異端のカリフだ。
このイスラム国に忠誠を誓った、この外人部隊はどうなるのだろうか。イスラムの名を借りた民族紛争とすれば、イスラム国が完成した暁には、彼らは徐々に排斥されて行くのではないのか。
そもそも彼らの言う「堕落した国」から来たものには正統性がないのだ。出世の見通しも、よほどの技術者でない限り暗いだろう。安定期には違う原理が働くのだ。アフガニスタンでは違ったからここも大丈夫だろうか。全く違う。アルカイダはそもそも外人部隊だった。トップのビン・ラディンはサウジアラビア人だ。彼らは公正に振る舞わなければ正統性がなかった。だからそうしたのであって、シリアやイラクではかなり毛色が違う。剥き出しの権力闘争になっている。その中で残れるのか?カリフ制を言い出した時点で、単なる独裁政権になると予想するべきだろう。
そうしてイスラム国から出て行かなければいけなくなり、映像に残ったものは特定されて本国に戻れなくなり、特定されなかったものも疑いがあれば監視される生活を送る事になるのではないか。イスラム世界をさまよう事も考えられるが、アルカイダから見ても異端な彼らを受け入れてくれる所はあるのだろうか。更に異端なポゴ・ハラムだろうか。戦闘が続いても、前線に向かわされ、生き残ったとしても紛争の地でしか生きられなくなるだろう。平和な所では彼らを受け入れてくれる所はないのだ。あったとしても、「英雄」ともてはやされ、監視がつくだろう。そして「英雄」はあっという間に「次の英雄」に抜き去られてしまうだろう。
そして何も残らないのだ。
彼らは神のために戦って死ぬ事ばかりを考えているのだろう。だが万が一生き残った場合、本国に帰ってジハードを起こすとかテロを起こすとか、そういった輝かしい未来はあるのだろうか。
ジハードは聖戦とも訳されているが、本来は「耐え忍ぶ事」だ。異教徒達とは出来る限り争わない、そしてどうしても我慢出来ない場合ににのみ認められているのが「聖戦」だ。それが多少の色の違いがあるからと言って、イスラムの中で争っている。
子供に首を持たせた男はおかしい人だが、その無邪気さに暗い未来が見えるのは、私だけだろうか。